切り札・・・(2)


おおよそ普通の生活をしていそうもないような人も時々やって来る。
不思議なことに、そんな人を会社は無碍に扱えない時もあるらしい・・・・。

その人にお茶を出す羽目になってしまった。
恐る恐るドアを開け、挨拶をしてお茶を置き、礼をして下がろうとした、その時。

「じょうちゃん、・・・・・・・・・、おいちゃんに、ねぶらして。」

「???????????」  私、もう、真っ赤!!
急いでドアを閉め、湯沸かし室に走り込む。
ドキドキが収らない。
沸々と怒りがこみ上げる。 「あの、ヒヒ親父!!」心の中で叫ぶ。


もう、二度とごめんだと思っていたのに、私は何故か度々その男の接待に当たってしまった。
なんでも、大きな組織のトップだというその男は部下を伴ってはやって来た。

「おお!じょうちゃん、おいでぇな。」と上機嫌の時もあり、部下(?)をこっぴどく叱りつけている時もあった。
「おお!この子やがな、な! ○○んとこの△△に似とるやろ。」とその場に居合わせた仲間(?)に紹介(これまた?だ。)された事もあった。

そうこうしているうちに私はじょうちゃんではなくなった。結婚したのだ。
おいちゃんはそれを知らずにやって来た。
こちらには少し余裕が出てきていた。なにしろミセスなのだから!(うふ。)

「おお!じょうちゃん、久しぶりやったな。元気か?」
(馴れ馴れしいんだよ!ヒヒ親父!)
私はわざと左手を丁寧に添えてお茶を出した。
(結婚指輪が目に入らぬか!!)とばかりに。。。
「お! 結婚したんかい?! じょうちゃん!」
(だから、じょうちゃんじゃないってば、ヒヒ親父のおいちゃん!)

彼は何故か上機嫌で「ほうか、ほうか。」と言いながら鞄から名刺を取り出すと、裏面になにやら書き付けると、小さな封筒のような物に入れて封をして、
「じょうちゃん、祝いじゃ!」と差し出した。

思わず後ずさりして首を横に振る私になおも近づいてくる。
そして、手を取ると、しっかりと封筒をにぎらせながらこう言った。

「怖いおっちゃんに逢うたらな、これを見したらええ。切り札や!!わははは!」
長居は無用だ。愛想もコイソもなく、「失礼します。」と言ってドアを閉めた。
(ばかばかしい。何が切り札よ!)そんな思いと一緒にすぐさまゴミ箱に捨てた。

その後、何年かしてニュースでヒヒのおいちゃんが逮捕された事を知った。
おいちゃんの切り札は警察では通用しなかったらしい。


それにしても、あの切り札には何が書いてあったんだろう?
今の私なら、中を開けて読むくらいの好奇心はあるんだけどな!



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