クッキーのおうち

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ないしょ話3

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ないしょ話3

江戸っ子チャキチャキおばあちゃんのお話




 これは今でも時々思い出す、後悔というか心に引っかかっているお話です。
私が東京の下町にある病院に勤務していたときの事です。
そのおばあちゃんは80歳を過ぎた小さなおばあちゃんでした。おばあちゃんはお嫁に来てからずーっとその町で生きてきたそうです。髪の毛はパーマでラメのバレッタをつけていて、かっこいいスパッツなんて履いています。お化粧もしてマニキュアなんかも塗っていて、「おまえさんは、、」なんて言って、これぞ江戸っ子という印象のおばあちゃんでした。
 おばあちゃんはよくお酒を飲み、煙草もよく吸って、腎臓も肝臓も肺もみーんなあちこち弱っていました。なかでも悪さをしたのは糖尿病でした。頑固者のおばあちゃんは「しゃらくさい!」なんて言っちゃって病院には来ませんでした。でもどうにもこうにも足が痛くって歩けなくなって、孫に抱っこしてもらって渋々病院に来たのです。病名は糖尿病性壊疽。糖尿病の人は病気の影響で、ちょっとした傷から化膿してしまい治り難くなることがあるのです。そのひどいものが壊疽(えそ)です。放って置くとどんどんひどくなり腐っていき、しまいには炭のようになります。そして、そこだけに留まらずその悪いものが体の中にどんどんひろがってしまい命にかかわる事もあるのです。
 おばあちゃんの左足は、指の先が炭になり始めていました。命を守るため、
ひざの上であしを切断する事になりました。おばあちゃんは嫌がりましたが、家族の方たちは、おばあちゃんに生きて欲しくて、おばあちゃんを説得して、切断したのです。手術のあと、おばあちゃんはすっきりした顔で「まあ、しあないか」と言いました。その後、起き上がれるようになったので、元気なほうの右足をバケツのお湯につけ「おふろだよ」というと、「生まれてずーっとお世話になってきたんだから、こっちは大事にしてやらなくっちゃね。」といって笑いました。その後は順調で、隠れて煙草を吸って、ナースに説教されても知らん顔をするほど元気になり退院も間近になった頃、肺炎をおこし、あっという間に危篤状態になりました。「何がしたい?」と聞くと、またおぶって外に連れて行って欲しいと言います。前に私がおばあちゃん小さいからと、おんぶでテラスに散歩に行ったとき、とてもうれしそうでした。それを思い出してくれていたのでしょう。でも、酸素マスクもしていてつらそうで、「もう少しよくなったらいこうね。」と返事をしました。その後、2日間休みで、出勤するとおばあちゃんの命の灯はもう消えかけていました。私はおばちゃんの小さな望を叶えて上げられなかったのです。死に化粧をしながら、「ごめんね。」と言うのが精一杯でした。お迎えの車がきて病室のそとに出て、窓からおばあちゃんの生きてきた下町の景色が見えました。「おばあちゃん、見える?」

 今、おばあちゃんは空から町をみているのでしょうか。私はあの時、どうしてすぐにおんぶして連れて行ってあげられなかったのでしょうか。
 おばあちゃんとテラスに行って、東京のどんよりとした空を見ていたのを思い出します。おばあちゃんはとてもおいしそうに煙草を吸っていました。





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