”名も知れぬ人たちへ”【承10】

・・・検査の結果がこわい・・・

妻が入院した最初の土曜日,忘れることができない。
私が最初に自力で作った"三色弁当+ウインナーetc"。
うまかったかどうか,味は定かではないが・・・

どうして作ったか,妻に"ガンバレ"という無言のメッセージのつもりだった。
今から思えば,いつもの私でない私を見せた瞬間だったかもしれない。
検査の結果が来週ということで,取り合えずは遠隔地にある会社に行くことにした。

ただ,いまのところ心配なのは娘を我が家に一人で残すこと。休暇を効率よく使うことを考え,水曜日と金曜日を午後の半日休暇とした。
月曜日の朝早く車で出勤し,水曜日の午後には我が家へ,木曜日の朝早く車で出勤し,金曜日の午後には我が家へ,というようにサイクルを組んでみた。
つまり,娘が一人の夜を過ごすのは月曜日・火曜日・木曜日の三日間であった。広い?我が家で一人ポツンといることは非常に不憫でしかたがなかった。
「少しの間だからガンバッテくれ」
「うん,カンバルヨ,お父さんもね」と明るい顔で言ってくれた。本当は辛いはずなのに・・・

月曜日,仕事をしていたら携帯電話に着信。妻だった。電話に出るのを躊躇してしまう。何回目かのコールだったか,電話をとった。
「おと吉・・・仕事中ごめん。明日夜の6時半頃に検査結果を知らせるって。来てくれる?」細い声だった,気を使った声だった。
「おうっ,わかったよ。明日,午後休だから必ず行くよ,お母さん体どうだい?」
「うん,大分いいよ・・・」会話が続かない。まいった。
「明日行くからな」
「うん,気をつけてね」
「おうっ」と言って切った。切った後,大きな息を私は吐いた,
・・・"まいったなあー"・・・
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