故郷を想うときにどうぞ




母から電話があった。
とりとめもない会話のあとで、ふと思い出したように母が言った。
「小学校の校舎、取り壊すらしいよ」
私が通っていたころはまだきれいだった校舎も、もうそんなに
古くなってしまったのか。
なつかしい記憶がよみがえる。

レトロな雰囲気がいい感じの50年代の黒電話の復刻版/ブラック

屋上に続く階段の踊り場にできた人型の染み。
夕方4時になったらトイレにあらわれるというおばあさん。
誰もいないはずの音楽室から夜な夜な聞こえるピアノの音。
みんなでキャーキャー言いながら大騒ぎしたっけ。

廊下

数ヵ月後。私は新幹線の中にいた。
去年亡くなった祖母の法要があるためだ。
窓際の席にすわり、ヘッドフォンで音楽を聴きながら外を眺める。
聴こえてくる曲は、ジョンクーガーメレンキャンプの「スモールタウン」
85年のヒット曲。

スケアクロウ

富士山が右手に見えたことまではおぼえているが、いつのまにか
眠ってしまっていた。
子供の頃の夢を見た。
幼い私は姉とふたりで野原にいた。
タンポポやレンゲ、しろつめ草などの春の花がたくさん咲いている。
姉はしろつめ草で王冠を編んでいる。
私はいっしょうけんめいに四葉のクローバーをさがしていた。
必死で探すのに、なかなか見つからない。
やっと見つけて手をのばした。

レンゲの花

そこで目がさめた。
いくつかの曲は私の潜在意識の中に消えてゆき、今流れているのは
ピーターポール&マリーの「500マイルも離れて」

【先々週発売】【Rock/Pops:ヒ】ピーター、ポール&マリーPeter, Paul & Mary / Very Best(CD...



少しずつ故郷に近づいてゆく。なのになぜこんなにさびしい気持ちに
なるのだろう。

長いトンネルを抜けるとアナウンスが入る。新幹線がホームに滑り込む。見慣れた京都駅の風景。
京都タワーを見ると、帰ってきた実感がわく。
新幹線をおり、そのまままた在来線に乗り換える。実家のある駅まではそこからさらに40分。
これまで何百回も見た車窓の風景。めあたらしいもの、変わらないもの、いろんなものを
眺めながら、電車は走ってゆく。
聴こえる音楽は、「ピープルゲットレディ」
ジェフベックの1985年発表のアルバム「フラッシュ」に入っている曲。
ロッドスチュワートのしゃがれ声が耳から離れない。

【限定盤紙ジャケ】ジェフ・ベック フラッシュ



駅につき、実家にまっすぐ帰ろうと思って足をとめた。
小学校まではそこから5分ほどの距離だ。少し寄ってみよう。
なつかしい通学路を歩き出した。
遠くに目をやると、小さく神社が見える。あのあたりはまだあまり変わっていないようだ。
あの神社で、お楽しみ会の劇の練習をしたんだっけ。

学校


学校に着き、門をくぐると数々の卒業制作が出迎えてくれた。
私たちが作った帆船の壁画もあった。
なつかしいグランド。子供たちがサッカーをやっている。
私たちのときはなかった一輪車がすみに置いてあった。
もうすぐなくなる校舎は、私がいた頃より色あせ、ひびが入っていた。
窓ガラスには、空の夕焼けがあかく映っていた。
ケータイ電話が鳴る。母からだ。
もう帰ってくると思って待っているのに一向に帰ってこないので心配している。
私は校舎にさよならを告げ、家路を急いだ。
                            (完)


© Rakuten Group, Inc.
X

Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: