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モブヨシはかつて、歌舞伎町のホストクラブで名を馳せた男だった。端正な顔立ちと流暢なトークで、多くの客を魅了し、シャンパンタワーの中心に立つことも珍しくなかった。しかし、年齢を重ねるにつれ、夜の世界は次第に彼を押し流していった。若い頃のような体力も気力もなくなり、気づけば店を辞めていた。
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ホスト時代の人脈を頼りに、いくつかの仕事を紹介してもらったが、どれも長続きしなかった。営業、イベント運営、飲食店の手伝い――どれもモブヨシの手にはなじまず、結局、気がつけば無職に戻っていた。何度か繰り返すうちに、紹介してくれる人すらいなくなり、貯金も底をついた。
外食をする余裕もなくなった彼は、コンビニ弁当やカップラーメンで空腹を満たす日々を送っていた。しかし、ある日、たまたま立ち寄ったリサイクルショップで見つけた「七輪」が、彼の生活を変えることになる。
BUNDOK|バンドック 俺用七輪 BD-384。
その無骨な見た目に惹かれた。小さく、シンプルで、まるで今の自分のようだった。価格も手頃だった。これさえあれば、安い肉でも旨く焼けるかもしれない。そう思い、手に取った。
その夜、モブヨシは初めて七輪を使った。
炭に火をつけると、ぱちぱちと静かに燃える音がした。ホスト時代の喧騒とは正反対の、穏やかで落ち着いた時間が流れる。七輪の上には、スーパーで買った豚バラ肉と、半額シールが貼られたエリンギ。シンプルな食材だったが、炭火で焼いたそれは、驚くほど香ばしかった。
一口食べると、口の中に広がる脂の甘み。思わず「うまいな……」と呟いた。
ビールを一口。炭火で焼いた豚バラの脂と、キンと冷えた苦味が、絶妙に合う。
気づけば、静かな夜の中で、自分だけの時間を楽しんでいた。ホスト時代のような華やかさはない。シャンパンタワーも、賑やかな音楽もない。でも、七輪の前で静かに肉を焼き、酒を飲む時間は、思いのほか心を満たしてくれた。
派手な世界で生きたからこそ、静かな時間の贅沢さに気づけたのかもしれない。
「俺用七輪」――それは、モブヨシにとって、失ったものを取り戻すための相棒になった。
七輪は、ただの調理器具ではない。
自分だけの時間を、大切にするための道具だ。

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