| |
|---|
| 新しい生命が誕生する病棟、赤ちゃんの泣き声と家族の笑顔があふれる病棟、それが産科病棟。 でも一方で、流産になった人、死産になった人、不妊治療をする人・・・。 小さな赤ちゃんや障害のある赤ちゃんを生み、自責の念にかられる人・・・。 せつない思いで過ごしてる人がたくさんいる病棟でもある。 そして助産婦もその1人。 時にせつない思いを抱えながら、仕事をしなければならない。 死産証書を手渡す時、メモルは一番つらい。 妊娠12週以降の流死産では必ず死産届けを役所に出し、埋葬許可書をもらってきてもらわなければならない。 赤ちゃんを亡くして、悲しい思いをしているママやパパに事務的手続きを説明しなければならない。 「看護婦は患者が死んでも泣かない。」「人が死ぬということに慣れている。」 なんて言われてることも多い、この職業。 ほんとは家族と同じくらい悲しい思いをしているのに・・・。 だけど、そう思われてもしょうがないのかな。 涙涙のママやパパを励ましたり、ちょっと離れた場から落ち着くのを見守る。 しばらくして落ち着いたと思ったら、次にしなければならないのは死産証書の手渡し。 さっきまで一緒に悲しんでくれてた助産婦が次は事務的に話をしてくる。 「なんて切り替えの早いっ!」 そう思われてもしょうがない・・・。 妊娠12週以降の赤ちゃんは、もう誰が見ても人間の形をしている。 万が一、その赤ちゃんをそのへんにポイッと捨ててしまうようなことがあったら・・・、 それは「死体遺棄」という罪になる。だから必ず埋葬しなければならない。 それは分かってるんだけど・・・。 役所はどこどこにあります、とか、24時間受付の窓口です、とかとか。 きちんと伝えなければならないことはいっぱいある。 つらい思いをしているママやパパの気持ちをさらにつらくさせてることだろう。 現実と法律の狭間で、心は揺れる・・・。 ある日、初めて死産の分娩についた若い研修医の先生がカルテを書きながら、こう言った。 「私、ろくな死に方しないんだろうなぁ・・・。」 「なんで?」と聞くと、 「だってあの時、このお産を早く終わらことに必死で お母さんのことも赤ちゃんのことも考えてあげられなかったよ・・・。 なんか今になってせつないよ・・・。」 そうだね・・・、そうかもね・・・。 でも大丈夫、そのことに気づけた先生はきっといい先生になれるよ。 メモルはそう思った。 ところでメモルは自分がついたお産でなくても、 亡くなった赤ちゃんに必ず会ってあげるようにしている。 亡くなった赤ちゃんは病棟の奥の方にある、普段はあまり誰も行かない場所に安置される。 メモルはそこまで会いに行く。 だって、その赤ちゃんはもっともっとたくさんの人に出会えるはずだったんだから。 たくさんのお友達ができて、恋人なんかもきっとできたりするだろうな。 ゆくゆくはきっと子どもを持ったりもするはずだったんだから。 家族とお産についた医師、助産婦だけにしか会えないなんてさみしすぎるもんね。 確かにこの世に生まれた生命だったこと、メモルも決して忘れない。 赤ちゃんの泣き声と家族の笑顔があふれる病棟だからこそ、 せつない思いは、よりせつないものになる。 だけど、メモルはやっぱりこの産科病棟が好きだな。 言葉ではうまく伝えられないかもしれないけど、素敵な場所なんだ、とっても。 これからも頑張るぞっ!おーっ! |


![]()