”名も知れぬ人たちへ”・【転6】

・・・幸せそうな,いい顔していた・・・

妻は,薬のせいで下痢と便秘を繰り返している。トイレが辛そうだった。
病院ではウォシュレットだったから大分良かった。
我が家はトイレが一階と二階にあるがウォシュレットというすばらしいものがついていない。家を建てた当初はまさか妻が病気になるとは思っていない。介護などには必要なアイテムであることは,前々から知っていたが。

妻に「なあ,どうだ,トイレにウォシュレットつけようか?」
「んーん,どうしようか?」ってキラッと目を輝かせながら私に問いかけてくる。「思い切って,つけよう・・・どっちにつけようか?」
意外に難しい選択だと思った。一階か二階か,両方につけたらいいのか?
「一階の方がいいんじゃない,だって寝るとき以外はいつも下にいるから・・・」
「そうだね,そうしよう・・・じゃーさっそく手配するからね」私は妻のためと思えば,どんなことでもしてやりたいという気分であった。

私は,我が家を建ててくれた工務店へ電話し(もちろん単身赴任先から)ウォシュレットが私の家のトイレに付くのかどうか?値段はどうなのか?工期は?と質問攻めした。
「大丈夫ですよ,フタのところを取替すればできます。いろんな色があるから家の方にカタログを持って伺います」
「わかりました,お願いします」と,この次の土曜日に来てもらうことにした。

その土曜日に「どうも,カタログもってきました」と工務店さんがやってきた。いつものように頭の低い人だった。だから良いのかもしれない。
いろいろなタイプがあったが,やっぱりトイレと同じ薄いグリーン色にした。
乾燥機付きだとかなり値が張る。
妻に聞く「どーお,乾燥するのつけるかい?」
「いいよ,つけなくて。病院でも乾燥使わなかったから・・・」
「そうか,じゃーウォシュレット乾燥無しのやつを付けよう」
「10日くらいかかりますがいいでしょうか?」と工務店さん。
「おーけです。楽しみだな,よろしくお願いします」

・・・また,幸せそうな,いい顔していた・・・
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