【SS】ハジマリ


ハジマリ




一陣の風が吹き抜ける。
墓標に手向けた花束から、花びらが風に舞った。



「・・・・・・貴方も行くのね」

そこにいるであろう人物を知るライルは、ゆっくりと振り返った。
案の定、そこにいたのは簡素な花束を手に佇む隻腕のシスターだった。
最後に会ってから10年以上も経っているというのに、シスターは記憶の中から抜け出たように見えた。
テロで身寄りをなくした兄弟を引き取ったのは、首都ダブリンに程近い小さな町の教会。
聖母の名をしたシスターは、隻腕でありながらIRAに繋がる組織の狙撃手だった。
凪いだ海のような穏やかな瞳の色とその外見から、彼女が隠すもう一つの顔を見抜ける者は皆無に等しい。

「はい、あの人との約束でしたから」

全ての憎しみを引き受けて復讐者となるか、憎しみを捨てて戦いとは無縁の世界を生きるか。
教会の馴染みだった子供のいない貿易商が二人を引き取りたいと言ったあの日。
ニールは組織に入ることを選んで銃を取り、ライルは貿易商に引き取られる形でカナダへ渡った。

――復讐を忘れて笑えるほど、俺は強くないんだよ。

そう言って笑ったニールを、止められればよかったと思う。
弟の未来を守りたいと願う兄の想いが痛いほど判ったから、できなかった。
いっそ組織に入ると言えればよかったのだけれど、自分が横にいれば、自分が原因でニールを殺しかねないと判っていたから。
他人を気にかけながら子供が生き残れるような甘い世界ではないのだと、幼心にも理解していた。
両親と妹の死を嘆く間もなく、自分を守ってくれた。
そうすることでニールが自身を保っていたのだと気付いたのはいつだったか。

「あの人が今、戦いのない世界に行ったのなら、次は俺が戦う番です」

「あの子だけが戦っていたんじゃないわ。貴方だって、戦ってきたでしょう。
 ・・・・・・あの子は貴方が戦いのない世界にいると信じていたけれど」

養父となった貿易商が、IRAの諜報員だと知るまでにそう時間はかからなかった。
必然的に、ライルも平和を享受できはしなかった。
アメリカに次いでカナダはアイルランドからの移民が多い国だった。
以前より、AEUからの脱退とUNIONへの加盟を求めていたアイルランド。
未だイギリスに属する北アイルランドの本国復帰を求めて、どれほどの歳月が経っているのだろうか。
太陽光発電紛争では、AEUの一国として中東諸国との戦いを余儀なくされる一方、完成時の電力配分を巡りAEU諸国との確執も表面化していた。

「いいえ、判っていたと思います。あの人は――」

優しすぎるんですよ、と言おうとして言葉に詰まった。
約束を違えているだろうと、俺に聞く事もできないくらいに。

「俺はね、知りたいんですよ」

世界の歪みに気付かない振りをして、安穏と生きていくのは簡単なこと。
紛争の根絶など絵空事だと、ニールは気付いていた筈だ。
ガンダムという絶対的な力を目の当たりにして、可能性を信じたのか。
仇を探し続けていたニールは、CBの持つであろう情報網を欲したのか。
組織を離れ、名を捨ててまで、何故。

「あの人が何を探して、何を見つけたのか」


そう、知りたいんだ。







何があの人を 殺した のか。






presented by MISSING LINK/Oct.6.2008








いきなりオリキャラ出ててすみません。
ディランディ兄弟のテロ後が気になって仕方ありません。

ライルがニールに対して使う「あの人」って呼び方がツボです。
指輪物語の某執政兄弟並に、ブラコンだといい。
口を開けば兄自慢しかしない弟だといい(うっざ!)
お前らのせいで兄貴は死んだんだろ?って思ってればいい。
でもそんな感情は欠片も見せない、と。
ライルがCBに行くのは、アロウズに対抗するって目的は同じだからってのもあると思いますが、ニールに何があったのかを見極める為、って方が大きい気がします。
たぶん、世界を変えられるなんて信じてないと思います。
ニールにしても、紛争の根絶なんて絶対に無理だと知っていて、ニールは世界を変えたいというよりは、刹那やアレルヤやティエリアといった仲間を守りたかっただけだったんじゃないかと思います。



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