ネオリアヤの言葉

ネオリアヤの言葉

アカリ




「いろんな人とつき合ったほうがいいよ」

アカリは、お酒を飲んで饒舌になると、決まって僕にそう云う。
左肘をテーブルにつき、柔らかく弧を描いて微笑む眼尻で、
無防備に見つめられると、彼女はどんな恋をしてきたんだろうと思う。

「あなたをみてると、本当はどんな人なんだろうって思うよね」
「知りたい?」

それが二人のはじまりだった。
アカリは、あまり真面目な話を好まないらしく、
本気かな? と感じるあたりで、必ずと云っていいほど、
煙に巻くような笑いを唇に浮かべる。
いつも面白がっている。
そんな雰囲気だった。

「いろんな人とつき合ったほうがいいよ」

そう云いながら、彼女は本当に様々な女性を同伴し、
ことあるごとに僕に紹介した。
職場の同僚、パーティーで出会ったという外国人、
仕事で付き合いのある事務所のモデル、銀行員、ダンサー、
塾講師、受付嬢など、数え始めたらキリがないほどに。
勿論、僕自身、特に好みのタイプはこう、というのはないけれど、
その女性たち全員と関係してきた訳ではない。

機知に富んだ人との会話は楽しいし、紹介を受けるのも悪くはない。
フィーリングの合った相手と、例えばセックスをしたとする。

いつものように、ソファに坐り直し、
ベッドの中で眠ったふりを続ける優しい女性の呼吸を訊きながら、
煙草に火をつける。
すると決まって、アカリを思い出してしまうのだ。

この人とこうなることを、アカリは想像していたろうか。
何のために彼女は、女性たちを僕に引き合わせるのか。

考え続けても、答えに辿りつきはしないことを、
僕は知っている。
それでも、自分を納得させる何かが必要だった。

軽く、煙と一緒に吐き出された溜め息を、
ここにいる女性はどんな気持ちで訊いているのだろう。

「あなたは数いる男友達のひとり」

と、それは優しく労わるように、
そして同時に見下し、品定めするような眼の色で僕をみつめる彼女たち。

けれど、セックスの後に本気で眠っている人に出逢ったことはない。
僕がベッドに躰を滑り込ませ、
その温まった腰のカーヴに手を触れると、
静かに、器用すぎるタイミングで寝息を乱し、僕の方へと寝返りを打つ。

「ん…」

うっすら開いた唇からこぼれる「眼覚め」の声。
それが本当の眼覚めではないと知ったのは、
いつの頃からだったろうか。
そこに優しい嘘を感じるとき、僕は、たまらなくその人を愛しいと思う。

強さとか余裕からくる嘘ではなく、
その人の弱さから映し出されている気がするからだ。
淋しさや弱さを癒してあげたい気持ちは、
その時々で真実。

しかし、僕には彼女たち以上に守ってあげなくてはならない人がいる。
アカリだ。

たぶんアカリは、

「冗談じゃないわよ」

と吸いかけのまだ長い煙草を灰皿におしつけるだろう。

彼女が本当はどんなことを思い、感じ、考えているのか、
僕には知る由もない。
それでも、アカリの不思議なワナに、はまっていたいと僕は想う。

「今すぐきて」

いつか彼女がそうつぶやく時、すぐにアカリのもとへ向かえるように。




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