雨のちハンターだまり♪

雨のちハンターだまり♪

決闘=死闘


「う・・・・・ぅ・・・・・・・・・」

少年が泣いている。

どうしたんだ?

俺は声をかけた。

少年は答えない。

腹減ったのか?寒いのか?

少年は答えない。



ただ。泣いていた。









後ろから声が聞こえる。


「起きろ」


あんたぁ、誰だ?


「俺は・・・・、いや、俺の事などどうでもいい」

いや、よくねぇから。


「起きるのだ」


俺立ってるじゃん。

「目を覚ませ、覚醒の時は・・・・・近い」


は?

なんだそれ、覚醒って・・・・。

待て!待てよ!!!


~~~~~~~~~
~~~~~~~~~
~~~~~~~~~




「待て!!!!」

ガバッ!

目の前には、俺を起こそうとするミズキがいた。
爆風でがれきと共に結構な距離を吹き飛ばされたようだ。
幸い、屋台の天井布があったお陰で目立った外傷はない。

しかし・・・・・・、現実に引き戻された様な今の感覚・・・・・・・
気絶して夢なんてみるか・・・・?


「・・・・・起きたのか・・・」

「あ、あぁ・・・・・・・・・・・・・あ?」



今の「あ?」は、ミズキに対してじゃない。


あの閃光から半径10 m あたりの、その風景に対してだ。




気付いたら・・・・・・・・・ 何も無い




「なんだよこれ・・・・!」

「こっちが聞きたい!奴の力がこれほどまでとは・・・・っ」

「とりあえず、この場を離れた方が良いわね」


S だけは何も言わず、
煙の向こうの何かをじっと見据えたまま頷いた。




「一筋縄ではいかなそうだがな」






立ちこめる煙の向こうから、まだあの声が聞こえていた。



『ツイニ復習ガ果タサレル・・・・、我ニヨッテ報復ガ成シ遂ゲラレル・・・・・!』

「父さん・・・・、僕も最後まで手伝うから・・・・」

『ソウダナミハエル・・・・。先ズハ奴ラヲ奪ワネバナラン』


「僕は・・・・良い子だから」




「あいつ等、殺しちゃダメなんだね?」

『アァ、奴ラダケヲ奪ウノダ』


煙の向こうから。
何かがこっちを睨み付けた。

あたりの空気が急に重たく暗いものにかわった。
それは殺意と破壊の衝動に満ちあふれた、異質な感情の具現化だった。



ゆっくりと、煙の向こうの大きな影とは比べものにならないほど
小さな影が歩いてきていた。

しかし。一歩進むごとに、それはまるでグラビモスの行進のごとき威圧感が、
4人を飲み込むのだ。



これはやばい、その場にいれば誰もが悟るだろう。

しかし、何をすればいいのか思いつかない。
恐怖のあまり、 S は手が汗ばんでいた。


無論、ナナもデビルも。
戦った事のない相手にここまで恐怖するのは生まれて初めてだった。





ミズキは・・・・・・。

煙の向こうから来る影を知っている。

一歩近づくたびに、あの戦闘が思い出される。

少年の力は体感している。

ゾーンでも追いつけない、人間の速さではない。

しかし、研究はした。つけいるスキはある。

こんな言葉を思い出していた。




【完璧じゃないと言う事は、どこかが欠けているという事だ。
 そして、この大地の上に、完璧など存在しない】


そして考えた。


布で何重にもくるんでいたオデッセイを取り出しながら。
その盾に腕を通しながら。

「盾を嵌めるのは、弱い自分を守るため」




「そして剣を握るのは、守るべき者を守るため」




もう奴に好き勝手はさせない。
ミズキの姿勢に押され、ついに4人は陣をくみ臨戦態勢に入った。




勝つための戦い。


敵は強大だろう。


この人数でオルトロスに勝てる見込みはない。
ほぼ100%負ける。


しかし、4人の脳裏には


「諦めない」という四字がはっきりと浮かび上がっていた。


ミハエルはミズキを直視して立ち止まった。

「お前・・・、死にたくなければロケットを渡せ!」

「断る!」

「ほぅ・・・、大した自信だ。だがいつまで持つかな・・・」


一瞬で間合いを詰め合う2人。
それと共に武器を構える3人。

4対1だと言うのに、ミハエルはなかなか捕まらなかった。
斬るたび斬るたび、その刃は空を裂く。

気付けばミズキのオデッセイは刃がこぼれ、盾は欠け。
デビルのクロームレイザーは刀身の接合部が痛み。
ナナと S のボウガンは銃口が焼き切れていた。






しかし、前回と違う点が1つだけ。
ミハエルも大分消耗しているということだ。


「っはぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・、人間のクセに・・・・・・ッ!」


無論こちらも武器だけがすり減るワケじゃない。
4人とも呼吸すら絶え絶えに、僅かな隙を見付けては絶え間ない攻撃を送り続けた。


(デビル・・・。次の合図でけむり玉を使え、後は俺が・・・・)

(バカ、何言ってやがる。さっきけむり玉は効かなかったろうが)
(そうだったか?・・・・・ははっ・・・)


(笑ってる場合じゃないぞミズキ、俺のボウガンももう限界だ・・・・)
(私も同じく、弾も尽きてきたわ)



どこから襲いかかるか分からない刃を相手に。
4人は背中合わせで警戒しながら状況を交わす。



とりあえず、決して良い状況じゃないコトだけは確かだ。


(閃光玉は・・・、持ってきてるか?)
(おぅ、此処にちゃんと・・・・)

デビルはポーチをゴソゴソとあさった。





あさった。



(・・・・・・・・・・あれ)
(どうしたデビル)


(ぬぁい)

(は?)

(無いんだって!)
(ちゃんと探せ!)
(探した!どこかに落ちてないか・・・・っ?)

辺りを見回すデビル。
その時、小気味のいい音が前から聞こえた。






ミハエルだった。
手には灰色の手投げ玉・・・・・。




「お前達が探してるのはこれか!!!」

そう言うとミハエルは灰色の玉を宙に放り投げ・・・。























目をふさいだのでそれほど効果はなかったが。
3秒ほど視界を奪われた。

この3秒がいかに大きいか、この場の全員がよく知っていた。

それぞれはそれぞれの無事を確認し。

再びミハエルを探し、目をやった。



その時、首の違和感に気付いた。


(あれ・・・・・・、無い!?)
(次は何がだ・・・)


エドガーのロケットが。
こともあろうか引きちぎられ、盗られていた。
足下にはひもの一部が落ちていた。


「約束通り・・・・・、頂いたぞ」

「待て!それを返せ!」

「誰が返すか。これは父上に必要な物だ!」

『ヨクヤッタ、ミハエル・・・・』


「父さん。こいつ等、もういいでしょ?消しちゃってよ」


『ククク・・・・。小僧達ヨ、恨ムナラ己ノ無力ヲ恨メ・・・!』



オルトロスの口の中に再び蒼い閃光がほとばしった。
あふれ出さんばかりの光、それが4人に向けて打ち出された。


『カァァァァァァァッ!』




声も



出なかった。









閃光が4人に触れる瞬間、デビルの首元が光った。


ナナの耳飾りも、同じような紅い光を発していた。


『之ハ・・・・・・ッ!』


2つの光は大きくうねって障壁を作り、目前に迫っていた蒼い光を打ち消して消えた。


『今日ハツクヅク運ガ良イ、復習ダケデナク・・・・・』


そこまで言うと、オルトロスは満足げに鼻を鳴らした。


『戦女神マデ探シ出セルトハ』




「戦女神?神話にあるヴァルキリーのコトか」

「なんで俺たちに戦女神が関係あるんだよ」

『・・・・・・小娘、ソノぴあすヲドコデ手ニ入レタ』


「これは・・・」


『オ前ノ家ニ代々伝ワル物デハナイノカ?』


「なんでそれを・・・・!?」

『フム、ヤハリカ』









「それがどうだって言うの!」


オルトロスは真っ正面からナナを睨み付けた。

『一緒ニ来テモラオウッ!!』



一瞬のコトだった。

オルトロスは、4人の頭上をかすめる様に飛んだ。
ちょうど反対側に着地したとき、その手にはナナが捕らえられていた。


『之デ・・・・・・、ヤット役者ガソロッタノダナ・・・・』



「離しなさい・・・・・ッ」

「ナナさん!」

うろたえるミズキとデビルを無視するかの様に、 S が話し出した。


「役者かぁ。まさか劇団を開くわけでもあるまい?一体何をする気だ」

『崩壊サセルノダヨ。何モカモ』

「おいおい、勘弁してくれよ・・・。あれはおとぎ話だろッ」


『ソレハドウカ、主役ガ一番ヨク知ッテイル。ソウダロウ?』



「・・・・・・・・・」

「ナナさん、その話って何なんだ!」



『フン、貴様ラニ何時マデモ構ッテハ居ラレン』


会話を無理矢理中断させるかの様に、オルトロスは羽ばたきだした。


天高く、ナナを抱えたまま。



地面には、蒼い蒼い鱗片が落ちていた。


全てが、終わりを告げようとしている・・・・・・・。

《 第1部 最終章ー因果の鎖ー へ続く》


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