”名も知れぬ人たちへ”【承12】

・・・少しの間の沈黙に,ゴックンと飲み込む・・・

妻の体の断層写真が後の蛍光灯の明かりで"白黒はっきり"と写っている。

「では,検査の結果を申し上げます。」若い先生が私と妻を見ながら話した。
「残念ながら付属病院に送った組織は,"悪性"と判断されました。」
このとき私の頭の中は,"ガラーンとしていて,真っ白な世界"となっていて,変なところからぼそぼと話が聞こえるといった感じだった。

「・・・名は,・・・ガンです。」"えっ,聞こえない"。
「先生,もう一度・・・」
「 病名は,子宮頸ガンです。」
断層写真をスティックで指した。その方向をみると確かに長い異物のようなものがあった。
長さは4~5cmくらいであったか,妻は以前に"お腹の中になにかいる"というのはこれだったのか。

妻を横目で見る。自分の腹に手をあてて,人事のように写真を見つめていた。
また,写真を見ながら先生の言うことに神経を集中させた。

「このようになると私どもの病院では,対応ができないので,設備の整った付属病院を紹介しています。」続けて
「放射線治療という方法があり,今では大きな成果を上げるまでに進歩しています。」とのこと。
「そこの付属病院は,いつも行き来しているところですから,先生から"早く来てもらい治療にあたりましょう"と言葉をもらっています。もう少し体調を元に戻すため3,4日輸血を続けてから,転院したほうがいいでしょう。」と。

「先生,この病気は治るんですねっっ・・・。」と私は声を張り上げていった。
先生は少し詰まった。私は"聞いてはならないこと"を言ってしまった,ようだった。先生は,放射線治療のことをしきりと話しをしていたが最後まで・・・。
『治る』 という言葉を先生の口から聞きたかった。
・・・治らないのか,本当に・・・
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