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イン ワンダーランド -7



落ちる感覚で私はやってきた。やってきた瞬間に違和感がある。この景色は見覚えがある。石畳の街。なんだか全体的に暗く感じる。私は時計を取り出した。8時。かなり時間が過ぎてしまった。
0時まで後4時間。
私は後、ジャックとシロウサギを探して連れて行かないと行けない。見渡すと8時というより夜中のように感じてしまう。私は歩き出した。誰も歩いていない。私はこの世界に来た時に出逢った人を思い出していた。見慣れた家に着く。インターフォンを鳴らした。
奥から声が聞こえてくる。出てきたの少し明るい茶色の髪。肩ぐらいの長さ。大き目の目は少し猫みたいでかわいい感じ。左小指の王冠をイメージした指輪をしている女性だ。
彼女に私は『イズミ』と名前をつけたのだ。ただ、前と違っていたのは『イズミ』の体が半透明になっていたことだった。イズミが話しかけてきた。

「アリス、会いたかったよ。この世界がスペードの世界がまたおかしくなったの」

私はイズミの体を見ながら思っていた。イズミの肩に触れてみる。感触はある。けれどあわあわになった石鹸をさわっているみたいになんともいえない感覚だった。イズミが話し出す。

「私たちはジャックに影を奪われたんだ。だから体の半分がなくなってみたいになっている。アリスの影は大丈夫?」

私はそう言われて足元を見た。いつも影からチェシャが出てきてくれていた。足元をみると影がなくなっていた。私は不安になった。手を見る。透明になっていない。イズミが話してくる。

「大きな館にもう一人だけ半透明になっていない人がいるの。ここをでて言った所にある館よ。前に教えて方じゃないね」

イズミはそう教えてくれた。そこは確か「エトワール」が居たところだ。私はイズミに「ありがとう」って伝えて館へ向かった。

館についた。インターフォンを鳴らした。返事と共に出てきたのは少し華奢で髪は後ろに束ねられていた可憐な女性。
そうエトワールだった。エトワールも体は半透明だった。エトワールは話して来た。

「アリス、会いたかった。さあ、中に入って」

そう言って、ダンスレッスンのところと思われる壁が一面鏡の部屋に入った。
私は鏡に映る自分を見て思っていた。少し長い髪の毛がぼさぼさになっていた。エトワールが話して来た。

「髪が気になるの?私のシュシュで良かったら使って」

そう言ってエトワールが出してくれた赤いシュシュで髪を束ねた。私はその時鏡越しに映っている一人の人物を見てビックリした。そう、そこに居たのはダイアの世界でもクラブの世界でも出会った男の子。半透明になっていない、ジャックがそこに居たからだ。

ジャックが話して来た。

「アリス、すまない。体を奪われてしまった。『彼女』に」

私は何度か聞くこの『彼女』という響きが気になっていた。私はジャックに聞いた。

「彼女って一体誰なの?」

ジャックは私に向かって応えてくれた。

「彼女は***だよ」

音にもならず消えていった。名前を奪われている。私がまだ出会っていなく名前をつけていない人。そして、名前以外で呼べない人でもある。女王、ジャック、キング、シロウサギ。名前じゃなく呼べる人もいるけれど、『彼女』は呼べないことが解った。悩んでいる私にジャックは話しかけてきた。

「『彼女』はこの『ワンダーランド』を歪ませている人物だよ。『彼女』が現れてから全ては狂い始めたんだ。すでに『アリス』の刻印が押されたこのスペードの世界で『アリス』の刻印の上から更なる刻印を押したんだから」

ジャックの言葉はよくわからなかった。ただ、このままじゃいけないということだけは解っていた。ジャックは私を見てこう言って来た。

「このスペードの世界を元に戻すには光が必要なんだ。影が生まれるためには光が必要だからね。アリス。このスペードの世界の試練を受けてくれないか?」

ジャックがそう言ってきた。奥でエトワールが祈るように私を見ている。私はこくりと頷いた。ジャックが話す。

「私も出来なかった試練。その先に無敵の太陽『ソル・インウィクトゥス』がある。行こうか。
惑わしの洞窟に」

私はその先が『終わりの始まりの塔』だと思っていた。けれど違っていた。

森を抜けて少し歩いたところにその『惑わしの洞窟』はあった。着いたのは岩肌に鉄の扉がある場所。試練の場所というわりに意外とすぐ来られたことにびっくりした。もう少し奥まった場所にあるのかと思っていた。私はジャックに聞いてみた。

「試練ってどんな試練なの?ジャックも受けたんでしょ?」

私は聞いてみた。知っている方が安心できるから。でも、ジャックは首を横にふりながらこう言って来た。

「チャレンジしたことは覚えている。けれど追い出されたことは覚えているが中での出来事は覚えていない。ただ、チャレンジは1回だけしかできない。二度目はないんだ。何人もの騎士が挑戦をしたが誰も手に『無敵の太陽』を『ソル・インウィクトゥス』を手にしてきたものはいなかった。アリス。チャンスは一度だけなんだ。忘れないでね」

私はこくりと頷いた。時計を見る。9時になろうとしている。急がなきゃ。私は鉄の扉を開けて中に入った。入ったらすぐに扉が閉じていった。奥に進んでいく。光に包まれて世界が開けていった。
そこは普段私が働いている職場だった。私はこの部署に異動になってきた。周りは私より年上ばかり。でも、仕事は私のほうが出来る。指示をしても誰も聞いてくれない。間違っても責任を擦り付けてくる。気がついたら目の前の仕事だけをこなしていた。
声をかけあうことすらない。毎日が苦痛だった。そう、そんな時にあのシロウサギに会ったんだ。なんでこんなことを思い出したんだろう。私は首を横に振った。今、私は違うところにいるんだから。私はしなきゃいけないことがあるんだから。私は手を伸ばした。
体を動かした。動かない。まるで何かに縛られているみたい。どこかから声が聞こえた。

「それでいいの?」

私は頷いた。私を必要としてくれる人が、待っている人がいるんだから。スペードの世界も戻したい。チェシャにだって会いたい。私はまだここにいたい。光に包まれて真っ白な世界に変わった。

私以外何もない世界。いや、遠くから誰かが歩いてくる。ぱじゃまとかであるかぶりもの。かわいい白いウサギのかっこ。キレイな大きな目。赤い瞳。長いまつげ。白くきれいな肌。私はこの人に、この顔に魅せられたんだ。シロウサギが話して来た。

「今なら戻れるよ」

私は後ろに見える世界。このワンダーランドに来るまでの私の世界がそこにあった。
一歩踏み出せばその世界に戻れる。私は首を横に振ってシロウサギに言った。

「まだ、戻らない。だって私を必要としてくれている人が、待ってくれている人がいるから。でも、いつまでもここにいない。いつかは戻らないといけないのは解っている。けれど、それは今じゃないだけ」

私はシロウサギに向かって伝えた。シロウサギは更に話して来た。

「ここでアリスとして伝説を受け継ぐのなら、最後まで受け継いでしまうのならこの世界にも、元の世界にも戻れないんだよ。それでもいいの?」

ダイアの世界でジャックに伝えたセリフを思い出した。

「私が一人なら頑張れなかったかもしれない。でも、私は一人じゃないから、私一人の思いじゃないから頑張れるの。例えその先に何がまっていようとね」

私のために頑張ってくれたチェシャに思いを返したい。もう一度チェシャに会いたい。
会って、強くなった私を見てもらいたい。私は頷いた。力強く。シロウサギは言って来た。

「では、『無敵の太陽』を『ソル・インウィクトゥス』を渡すよ。後はこの剣で入り口を破って出られたら試練は終わりだ」

そうシロウサギは言って消えていった。白い世界に渦を作って。その瞬間世界は真っ白な何もない状態から洞窟の中に変わった。地面には剣の柄だけが出ていた。私は地面から剣を抜くため力いっぱい柄を引き上げた。けれど、感触は違っていて私はこけてしまった。  
そう、そこにあったのは柄だけだった。装飾がきれいに施されて、太陽の光をモチーフにした剣の柄だった。私は床を何度も見た。けれど、刀身はそこには刺さっていなかった。
私は柄を眺めていた。その時、洞窟にあった光が薄暗くなってきた。いや、違う。目に見えるこの場所が黒い何かに浸食されて空間がなくなっていっている。私は扉に向かって走った。扉をたたく。びくともしない。

「開けて」

外に居るジャックに向かって叫んだ。後ろから黒い砂のようなものが空間を侵食して暗闇に、いや無に変えていっている。遠くでシロウサギの声だけが聞こえた気がした。


世界は真っ暗だった。前も後ろも右も左も、上も下もわからない。目を開けても閉じても変化のない世界。私は気がついたらそこに居た。不安になって私は声を出した。
はずだった。でも、声は音にもならず消えていった。何も存在しない『無』なんだ。
私はそう感じた。
寂しくなった。私は泣きたくなった。でも、目から涙すら流れてくれない。涙となった瞬間に消えていくからだ。私は声にしたい思いを頭の中でつぶやいた。チェシャ。
会いたいよ。震える体を抱きしめようとした。手に何か握っている。そうだ。あの時私は剣の柄を手にしたんだ。シロウサギはこの剣で扉を開けと言った。刀身なんてない柄だけのこの剣で。チェシャ。私は頭の中で思い出していた。金髪の髪。いつも片方の瞳はその髪で隠れている。細い体。かわいいカッコ。なのにいつも私を全力で助けてくれた。
傷だらけになって、血だらけになって。私は守られていた。また、私は守られたいの?
違う。私は色んな人に守られていた。でも、それは私の変わりに誰かが傷ついていただけ。
そんなのイヤだ。私は強くなった私をチェシャに、他の人に見てもらいたい。強くなるんだ。私は血だらけになって助けてくれるチェシャを見ていてそう思った。キングの庭園にいる左目のチェシャ。ダイアの世界で私を待ちながら戦い続けているチェシャ。早く行かなきゃ。
私はチェシャを助けに行かなきゃいけないの。手に持っていた柄が光りだした。光は形になっていく。気がつくとそこには輝く『刀身』が生まれていた。
『無敵の太陽』
ようやく意味が解ったよ。私の思いなのね、『太陽』って。私は光り輝く『無敵の太陽』、『ソル・インウィクトゥス』を大きくかざした。世界が徐々に変わっていく。闇に捕らわれる前の世界。あの洞窟の世界。目の前には扉がある。私は扉を切り裂いた。まるで紙をきりさくように重いはずの扉が切れていく。世界が開けた。奥にジャックがいた。ジャックが近くにやってくる。

「アリス。僕らの『アリス』はこの惑わしの洞窟を乗り越えたんだね」

私は手にした剣を見つめた。光り輝く刀身。『ソル・インウィクトゥス』確かにどんな闇でも明るく照らす『無敵の太陽』その意味がようやく解った。私は空高く剣を掲げた。暗かったこのスペードの世界に光が射す。その瞬間ジャックが薄くなっていく。びっくりする私にジャックはこう言った。

「ボクは心しかない。影みたいなものさ。だから照らされたら元の場所に戻るだけ。先に行っているよ。ボクがいるはずの城に。城の頂上は『終わりの始まりの塔』でもあるからね。ちゃんと頂上まで駆け上がってね」

そう言ってジャックは消えていった。私は見つめた。前に来た時は大きな樹がなっていたところにある城を。私はその城に向かって歩き出した。

歩いていく中、このスペードの世界が元に戻っていったのがわかった。私は嬉しかった。
城門につくと騎士が立っていた。私は名づけた二人。
ランスロットとガウェインだ。
やはり騎士の名前といえばこの二人の名前だろう。そういえば、後トリスタンという名前をつけた騎士もいたな。私は少し前のことなのに懐かしく思い出していた。ランスロットは言って来た。

「上でジャックと***がお待ちです」

もう一人。音にもならず消えていく名前。私はそれが『彼女』なのだと思った。この世界を、いやこのワンダーランドを歪ませている人物。私は城を駆け上がった。そこにいたのは一人の男性だった。
黒い長い髪。背は高く、切れ長の目、薄い唇。少し焼けた肌。黒い鎧に白いマントをつけた男性がそこに居た。男性は私を向いて話して来た。

「僕らの『アリス』待っていたよ」

私はその声を聞いて、不安になりながらたずねた。

「ジャックなの?」

私の質問に黒い鎧の男性はこう答えた。

「半分はね。もう半分は体を乗っ取られている。『彼女』にね。だから僕らの『アリス』にお願いがあるんだ。僕を倒して欲しい」

そう言って、黒の騎士は腰から剣を抜いた。黒の騎士は言う。

「この剣、『エクスカリバー』は大地も切り裂く。僕の意識は後わずかだから、先に行っておくよ。この剣が唸った時は受け止めずに逃げて欲しい」

そう言って、黒の騎士はうつむいた。瞬間雰囲気が変わった。なんともいえないプレッシャーが黒の騎士から出てきた。長い黒い髪がその圧力で逆立っている。黒の騎士が話して来た。

「さあ、『アリス』はじめましょうか」

その声はさっきのいえ、ジャックの声とは明らかに違って女性の声だった。どこかに聞き覚えのある声。違和感があった。黒の騎士は剣を構えて私にめがけて突っ込んできた。
私は盾で剣戟を受けた。
重い。
その瞬間剣が赤く色が変わった。いや、剣から炎が出ている。黒の騎士が剣をなぎ払った。剣から炎が離れ、私めがけて襲ってくる。炎は徐々に大きくなって鳥になった。黒の騎士がいやらしく笑ってくる。盾で受けきれない。私は剣で切り裂こうとした。その時声がした。チェシャの声だ。

「『女神の息吹』をつかって」

私は胸に着けている鎧に手をあてた。そして、頭の中でするチェシャの声と同時にいった。

「女神の息吹を」

その瞬間私の周りに下から強烈な風が吹いた。炎の鳥の動きが止まる。チェシャの声がする。

「今だ」

私は動きが止まった炎の鳥を剣で切り裂いた。その時風の壁の向こうから『ごぉぉ』っと轟音が聞こえた。

「避けて」

一瞬ジャックの声がした。私はその場にしゃがみこんだ。衝撃が走る。黒の騎士が剣をなぎ払ったままに壁が切れている。大地を切り裂く『エクスカリバー』私はその剣のすごさを感じた。黒の騎士の手は止まらなかった。剣にまた炎を宿らせて投げつけてきた。私は風を生み出し炎の鳥にぶつけた。遠距離じゃ活路は見出せない。私は黒の騎士めがけて突っ込んだ。
『ごぉぉ』
轟音がなる。あの剣戟がくる。なぎ払った軌道そのままに全てを切り裂いてくる。
私は黒の騎士の動きを見ていた。剣を上に構える。振り下ろしてくる。私は左右に飛べるように低く身構えた。だが、黒の騎士はそのまま動かない。私も動けずにいた。先に動いてしまったら標的になってしまう。汗が滴り落ちてくる。この緊張に耐えられない。いつ振り下ろされるかわからない状態に、いや、私は嫌な予感がした。私は自分の勘を信じて剣を体の中心に持ってきた。意識を集中させる。

「光よ、宿れ」

私は剣を光らせた。黒の騎士の目がくらむはず。私は左にとび剣を切り裂いた。けれど、どこに居たはずの黒の騎士はいなくなっている。いや、視界のどこにも黒の騎士がいないのだ。私はまわりを見渡した。いない。
『ごぉぉ』
剣がうなる音だけがどこからか聞こえる。
右、左、後、上。
どこにもいない。私は目を閉じてみた。気配がある。すごくなんともいえない黒い重い気配。すぐ近くだ。私は剣を頭上に掲げてもう一度光で照らした。影が動く。私の影が長く伸びていった。手は空高く伸ばされている。私の影。影が伸びていく。頭上に光があるのに。私は自分の影を切りつけた。

影が逃げるように動く。逃げた先で影は黒の騎士に変わった。

私は黒の騎士を追いかけて切りつけた。黒の騎士はエクスカリバーで受け止めた。
鈍い金属がぶつかる音。私は許せなかった。気がついたら叫んでいた。

「私の影に入っていいのはチェシャだけなのよ」

叫びと共に光が強くなった。刀身が大きくなり光が黒の騎士を包んでいく。私はそのまま剣を振り切った。

肩で息をしている。光を出しすぎて疲れたのが解る。黒の騎士が私に向き剣をおろした。
笑顔でこう言って来た。

「ありがとう『アリス』ようやく私の中から『彼女』がいなくなったよ」

その言葉に私は安堵した。ジャックに話す。

「では、行きましょう。頂上へ」

私はジャックと頂上へ行き空を見上げた。いつものように黒く渦巻いている。ジャックが言う。

「先に行っている。だが、ダイアの世界はすでに『彼女』が先に行っているから。『彼女』より先に『シロウサギ』を探してくれ」

そう言ってジャックは渦の中に消えていった。私も渦に飛び込んだ。ようやく会えるのね。チェシャ。でも、私はまだ「アリスの刻印」の意味が解っていないことをダイアの世界に行って知ったのだった。

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