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★みっちーずらいふ
まいちゃんとの出会い
まいちゃんとの出会い その1(2004年 3月11日の記述)
鹿児島市から車で数時間南へ行ったところに
指宿市という町がある。
2003年6月
沖縄から鹿児島へ移り住んで間のない私達は
そこにある知林ヶ島へ遊びに行こうと計画していた。
そこは、満潮時には島への道が沈む
自然の景観がとても美しい島だという。
2人と1匹でそこを渡るのが楽しみだった。
ゆんたに綺麗な海と景色を見せてあげたい。
彼も私もゆんたも
久々の遠出を楽しみに家を出た。
指宿市に入り目的地までもうすぐだろうかという所で
綺麗な公園を見つけた。
ゆんたが楽しそうに歩くだけで私達は嬉しくなる。
車を降りて少し散歩をした。
ドライブの疲れを癒し、再び車に乗り込もうした時
どこからか小さな声が聞こえた。
それは仔猫の声だった。
小さな声で、それでも必死になって鳴いている。
声の元を探すと満足に歩く事もできない小さな仔猫が鳴いていた。
自分では決して登れないであろう高さの椅子の上で
よたよたと動いていた。
どれだけの時間をここで過ごしていたのだろう?
小さな手が少し冷えていた。
母親を探して鳴き続けていたのだろうか。
かすれた声が痛々しかった。
痩せて汚れた小さな体を抱き上げると
私の手から落とされまいと小さな爪を立てた。
こんなに小さな仔猫が必死になって生きようとしている。
寂しかったね、辛かったね。
声をかけながら抱き寄せると、軽くて、小さくて、
私は、自分の中のどうしようもない感情に逆らえず、涙が溢れた。
今にも死んでしまいそうな仔猫は、私の腕の中で甘えて喉を鳴らした。
抱き上げれば放置する事はできなくなると分かっていたけれど
胸に抱きながらも私達には迷いがあった。
うちにはいたずら盛りのやんちゃなゆんたがいる。
この子を連れて帰っても育てられるだろうか?
ゆんたは突然現れた見慣れない生き物に興奮している。
今にも死んでしまいそうな仔猫とゆんたを
一緒に育てる事などとても不可能に感じた。
だけど、そのままこの小さな仔猫をここに置いて行く事はできない。
何日も前から楽しみにしていたけれど
痛々しい仔猫に出会い、知林ヶ島で遊ぶ気持ちには
もうとてもなれなかった。
私達は小さな仔猫を連れてその公園を後にした。
獣医を探しながら不慣れな土地を車を走らせると
知らない場所ながらも偶然見つける事ができた。
弱っている仔猫を連れて帰るには、いつもゆんたを連れて行く鹿児島市の病院までは
とても待てそうにない。
そこへと駆け込んだ。
診察を受けながら事情を説明し
今できる治療と、里親探しに協力してもらえないだろうかと相談した。
2~3件電話をしてくれたようだったが
どこからもいい返事はもらえなかった。
この時に
自分達で育てる決断をできなかったことが
仔猫と私達の運命を変えた。
獣医から「ここで里親探しをしてくれるから」と
ある施設の名前とその施設の電話番号を書いた紙を受けとった。
全く行った事がない場所を目指してまた車を走らせる事になった。
獣医の診察は、ただれた顔に軟膏を少し塗っただけだった。
忘れられない一日になる事は間違いなかった。
まいちゃんとの出会い その2
(3月12日の日記より)
その後、獣医から受け取ったメモを頼りに
仔猫と私達はその施設を目指した。
脱水を起こしているだろうという事は容易に想像がついた。
ペットショップもなく、衰弱している仔猫に牛乳を与えるわけにもいかない。
車で移動しながらスポーツ飲料を水で薄めたものを飲ませた。
一生懸命に吸い付く小さな顔は汚れ、毛が抜け落ちていた。
お世辞にも綺麗な猫とは言えなかったけれど
小さな腕で私の手に抱き付く姿がいじらしかった。
その施設までの道は
山をいくつも越えるような田舎で
右も左も分からない状態の私達は迷った。
電話で確認しながらやっと
教えてもらった目印となる場所へと辿り着いた。
衰弱した仔猫を心配しながら、迷いながらのドライブに私も彼も疲れていた。
目印となる場所に来れた事で少し安心した。
そこから施設まではすぐだった。
この時まで
仔猫を預かってくれる施設があるのだと
そう、思い込んでいた。
その施設の建物が見えた時に感じた気持ちを
何と表現したらいいのだろう。
嫌な予感がした。
車の音を聞いて
白い服を着た施設の職員が建物の中から出てきてくれた。
少し話をしただけで
自分達がどこに来てしまったのかをすぐに理解した。
そこは
不要動物の殺処分場だった。
建物の中から複数の犬の鳴き声が聞こえる。
頭を何かで殴られたようなショックを受けた。
言葉にならなかった。
私達の前に
「決別をするならこれに記入して下さい」
と無造作に紙が置かれた。
書かれている内容を読む事もできず
可愛く書かれた動物のイラストだけが今でも悲しく記憶に残っている。
ここに連れて来られた犬には数日間の猶予しかない。
猫は新しい飼い主を待つ事も許されず
当日か、来た翌日には殺処分されるという。
私達は仔猫の里親を探すために、慣れない道に迷いながら
仔猫をいたわりながら来たはずだった。
辿り着いたところがなぜここなのだろう。
あのメモを渡した時の獣医の顔が浮かぶ。
喋る事もできない私に手を添えながら
「帰ろう。」「連れて帰ります。」と彼が言った。
差し出された紙をそのまま返すと、その人は
「したくてこんな事をしてるわけじゃないんだよ
それが自分の仕事だから仕方ないんだよ」と、話した。
この人にとっても辛い仕事なのだろう。
この人が悪いわけではない。
建物の中から
飼い主を呼ぶように、悲しい声がずっと
ずっと聞こえている。
自分のどこからそんなに涙が出るのかと思う程
子供のように泣いた。
あんな紙切れ一枚で今日もここで犬や猫の命が絶たれている。
理不尽に命を絶たれようとしている犬達の悲痛な声が
私達の耳へと聞こえてくる。
だけど、あそこで今鳴いている犬達を、救う事ができない。
「大切に育ててあげてね」という言葉にうなづきながらも
うつむいたまま顔を見る事ができなかった。
少しでも早くその場所から立ち去りたかった。
車に乗り込むと
後ろのシートのゆんたは体を起こし
あどけない表情で私達を見た。
私達の可愛いこのゆんたと
あそこで悲しい声をあげる犬達の命に
どんな違いがあるのだろう。
辛かった。
聞きたくない一心で、車の窓を急いで閉めた。
施設の方が私達の車を見送っているのが見えたけれど
逃げるように立ち去る事しかできなかった。
仔猫は何も知らず、私の腕の中で安心したように眠っている。
ハンドルを握る彼に話しかけようとした時
知り合ってから初めて、彼が泣いているを見た。
沈黙のままぼんやりと、外を流れる景色を眺めていると
田舎の綺麗な新緑の風景がずっと続いている。
普段ならこんな綺麗な緑を彼と見られる事が嬉しい。
何も変わらないと思っていた日常の中に
自分達が知る事のなかった現実があったのだと思い知らされた気がした。
あの施設に行ってしまった事が悲しくないはずはなかった。
無言でハンドルを握る彼にかける言葉も見当たらず
「ごめんね」と謝ると彼は
「謝る事なんてないよ」と
泣いた顔のまま静かに笑った。
二人で仔猫の名前を考えながら、私達の住む街へと帰った。
あれからもう随分時間が経つけれど、まだ知林ヶ島へは行った事がない。
大きくなったまいちゃんは、自分の生まれた町をもう忘れてしまっただろうか。
もう少しで、まいちゃんの生まれた季節が来る。
生まれてきて良かったねと
これからも、この先もずっと、みんなで祝おうと思う。
2004年 3月12日
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