太っ腹母ちゃんのボコボコ日記

太っ腹母ちゃんのボコボコ日記

gravity 4

左手


 静が右側からあたしを追い抜いて、前を歩き出した。
 少し前屈みの背中を見ていると、無理に上げていたテンションがスーッと効果音を伴って落ちていく。

 ママとケンカして落ち込んで。
 一日引きずって静に甘えて。
 誤魔化すためにはしゃいで見せて……。

 バッカみたい。

 見透かされてるに決まってる。
 こんなコドモ、連れて歩くのヤだろうな。
 だけど、優しいから。
「お腹すいた」なんて、あたしが言ったから……。

 鼻の辺りがツン、としてくる。

 大きな背中。
 真後ろに立つと、あたしはすっぽりと隠れてしまいそう。

 ずんずん歩いていく静に、遅れないように小走りになる。

 このまま、はぐれた方がいい?

 一瞬そう考えて、首を横に振る。

 イヤだ。迷惑になったっていい。やっぱり一緒にいたい。

 かすかに前後に振れている手を見つめる。
 あの手をつかむ事が出来たら……。ううん。シャツのひじでもいい。
 もっと近くで歩けたら、それだけでいい。

 辺りが少しづつ暗くなっている。
 黙っているのが苦しい。
 でも、静に釣り合う振る舞いなんて出来ない。

 待って。あたし、どうすればいい?

 静が急に立ち止まった。あたしもつんのめりそうになりながら止まる。

「耀」
 静の左手が差し出される。その手に沿って顔を上げたら、静が困ったように笑っていた。

 この手を、どうすればいいの……?

 戸惑っていると、左手が伸びてきて、あたしの右手をつかんだ。
「暗くなってきたから。迷子になるといけないだろ」

 涙がぽろり、と落っこちた。
 どうしてあたしの欲しいものがわかるんだろう。
 コドモ扱いでもいい。
 ただ、傍にいて欲しい。

「ちょっ、耀、どうした?」
 急に泣き出したあたしに、静は慌てている。

 ごめんね。少しづつ大人になるから。
 今は、これがあたしの精一杯。

「解った。腹減りすぎだな」
 少し意地悪な声で静が言った。
「そんなんじゃないもん」
 涙声で抗議する。
「わかったわかった。もう少し頑張れ」
 そう言うと、静はあたしの手を引っ張って歩き出した。
 何だかあたし、強引に散歩させられてる子どもみたい。
 だけど。
 このまま、どこまでも歩き続けたい……。



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