”名も知れぬ人たちへ”【承35】

・・・悔しい・・・

その言葉は,さらに大きく私に覆いかぶさってきた。
妻の放射線治療の効果について,先生から言われたらしい。

以前に同じ病気で入院していた人が放射線治療で予定照射が終了しても腫瘍が小さくならず"照射延長"したことを妻から聞いていた。
その人は顔色が青白く,やせていた。
妻はそんな姿を自分に照らしあわせていたに違いない。

先生から言われた言葉は,『照射の延長』だった。
小さくならない腫瘍,手術できない大きさ,末期であることの現実が妻にのしかかったと思う。
本当に辛いはずなのに,私や娘には涙一つ見せない。

照射を延長したがそれは,今まで実施した量の何分の一,果たして小さくなるのか疑問が残る。

病室に数人の友達が出来て,いろいろと話が弾む。
同じくらいの年の人とは息もピッタリでケラケラ笑いながら話をしている。
私はそんな妻を見ながら,何故こんな病いにとりつかれたんだろう。何回も何回も考えたこと。"助けてやりたい・・・もしこの世に神様が存在するのなら"と。

・・・助けてやりたい・・・
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