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山崎元の経済・マネーここに注目

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2011.08.30
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テレビなどでも、円高問題の特集に加えて、最近の金価格上昇について取り上げることが増えてきた。もっとも、金価格について「これから買ってもまだまだ儲かるのではないか」と考える方向でばかり取り上げられる訳でもない。「随分値上がりしたから今のうちに売っておこう」と所有している金地金や金貨、金製品などを貴金属取扱店に持ち込む人も多いようだ。

金には、複数の顔がある。第一に、金は、工業製品の原材料だ。電子部品などに使われるので、景気が良くなって一次産品の商品相場全般が上昇するような時に、金価格も上昇する。

第二に、金は装飾品の原材料でもある。近年、経済の発展が目覚ましい中国やインド、特にインドでは装飾品として金製品が好まれるので、同国経済の成長は、金に対する需要を下支えすると見込まれる。金がまだまだ買えるという理由を挙げる時によく登場する話だ。

もっとも、装飾品のような形で広く保有されているということは、金価格がいよいよ上昇した時に、あちこちから個人の現物売りが出て来やすいということでもある。かつて、銀の買い占めが起こったことがあるが、この時に、買い方の失敗を招いた一つの原因が、銀相場のあまりの高騰に、食器などの銀を売る新たな現物供給が買い方の計算外であったことを挙げる向きもある。

第三に、金は伝統的に通貨の材料として用いられてきたこともあって、通貨に準じる資産として扱われる性質がある。多くの国の中央銀行が金を準備資産として保有しており、この点で、金は他の商品と一線を画す。中央銀行の売買は、金の需給を読む上でも重要なファクターだ。

この第三の性質によって、金は、通貨の価値が揺らぐような場合に需要が増加して価格が上昇する傾向を持っている。金融危機のような金融システムの信頼が低下するイベントも買い材料だし、戦争も金が買われる典型的な要因の一つだ。近年の金価格の上昇の背景には、世界の基軸通貨である米ドルの価値の下落傾向がある。また、現在、米国が自国の通貨の下落を望む環境にあり、同時にユーロの信頼性が揺らいでいる。これらの要因が金価格上昇の追い風となった。

しかし、金は保有していても、株式・債券・不動産のように、資産が経済価値を生む活動に参加する訳ではない。金は、利息も配当も生まない。金を現物で持っていても、他人に見せて「拝観料」でも徴収できるのでないなら、経済的な価値を生みはしない。

つまり、金の購入は、価値を保存する動機を脇に置くと、金価格の上昇に賭ける「投機」であり、生産活動に資本を提供してその果実を得ようとする「投資」ではない。

金相場のリスクは、基本的に、これ以上金価格が上がるか、あるいは下がるか、というお互いの見通しの違いに賭けるゼロサム・ゲームのリスクだ。より大きなリスクに対してより大きなリターン(超過リターン、あるいはリスク・プレミアム)の補償が期待できるという「ハイリスク、ハイリターンの原則」が当てはまるような投資のリスクとは根本的な性質が異なる。

世間では、「金の積立投資」のように、金の購入に対して、「投資」という言葉を当てようとすることがあるが、リスクを負担する行為である点が投資に近いとしても、株式投資や不動産投資のような経済活動への参加としての投資とは意味が異なるので、注意を要する用語法だと思う。

筆者の結論をはっきり言うなら、原則として金は長期の資産形成に不向きだ。これは、金相場に対してどういう見通しを持つのかとは別種の議論だが、重要な認識だ。

金相場との関わりは、「投資」ではなく、あくまでもゲームとして、投機としての覚悟を決めて行うのが正しいと思う。ゲームと割り切るなら、金貨や金の延べ棒のような現物を買うのは実質的な手数料が高くて割りが悪い。筆者のお勧めは、ネット取引の商品先物取引だ。

もちろん、「買い」から入るのか、「売り」から入るのかは、読者がご自分で決めて欲しい。

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楽天証券経済研究所客員研究員 山崎元
(楽天マネーニュース[株・投資]第103号 2011年8月26日発行より) ==========================================================





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最終更新日  2011.08.30 16:10:50


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