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東京高裁H16(ネ)第6328号損害賠償等請求
事件番号 :平成16年(ネ)第6328号
事件名 :各損害賠償等請求
裁判年月日 :H17. 9.29
裁判所名 :東京高等裁判所
部 :第21民事部
結果 :控訴棄却
原審裁判所名:千葉地方裁判所
原審事件番号:平成13年(ワ)第2870号,平成14年(ワ)第385号
判示事項の要旨:
内閣総理大臣の職に在る被控訴人小泉純一郎が平成13年8月13日に靖國神社に赴き本殿に昇殿して戦没者の霊を拝礼したなどの行為が,被控訴人小泉の判断,意思,上記行為の目的,性質等,政府の主催する公式行事との関係等に照らし,被控訴人小泉が自己の信条に基づいて行った私的な宗教上の行為その他の個人的な行為であって,内閣総理大臣の職務行為として行われたものであるとは認められないとされた事例
主 文
1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは,各控訴人に対し,連帯して10万円を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,控訴人らが,内閣総理大臣である被控訴人小泉純一郎(以下「被控訴人小泉」という。)は平成13年8月13日に靖國神社を参拝したが,この参拝(以下「本件参拝」という。)は内閣総理大臣の職務として行われたいわゆる公式参拝に当たり,本件参拝により控訴人らの信教の自由,宗教的人格権等が侵害されたとして,被控訴人国に対しては国家賠償法第1条第1項に基づき,被控訴人小泉に対しては民法第709条に基づき,各控訴人が受けたとする精神的苦痛に対する慰謝料として各10万円を連帯して支払うことを求めた事案である。
2 原判決は,控訴人らの請求はいずれも理由がないとしてこれらを棄却したので,これを不服とする控訴人らが控訴を提起した。なお,本件訴えは,原審において,原告Aほか39名が提起した訴え(千葉地方裁判所平成13年(ワ)第2870号)に原告Bほか22名が提起した訴え(千葉地方裁判所平成14年(ワ)第385号)が併合されたものであり,原判決は,審理の上,上記原告ら合計63名全員につき請求をいずれも棄却したものであるところ,上記原告ら合計63名のうち39名だけが本件控訴を提起し,その余の24名は控訴を提起しなかったので,原判決のうち上記24名に関する部分は確定した。
3 前提事実,争点及び争点に対する当事者の主張は,当審における当事者の主張を後記のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1から3まで(原判決1頁21行目から29頁23行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決2頁11行目から12行目にかけての「「内閣総理大臣小泉純一郎」との肩書を付して記帳し,」を「内閣総理大臣小泉純一郎」と記帳し,」に,同頁12行目から13行目にかけての「黙祷した後」を「黙祷した後」にそれぞれ改める。)。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(控訴人らの本件訴えのうち,被控訴人小泉に対する部分は訴権の濫用に当たるか。)についての判断は,原判決の「事実及び理由」欄中の「第3 争点に対する判断」の1(原判決29頁25行目から同30頁11行目まで)に記載するとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決30頁6行目の「人権の行使が一切不法行為になり得ないとはいえない上,」を削除する。)。
2 争点(2)(本件参拝は,国家賠償法第1条第1項にいう「公務員が,その職務を行うについて」なされたものといえるか。)について
(1) 判断の前提となる事実の認定については,次のとおり付加,訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄中の「第3 争点に対する判断」の2の(2)(原判決30頁23行目から38頁14行目まで)に記載するとおりであるから,これを引用する。
ア 原判決30頁25行目の「(1)及び(2)」の次に「,23,24の1,2」を加える。
イ 同34頁13行目の「献花一対を本殿に備えさせた。」の次に「被控訴人小泉は,玉ぐし料については公費,私費ともに支出しなかった。」を加える。
ウ 同36頁19行目から同37頁11行目までを次のとおり改める。
「(イ) 昭和53年8月15日,福田赳夫内閣総理大臣は,公用車を使用し,3名の公職者を同行させ,靖國神社に参拝した。その際,同総理大臣は,「内閣総理大臣福田赳夫」と記帳し,私費で玉ぐし料を支出した。
同年10月17日,安倍晋太郎内閣官房長官は,参議院内閣委員会において,内閣総理大臣等の靖國神社参拝についての政府統一見解について次のとおり説明した。「内閣総理大臣その他の国務大臣の地位にある者であっても,私人として憲法上信教の自由が保障されていることは言うまでもないから,これらの者が,私人の立場で神社,仏閣等に参拝することはもとより自由であって,このような立場で靖国神社に参拝することは,これまでもしばしば行われているところである。閣僚の地位にある者は,その地位の重さから,およそ公人と私人との立場の使い分けは困難であるとの主張があるが,神社,仏閣等への参拝は,宗教心のあらわれとして,すぐれて私的な性格を有するものであり,特に,政府の行事として参拝を実施することが決定されるとか,玉ぐし料等の経費を公費で支出するなどの事情がない限り,それは私人の立場での行動と見るべきものと考えられる。先般の内閣総理大臣等の靖国神社参拝に関しては,公用車を利用したこと等をもって私人の立場を超えたものとする主張もあるが,閣僚の場合,警備上の都合,緊急時の連絡の必要等から,私人としての行動の際にも,必要に応じて公用車を使用しており,公用車を利用したからといって,私人の立場を離れたものとは言えない。また,記帳に当たり,その地位を示す肩書きを付すことも,その地位にある個人をあらわす場合に,慣例としてしばしば用いられており,肩書きを付したからといって,私人の立場を離れたものと考えることはできない。さらに,気持ちを同じくする閣僚が同行したからといって,私人の立場が損なわれるものではない。なお,先般の参拝に当たっては,私人の立場で参拝するものであることをあらかじめ国民の前に明らかにし,公の立場での参拝であるとの誤解を受けることのないよう配慮したところであり,また,当然のことながら玉ぐし料は私費で支払われている。以上が内閣総理大臣等の靖国神社参拝についての政府としての統一見解でございます。」
エ 同37頁12行目から19行目までを次のとおり改める。
「(ウ) 昭和55年11月17日,次のとおり,国務大臣の靖國神社参拝についての政府統一見解が示された。
「政府としては,従来から,内閣総理大臣その他の国務大臣が国務大臣としての資格で靖国神社に参拝することは,憲法第20条第3項との関係で問題があるとの立場で一貫してきている。右の問題があるということの意味は,このような参拝が合憲か違憲かということについては,いろいろな考え方があり,政府としては違憲とも合憲とも断定していないが,このような参拝が違憲ではないかとの疑いをなお否定できないということである。そこで政府としては,従来から事柄の性質上慎重な立場をとり,国務大臣としての資格で靖国神社に参拝することは差し控えることを一貫した方針としてきたところである。」
オ 同37頁19行目の次に改行して次のとおり加える。
「(エ) 昭和57年4月17日の閣議決定により,「戦没者を追悼し平和を祈念する日」が設けられ,毎年8月15日がその期日とされ,その日に全国戦没者追悼式が実施されることとされた。「戦没者を追悼し平和を祈念する日」を設ける趣旨は「先の大戦において亡くなられた方々を追悼し平和を祈念するため」であるとされている。全国戦没者追悼式は,天皇皇后両陛下のご臨席を仰いで,毎年8月15日,日本武道館において実施することとされており,遺族のほか,内閣総理大臣,衆議院議長,参議院議長,最高裁判所長官,各国務大臣等が参列して行われている。平成13年8月15日にも全国戦没者追悼式が実施された。」
カ 同頁20行目の「(エ)」を「(オ)」に,同38頁7行目の「(オ)」を「(カ)」に,同頁10行目の「(カ)」を「(キ)」に,同頁12行目の「(キ)」を「(ク)」にそれぞれ改める。
キ 同38頁14行目の次に行を改めて次の文章を加える。
「(ケ) 被控訴人小泉は,平成16年4月7日,首相官邸において,記者団に対し,個人的信条に基づいて本件参拝を行ったことを明言した。また,被控訴人小泉は,同17年5月20日,参議院予算委員会において,議員の質問に対し,本件参拝を含めた平成13年から同16年の間に行った靖國神社への参拝に関し,いずれも個人として行ったもので,内閣総理大臣の職務として行ったものではない旨答弁した。」
(2) 上記引用に係る原判決の認定事実(前記訂正部分を含む。)によれば,被控訴人小泉は,毎年8月15日の戦没慰霊祭の日に靖國神社に赴いて,尊い命を犠牲に日本のために戦った戦没者の霊を拝礼しなければならないとの自己の信念の下に,平成13年8月15日に靖國神社に赴いて戦没者の霊を拝礼するつもりであったが,内外から再考を求める声が強いなど,同日に靖國神社参拝を実施することにより,政権運営に事実上種々の支障が出ることを回避する等の考慮から,内閣総理大臣の立場においてその職務行為として参拝する趣旨であると受け取られることを避けるために,同日に靖國神社を参拝することについてはこれを断念して同月13日に本件参拝を私的に行うこととし,同日,靖國神社に赴き,同神社参集所において,「内閣総理大臣小泉純一郎」と記帳し,本殿に昇殿して祭壇に向かって黙祷した後,一礼方式で拝礼したこと,これに先立って私費で献花代3万円を支払い,「献花 内閣総理大臣 小泉純一郎」と記載された名札を付した献花一対を本殿に備えさせたこと,以上の事実が認められる。そして,靖國神社が,国家のために戦没した軍人,軍属等の霊を慰めるためにお社(やしろ)を建立して戦没者の招魂慰霊の祭を行うことを目的としており,このようにして軍人,軍属等の霊を祀って宗教上の活動である祭祀を行う施設であることは公知の事実であることに照らすと,本件参拝は,仮に内閣総理大臣の職務行為として行われたとすれば,全体として,信教の自由に対する制度的保障である政教分離規定とされる憲法第20条第3項において国及びその機関が行うことを禁止されている「宗教的活動」に当たる可能性があるということができる(最高裁平成4年(行ツ)第156号同9年4月2日大法廷判決民集51巻4号1673頁参照)。
そこで,本件参拝は控訴人らの主張するように被控訴人小泉が内閣総理大臣の職務行為として行ったものであるかどうかを検討するに,前記引用に係る原判決の認定事実(前記訂正部分を含む。)によれば,
ア 被控訴人小泉の本件参拝実施に関する判断,意思としては,前記のとおり,平成13年8月15日の戦没慰霊祭の日に靖國神社に赴くことについて内外から再考を求める声が強いなど,同日に靖國神社参拝を実施することにより,政権運営に事実上の支障が出ることを回避する等の考慮から,内閣総理大臣の立場においてその職務行為として参拝する趣旨であると受け取られることを避けるために,同日靖國神社に赴くことを断念して同月13日に本件参拝を私的に行うこととしたものであること(前記引用に係る原判決の認定事実(前記訂正部分を含む。)によれば,現に,被控訴人小泉は,平成16年4月7日に首相官邸で記者団に対して,また,同17年5月20日に参議院予算委員会において,本件参拝について,内閣総理大臣の職務としてこれを行ったものではなく,個人としてこれを行ったことを明言していることが認められる。もっとも,前記引用に係る原判決の認定事実(前記訂正部分を含む。)によれば,被控訴人小泉は,平成13年4月18日の自民党総裁選の討論会で「尊い命を犠牲に日本のために戦った戦没者たちに敬意と感謝の誠をささげるのは政治家として当然。まして首相に就任したら,8月15日の戦没慰霊祭の日に,いかなる批判があろうと必ず参拝する。」と発言したこと,さらに,被控訴人小泉は,平成15年1月28日の予算委員会において,本件参拝について,自分が約束したことであり,8月15日に参拝することが公約であることのように発言したことが認められるが,本件参拝が,後記のとおり,全体として,被控訴人小泉において自己の信条に基づいて行った私的な宗教上の行為であるか,又は個人的な立場で行った儀礼上の行為であるというべきであって,内閣総理大臣の職務行為として行われたものとはいい難いことに照らすと,被控訴人小泉の上記各発言のみをもって,本件参拝を内閣総理大臣の職務行為と見ることも困難というほかない。),
イ 被控訴人小泉が平成13年8月13日に靖國神社に赴いて本件参拝を行った一連の行為の全容は,靖國神社に赴き,同神社参集所において,「内閣総理大臣小泉純一郎」と記帳し,本殿に昇殿して祭壇に向かって黙祷した後,一礼方式で拝礼したこと,これに先立って,私費で献花代3万円を支払い,「献花 内閣総理大臣 小泉純一郎」と記載された名札を付した献花一対を本殿に備えさせたこと(玉ぐし料については公費でも私費でも支出されていない。),以上に尽きるのであるが,被控訴人小泉が靖國神社の本殿に昇殿して戦没者の霊を拝礼した宗教上の行為は,被控訴人小泉が,専ら個人的な信条に基づき,戦没者の霊に拝礼するという宗教上の行為を行うものであって,元来純然たる私的行為として,むしろ私人としての被控訴人小泉個人が憲法第20条第1項により保障されるべき信教の自由の範疇に属する事柄というべきものであり,献花代3万円を上記のとおり私費で支払っていることに照らしても,被控訴人小泉による上記拝礼行為が総理大臣としての職務行為として行われたものとはいい難いこと,
ウ 確かに,被控訴人小泉は,「献花 内閣総理大臣 小泉純一郎」と記載された名札を付した献花一対を本殿に備えさせているが,献花代は私費で負担していることは前記のとおりであって,したがって,上記献花は,専ら個人的な信条に基づく私的行為であるか又は個人の立場で行われた儀礼上の行為の域を出るものとはいえないこと,また,前記のとおり,玉ぐし料については公費でも私費でも支出されていないこと,
エ 被控訴人小泉が靖國神社参集所において「内閣総理大臣小泉純一郎」と記帳した行為についても,被控訴人小泉が個人として記帳するに当たって上記の肩書きを付したにとどまるものであって,この行為も,被控訴人小泉が専ら個人的な信条に基づいて行った私的行為であるか又は個人の立場で行った儀礼上の行為であるというべきであること,
オ なお,被控訴人小泉は,本件参拝に際し,靖國神社への往復に公用車を用いており,内閣総理大臣秘書官及びSPを同行させたが,弁論の全趣旨によれば,内閣総理大臣の地位にある者が公務の完了前に私的行為を行う場合に必要な措置として執られたものであることが認められるから,靖國神社への往復に限っていえば内閣総理大臣の職務に関連して行われた行為であるということはできるとしても,上記の措置が執られたことをもって,被控訴人小泉が同日に靖國神社に赴いて本件参拝を行った一連の行為が全体として内閣総理大臣の職務行為として行われたことになるとまで評価することは困難というほかないこと,
カ さらに,被控訴人小泉が本件参拝のために靖國神社に赴いた時期と政府が主宰する行事との関係についてみるに,昭和57年4月17日の閣議決定により,「戦没者を追悼し平和を祈念する日」が設けられ,毎年8月15日がその期日とされ,その日に全国戦没者追悼式が実施されることとされており,平成13年8月15日にも全国戦没者追悼式が実施されたことは前記のとおりであるところ,被控訴人小泉が本件参拝のために靖國神社に赴いたのは同月13日であり,「戦没者を追悼し平和を祈念する日」の行事として政府によりその実施が決定されていたものではなく,政府の主催する全国戦没者追悼式と一体性を有するものではないことが明らかであること,
以上の事情が認められるのであって,これらによれば,被控訴人小泉が同月13日に靖國神社に赴いて本件参拝を行った一連の行為は,被控訴人小泉の判断,意思(内閣総理大臣の立場においてその職務行為として参拝する趣旨であると受け取られることを避けるために,同月15日に靖國神社に赴くことを断念して同月13日に参拝を私的に行うこととしたこと),被控訴人小泉が靖國神社の本殿に昇殿して戦没者の霊を拝礼した行為の目的,性質等(専ら個人的な信条に基づく宗教上の行為であって,元来純然たる私的行為として被控訴人小泉個人が憲法第20条第1項により保障されるべき信教の自由の範疇に属するものであること),政府の主催する公式行事との関係等の客観的状況(本件参拝が政府の主宰する「戦没者を追悼し平和を祈念する日」の行事として政府によりその実施が決定されていたものではないこと)等に照らし,上記の行為のうちに内閣総理大臣の職務行為として行われたものがあるとはいい難く,本件参拝は,被控訴人小泉が自己の信条に基づいて行った私的な宗教上の行為であるか,又は個人の立場で行った儀礼上の行為であるというべきであるから,いずれも個人的な行為の域を出るものではなく,本件参拝が内閣総理大臣の職務行為として行われたものであるとは認め難いものといわなければならない。
以上によれば,被控訴人小泉が平成13年8月13日に靖國神社に赴いて本件参拝を行った一連の行為は,これらを一体の行為としてみても,また,個別の行為としてみても,いずれも国家賠償法第1条第1項所定の「公権力の行使に当たる公務員が,その職務を行うについて」されたものには当たらないものというべきである。そうすると,本件参拝が内閣総理大臣の職務行為として行われたものであることを前提とし,これが憲法第20条第3項に違反するとする控訴人らの主張は,その前提を欠くものであり,控訴人らの請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないといわざるを得ない。
なお,公権力の行使に当たる公務員の地位にある者が専ら自己の利を図る目的で職務上の地位を利用してあたかも公務員の公権力の行使に関する職務行為であるかのように装い,その結果,公務員の上記職務行為であると誤信した者に損害を与えた場合等にも同項に基づく責任が肯定されることがあり得るとしても(最高裁昭和29年(オ)第774号同31年11月30日第二小法廷判決民集10巻11号1502頁参照),本件参拝に関して上述したところに照らすと,被控訴人小泉が,靖國神社への往復に公用車を使用し,秘書官及びSPを同行させ,内閣総理大臣の肩書きを付して記帳し,献花をし,参拝を行ったことによって,上記のような場合に当たるということはできないから,本件参拝が内閣総理大臣の公権力の行使に関する職務と法的関連性を有するものとはいえない。
(3) 控訴人らは,被控訴人小泉が本件参拝の前後を通じて私人としての参拝と評価されるような配慮を全くせず,「公人としての参拝」であるかのような言動を取り続けたのであり,近時の被控訴人小泉の発言は中国や韓国との関係が悪化した状況を踏まえて関係改善策としてされたものであるにすぎないなどとし,これを理由に,本件参拝が私人の立場で行われたものであることを否定する。
しかしながら,本件参拝が,被控訴人小泉において自己の信条に基づいて行った私的な宗教上の行為であるか,又は個人的な立場で行った儀礼上の行為であるというべきであって,いずれも個人的な行為の域を出るものではなく,したがって,本件参拝が内閣総理大臣の職務行為として行われたものとはいい難いことは前記のとおりである。したがって,控訴人らの上記主張を採用することはできない。
(4) 控訴人らは,争点(3)及び同(5)について,本件参拝が違憲,違法であること,被控訴人小泉は違法な職務行為であることを十分承知しながらこれを行ったものであり,個人としても損害賠償責任を負うべきであること,本件参拝により控訴人らの権利,法的利益が侵害されたことは明らかであることなどを主張する。
しかしながら,被控訴人小泉が行った本件参拝に関連する一連の行為が,国家賠償法第1条第1項所定の「公権力の行使に当たる公務員が,その職務を行うについて」されたものには当たらないものというべきであることは前記のとおりである。したがって,控訴人らの上記主張は,いずれもその前提を欠くものであって,失当であるといわざるを得ない。
3 以上のとおり,控訴人らの請求はいずれも理由がないから棄却すべきである。
第4 結論
よって,控訴人らの被控訴人らに対する請求を棄却した原判決は結論において相当であるから,控訴人らの本件各控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第21民事部
(裁判長裁判官 浜野 惺 裁判官 高世 三郎 裁判官 長久保 尚善)
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