名作落語大全集

名作落語大全集

2025.05.12
XML
カテゴリ: 落語
【粗筋】

 ともかくも麦飯が届いたが、肝心のとろろが来ない。「人をバッカランてやがって、馬鹿にするから、下にケンツクを食わせよう」と怒るのを、八五郎が、「寄り合いで手が回らないんだろう。催促するのは野暮だから、トロのつく唄で催促しよう」と言って、そのように相談がまとまった。八五郎が甚句で、
「♪とんとんチリチリツンテントン、泊まり合わせしこの家の二階、麦の馳走はよけれども、何もなくては食べられぬ。何で食べよこの麦を、押してけ持ってけ三段目」
 とやったが、「押してけ持ってけ」が悪く、せっかく来掛かったのが戻ってしまう。それではと婆さんが昔取った杵柄、巫女の口寄せを始める。
「慈悲じゃ情けじゃお願いじゃ、どうぞ宿屋の女子衆よ、とろろ手向けて下さりませ」
「縁起でもねえ、手向けられてたまるか」
 というので中止、大阪者が浄瑠璃を始める。
「♪麦の馳走はよけれども、おかず無うては食べられぬ。オオオオ」
 と泣き出したので、関取が大笑い。実は祭文語りだが、前の宿に法螺貝と錫杖を忘れたので、恥ずかしいから関取と嘘をついていたとのこと。口だけで祭文が始まる。

 とやると、主人がすり鉢を持ってきて、
「とろろん、とろろん」


 大阪の音曲噺。主人が下から「出られん、出られん」と答えて落ちとし、「出られん」という題でも演じられる。

【一言】
 巫女の口寄せは、「そもそも慎み敬って申し奉るは、上に梵天、帝釈、四大天王……」と神仏の名を唱えて死者の霊を呼び出すもの。「とろろを手向けて下さりませ」は乗り移った亡者の言葉のもじり。祭文語りは、浪花節の原型で「デロレン左衛門」とも呼ばれた。その「デロレン」と「とろろ」を掛けたのが落ち。祭の時に独特の節回しで神仏に報告する役割を担っていたが、山伏が法螺貝と錫杖を伴奏にうたい歩いて全国に普及した。これが芸能化して唄祭文となり、幕末に浪花節となった。

 桂小南(1)が古い型を復活している。隣の大尽風を吹かせる男客への当て擦りとして謎掛けで嫌がらせをする。その後、祭太鼓の合いの手でとろろを催促すると、隣で大尽が「テントロロン」と頬かぶりでひょっとこ踊りを踊っていたという落ちになる。(撰者)

【蘊蓄】
 毬子は東海道20番目の宿、現静岡市の一部。名物の「とろろ汁」は、自然薯のとろろを味噌で溶いたものを麦飯にかけて食す。
  梅若葉毬子の宿のとろろ汁 (芭蕉)








お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2025.05.12 05:20:02
コメント(1) | コメントを書く


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約 に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、 こちら をご確認ください。


Re:落語「と」の86:とろろん(05/12)  
名無し さん

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

Keyword Search

▼キーワード検索

Profile

越智 健

越智 健

Favorite Blog

三之助をみたかい in… ざび88さん

2004~2013 佐藤晋さん
大栗のネタ帳 大栗之真さん
山口良一的ココロ あほんだらすけさん
毎日を楽しもう KYMさん

Comments

ヌ−ベルハンバ―グ@ Re:落語「ね」の14:猫忠(ねこただ)(09/24) 初めてコメントさせ頂きます。 六代目・三…
名無し@ Re:落語「と」の86:とろろん(05/12) 「デロレン左衛門」は「デロデン祭文」では…
モルモタマ@ Re:65:油屋猫(あぶらやねこ)(10/21) これは小咄で、桂米朝が小咄ばかりを演じ…
背番号のないエース0829 @ 日比谷公園 「日比谷焼き討ち事件」に、上記の内容に…
http://buycialisky.com/@ Re:土日の予定(12/13) cialis soft tv commercialscialis for sa…

Freepage List


© Rakuten Group, Inc.
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: