[ボケていても親心]
時々アルツハイマーのおばぁさんが来る。
年の頃80歳くらい。
来たら2時間ばかりいる。
息子さんから頼まれている。
「親父が死んでからあんな風になりました。失礼な事があるかもしれませんが
許してやって下さい」
そう言ってケーキをたくさん下げてやってきた。
私は許す事など何もない。
ただ許せない事といったらあんな親孝行の息子さんの悪口ばかり言う事だけ。
私は3年もの間おばぁさんに説教をし続けた。
「おばさん、あんないい息子さんの悪口を言ったらダメよ」
しかし、ある日ふと気がついた。
息子の悪口は「罵辞雑言」という言葉が当てはまるくらい言うのに
孫と嫁の事は褒めて褒めて・・目を細めて言うのだ。
ボケているから駆け引きで言っているとは思えない。
私は息子さんの悪口を同じように言ってみた。
おばぁさんの顔が少し険しくなった。
「あぁ、そうか、息子を褒めたいけれど親の自分が褒めてはいけないと
思っているんだ」と気がついた。
そしてまた息子さんを褒めちぎった。
おばぁさんは満足そうにニコニコしながら
「いいえぇ、あの子はそんな立派な子ではありません。
腕白坊主で年がら年中謝って歩いていたんですよ。
あんな不出来の息子にあんなかわいい優しい嫁が来てくれるなんて。
それにあんないい子を生んでくれるなんて仏様に感謝しているのですよ」と言った。
なんだ、ボケてないじゃない!
ただちょっと息子の事が心配だったから、他人がどう思ってくれているのか
知りたかったから、悪口を言っていただけじゃない。