Days of mirage(KA)


「ガラハッド!深追いするな!!」
森へ逃げるウォードを追って戦列を離れたガラハッドに、ガウェインが叫んだ。
それに気付き、一瞬動きを止めたガラハッドの腕に矢が突き刺さる。
同時に、首に矢を受けた馬が倒れ込んだ。
「くそ――」
馬の腹を蹴り、ガウェインはガラハッドのもとへと急いだ。
剣を収めて弓に矢を番える。
落馬したガラハッドは、馬の影に隠れる位置になった為にひとまず標的からは外されたようだった。
己に向けられた矢を薙ぎ払い、前方の木々に向かって矢を放つ。
逃走するウォードの残党が森に消えると、矢の数は目に見えて減った。
彼らは、引き際を心得ている――。
どこか冷静に戦況を分析している別の自分に嫌悪感を抱きながら、ガウェインは馬から飛び降りた。
「ガラハッド!!」
落馬の衝撃で意識を失ってはいるものの、致命傷は負っていないと確認し、安堵の溜息が漏れた。
ガラハッドを抱き上げ、素早くその場を離れる。
右翼では未だ小競り合いが続いていたが、大勢は決していた。
少なからず兵は失ったが、その日同行した騎士たちは誰も欠けていない。
アーサーは手放しで喜ばないだろうが、勝利には違いなかった。
暫く馬を走らせた所で、馬の鎧に掛かる矢に気付いたガウェインは、その鏃の異様な形に目を留めた。
恐らくは、ガラハッドが受けた矢と同じもの。
ガラハッドの腕には、穂先の折れた矢がまだ刺さっていた。
矢を抜けば出血が酷くなる。
しかし、もしそれが毒矢だったなら?
僅かな逡巡の後、矢を抜いて傷口に口を寄せたガウェインは、血に混じる舌を焼くような苦味を感じた。




「鏃の形が違っただと?判っていたなら何故そんな真似をした」
滅多に感情を出さないトリスタンにしては珍しく、そこには僅かにではあったが苛立ちが含まれていた。
城塞に戻り傷口を手当てしてからもガラハッドの熱が引かず、別の任務から戻りアーサーのもとへ向かったトリスタンは、報告より先にと解毒剤の調合を頼まれた。
ガラハッドが毒矢を受けたと聞いて気を揉んだが、熱は傷のせいであり毒の影響は殆どない事に胸を撫で下ろした。
しかし、ガウェインのもとを訪れたトリスタンは、最悪の形でその理由を知る事となる。
ガウェインは、明らかに毒によるものと思われる高熱と嘔吐を発症していた。
「お前ならどうした?」
憔悴しきった体を起こし、ガウェインは問い掛ける。
問いには答えず、トリスタンは薬草を調合した液体を器に注いだ。
「・・・場所が場所なら死体が二つだ」
戦場が城塞に近かった事と、勝敗がすでに決し即座に撤退できた事が幸いした。
もし十分な手当てのできる場所でなく、戦場にいたのが彼ら二人だけだったなら、ガウェインも死んでいたかもしれなかった。
「他の連中には黙ってろよ」
手渡された濃い緑色の液体を露骨に嫌そうな顔で覗き込み、非難の声を聞く様子もないガウェインに、トリスタンは大きく溜息をついた。
「馬鹿を言え。アーサーには報告するぞ」
「トリス!」
待てと言う間もなく部屋を出て行ったトリスタンを、ガウェインはなす術なく見送った。




* * * * *


朝の澄んだ空気を切り裂いて、剣のぶつかり合う激しい金属音が響く。
矢傷を負い、療養中ということで任務を外れていたガラハッドは、その音に惹かれて療室を出た。
眼下の広場で剣を交えているのは、ガウェインと兵士たち。
少し離れてトリスタンがそれを見ている。
複数を相手にしているにもかかわらず、戦場でそうあるように、ガウェインの優位は揺ぎ無いものだった。
まるで子供でも相手にしているようだ。
思わず見惚れている自分に気付き、ガラハッドは苦笑した。
戦いを好いてはない。
それでも、5年の兵役の間に染み付いた剣士としての性か、強い相手には挑みたくなる。
左腕の傷がもはや痛まない事を確認して、ガラハッドは広場へと向かった。
ガラハッドに気付いたトリスタンが、ガラハッドに向けて片手を上げた。
ちょうどその時、ガウェインが最後の一人から剣を叩き落した。
「ガウェイン、準備運動は終わったか?少しはマシな相手が来たぞ」
トリスタンの言葉に振り返ったガウェインは、満面の笑みでガラハッドを迎えた。
「傷はもういいのか?」
「ああ――それに利き腕じゃないから問題ない」
にやりと笑ってみせるガラハッドに、ガウェインも不敵な笑みを返す。
「よし、来い!」
トリスタンが剣を投げて寄越した。
剣の重みを確かめるように何度か振ってから、ガラハッドは剣を下段に構えた。
始めは軽く試すようだった打ち合いが、次第に激しいものへと変わって行く。
ガラハッドの剣が、いつもより速く感じられた。
思った以上に感が鈍っているらしい。
たかが数日、臥せっていただけだというのに――。
ガウェインは心の中で舌打ちする。

もらった。
ガラハッドがそう思った次の瞬間、首筋に冷たい金属を感じた。
一瞬怯んだ隙を突いて足を払われたガラハッドはバランスを崩して倒れ込んだ。
「ツメが甘い」
右手に持った剣をガラハッドの喉下に突きつけるガウェインの左手には、短剣が握られていた。
常にガウェインのブーツに備えられているそれ。
心底悔しそうな表情で、ガラハッドはガウェインを見上げる。
「ナイフまで使うなんて聞いてないぞ!」
「敵が武器の数を教えてくれるか。お前は俺がナイフを持ってるのを知ってただろうが」
不平を漏らすガラハッドに、ガウェインは呆れたような口調で言った。
ガラハッドは殊更不満げな表情をしたものの、言い返すことができずに押し黙った。
「・・・そして倒した敵が最後の一人とは限らない――そうだな、トリスタン?」
近付いてきたトリスタンに剣を向けて、ガウェインは笑う。
「はっ、お見通しか」
トリスタンは掌に隠し持っていたナイフを見せて、つまらなさそうに溢した。
剣を下ろしたガウェインは、ガラハッドに向き直って腕を掴んで起き上がらせる。
完敗だな、とガラハッドは思った。
トリスタンが何か仕掛ける気だったなどとは考えもしなかった。
「ガウェイン、お前途中から本気だっただろう」
短剣を戻すガウェインを見て、トリスタンが言った。
ガウェインはバツの悪そうな笑みを浮かべて、それを認めた。
「うかうかしてると次は負けるんじゃないのか」
トリスタンの言葉を聞いて、ガラハッドの表情が目に見えて明るくなる。
これまで一度も、ガラハッドはガウェインに勝った事がない。
「よし!次は見てろよ!」
「言ってろ、返り討ちだ」
ガウェインは目を眇めてガラハッドを見る。
恐らくガラハッドは、すでにガウェインやトリスタンとそう劣らない技量を持っている。
それでもガウェインに勝てないのは、戦場と平時の訓練でのギャップがあるからに過ぎない。
ガラハッドの中には境界がある。
いくら剣を手にしていようと、戦場と城塞の中は余りに違うのだと、無意識のうちに本来の実力は押さえ込まれていた。
ガウェインとトリスタンは、その事に気付きつつもそれを変える気はなかった。
むしろ、ガラハッドはそうあるべきだと。
自分たちのように、戦場の危険な匂いを楽しいと思えるようになど、ならなくていい。



陽の光を受けて輝く長い金髪を纏め上げて、ガウェインはトリスタンと向き合った。
それを合図に、トリスタンが剣を抜く。
「勝った方の酒代はガラハッドのおごりだな」
「なんでだよっ!?」
「俺に負けただろ」
抗議の声はあっさりと流された。
一陣の風が吹き抜けると同時に、ガウェインとトリスタンを包む空気が変わる。

ガウェインが先に仕掛けた。
金属のぶつかる音。
どちらかが際どい一撃を繰り出すたび、兵士たちから歓声と感嘆の声が漏れた。

怖ぇ・・・。
初めてガウェインとトリスタンが剣を合わせているのを見た時から、ガラハッドの印象は変わらない。
実戦さながらの殺意にも似た緊迫感と、明らかにそれを楽しんでいる二人。
真剣を使っている事にも驚いたが、何より彼らの纏う空気に圧倒された。
通常、訓練で使う剣は刃を潰してあったが、真剣を使った方がリアリティがあって実用的だ――それがガウェインとトリスタンの考えだった。
詰まるところ、彼らには紛い物の剣では物足りないのである。
かつてなぜ訓練に参加しないかと問われ、物足りないからだと素っ気なく答えたトリスタンに、真剣ならどうかと持ち掛けたのはガウェインだったと聞く。
さっきのガウェインが本気だった?冗談じゃない。
一瞬でも次は勝てるかと思った自分が嫌になる。
あれを本気と言うなら、今の彼らは何だというのか。

正反対の剣だった。
ガウェインは力技で正面から攻めるタイプだが、トリスタンは相手の攻撃を受け流し、カウンターで仕掛けてくる。
しかし、勝負は決定打を欠いていた。
打ち込む強さの半分が流される。
決まる筈のカウンターが、際どい所で必ずかわされる。
いったん距離を置き、二人の剣士は互いにタイミングを探り合う。
世界は動きを止めていた。
始めはどちらかが攻撃をする度に歓声を上げていた兵士たちも、今はその息遣いが聞こえるほど、試合に見入っていた。
およそ現実離れした切り取られた別世界を思わせる空間で、白刃が舞う――。


その不自然に静かな人垣が、指揮官の目に留まらない筈もなかった。
「アーサー!」
正面の兵士の列が僅かに乱れ、そこにアーサーの姿を認めたガラハッドは、慌てて二人を止めようとした。
しかしアーサーと目が合ったガラハッドは、もう遅いと気付く。
真剣を使った訓練を嫌うアーサーに、彼らは何度も注意されていた。
眉間にしわを寄せるアーサーを見て、そろそろ注意だけでは済まなくなるとガラハッドは思った。
「そこまでだ」
アーサーが二度手を打つと、周囲が先ほどまでとは違った意味で凍りついた。
人垣の中心の騎士二人も、動きを止めた。
二人の手には剣が――動かぬ証拠が握られていた。
「もう訓練に出られるくらい回復したんだな。医者は何と言っていた?」
てっきりガウェインとトリスタンに話が行くものだと思っていたガラハッドは、不意打ちのように問われて思わず息をのんだ。
アーサーは、回復を喜んでいるのではない。
訓練に参加していいとは言っていないと、直接的ではないにしろ釘を刺している。
「あ・・・えーと、多少の・・・運動はしないと体に・・・毒だって」
ガラハッドは、あらぬ方向へ視線を泳がせて答えた。
「ガウェイン・・・トリスタン・・・これで何度目だ。任務の時以外は私に武器を全て預けろと言わせる気か?」
二人の顔を順に見ながら、静かに、ゆっくりと、アーサーは言った。
怒っている。
ガウェインは背中を流れる汗が冷たいものに変わるのを感じた。
「それは勘弁してもらいたい。城塞の中とはいえ余りに無用心だ」
「そういう問題じゃないだろう・・・」
平然と言ってのけるトリスタンを横目に、ガウェインはがっくりと肩を落とした。
「ところでガウェイン、君もまだ療養中の筈だが?」
悪びれた風もないトリスタンをもはや咎める事もなく、アーサーはガウェインに問いかけた。
振られたガウェインは、剣を収めて肩をすくめて見せた。
「自分の体は自分が一番判ってます。いい加減動かないと感が鈍りそうですからね」
嘘ではなかった。
外に出て剣を持てば、いつの間にか倦怠感と痺れは消えていた。
戦いに飢えているのだと――思い知らされた。
「だからといって真剣で打合う必要はないだろう。自重してくれ」
アーサーはそれだけ言うと執務に戻るべく踵を返した。
予想以上にあっさりと解放されたことに驚きつつも、アーサーの渋面がどんな言葉よりも雄弁で、確かに自重すべきだったかとガウェインは溜息をついた。


「ガラハッド、お前気付いてたなら言えよな」
「・・・・・・言ったら止められたのかよ」
ガラハッドは疑わしげな目線をガウェインに向ける。
アーサーが現れた事を告げたところで、二人が手を止めるとは思えなかった。
第一、ガラハッドの声が二人の耳に届くのかすら怪しかった。
「それより療養中って何だ?あんたも怪我してたのか?」
「怪我でもしてるように見えるか?」
「いや・・・でもアーサーがあんた”も”って言ったから・・・」
聞き流していればよかったものを、とガウェインは眉を顰めた。
「頼むから何も聞かないでくれ・・・」
「なんだよ、気になるだろ」
「この俺に風邪ひいて一日寝込んだなんて言わせる気か」
しつこく迫ってくるガラハッドを適当にあしらいながら、ガウェインは諦めたように呟いた。
「言ってるじゃないか・・・・・・」
「お前が言わせたんだ」
ガウェインが憮然とした表情で答えると、ガラハッドは悪かったと笑った。


「つくづく人のいい奴だな」
ガラハッドがいなくなった事を確認してから、トリスタンがぼそりと呟いた。
意図して言った訳ではないのだろうが、アーサーの言葉にガウェインは一瞬ひやりとした。
ガウェインが剣を交えられる程度に回復したのは、ガラハッドとほぼ同じ頃だった。
ガラハッドの方が外傷を負っていた分、剣を持って訓練に参加するのが遅かっただけである。
尤も、ガウェインとて訓練への参加は許可されていなかった。
アーサーが問い掛けた通り、今もまだ療養中とされている。
「・・・俺が任務に出てる事にしてたお前はどうなんだ?」
何度かガラハッドの様子を見舞ったトリスタンは、何故ガウェインは来ないのかと聞いたガラハッドに、”任務で出ている”と答えた。
「お互い様だ」
「そう・・・だな」
ぶっきらぼうに答えたトリスタンに、ガウェインは苦笑する。
黙っておけと言ったのは誰だと、その目が物語っていた。
他愛もない嘘を素直に信じるあどけなさは、いつか失われる。
ガラハッドもいつか、彼らの嘘に気付くだろう。
ただその時が――少しでも先になればいい。














presented by MISSING LINK/Nov.15.2004




4作目にしてやっとアーサー出ました☆
今回の目的は、アーサーを出す事と、ナイツ(てか限定的な3人ですが)の打合い。
訓練で真剣なのは、お互いにちゃんと止めれる自信と実力があるから。
というか他の人と手加減なしでやると殺しかねないんで、加減してるから物足りない。
本気を出せる相手に出会えてにんまりな二人です。←怖いよ
そしてガラも実際には強いんですが、戦場以外ではリミッターがかかってて、実力は30~40%減。
それを判ってて全勝するガウェも大人気ないですね。
トリはたまに負けてやってる模様。←本気が出せなくって油断して負ける
まぁ負けっぱなしはあんまりなので、ガラが騎士団に入って2年くらいという設定で。

ところで、ガウェって凄い器用ですよね。
入団試験(違)は剣と槍の使い手ってことでアーサーに認められて、戦場では主にメイスと斧で、ナイフ投げも巧い(小説設定)・・・でき過ぎです。
あとは弓です。
弓を射るガウェが書きたかったのです。(・・・が、出来上がるとこんな話になってました。弓殆ど使ってないし!!)
湖の上ではガウェも弓使ってますし、あの距離を中てられるってことですよね・・・?
普段着の状態でもブーツに短剣を仕込んでるガウェ。
トリもあのだぼっとした服の下に、色々と隠し持ってそうな予感。
いつでも戦闘モード。常に臨戦態勢な二人が大好きです。


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