幼幻記10 傷つけた写真





傷つけた写真


 幼幻記 10



 あーちゃんの写真に傷がついている。その傷は必ずあーちゃんの両目を消すように、横に傷つけてあった。そして傷がついてある写真のほとんどが学生時代と独身時代のものだった。

 祖母の話では、その行為はすべてあーちゃん自身によるものだったと云う。どうしてこのような行為をしたのか、誰もわからない。

 独身時代のあーちゃんには自分が満たされない「何か」があったのだろう。一人娘であったことの他に私たちでは想像しがたい「何か」があったから自分の写真を傷つけるようなことをしたのだろう。

 それでも何枚か傷を付けていない写真もある。
 あーちゃんの独身時代の写真は結婚後よりやせていて、顔の表情はしっかりしてしている。

 結婚後のあーちゃんの写真には傷はない。きっとこころが満たされていたのだろう。表情はふっくらとして、いずれも微笑を浮かべてやさしく写っている。

 あーちゃんはなぜ自分の写真を傷つけたのか、その理由を知るひとはもうこの世には誰もいない。

 2005年9月8日記

注)あーちゃん = おかあさん


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