第1章(9/19UP)



 気がつくと『僕』はそこにいた。

 ここはどこだろう?

 周りには無数に立ち並ぶビルの群れ…辺りを見まわすが、緑は全くない。
 緑がない代わりにそこに『いる』のは、無数の人々。
 何が目的でいるのかわからない男女、何処へ行くとも知れず立ちすくむ人、さかんに大声で何か訳の分からない言葉を発しつづける人、明らかに日本人離れした顔立ちの人、その辺りのブロックに腰を下ろし、酒を飲みながら虚ろな目で会話を交わしている、薄汚れた衣服を身にまとった人…

 どうやら、ここにはありとあらゆるタイプの人種が共存しているようだ。
だが、それによってのもめごとや犯罪行為は全くないらしい。
何故かは分からないが、ここには警官の姿が一人として見当たらないのだ。
治安的には安全らしい。
『そんなわけないだろうがヨ』
誰かが『僕』に話しかけている。ふりむくと、そこには一人の男が立っていた。
いや、厳密には『男だと思う』人間が。
『僕』がそう表現したのには理由がある。
その『人間』は、なぜか顔を隠しているからだ。『僕』が男だと判断したのは、単にその『人間』の声の質だけである。
深めに帽子をかぶり、サングラス、マスク。見る人が見れば間違いなく一瞬で職質を受けるタイプだ。
『まあ、ついてこいヨ。ここの本当の姿を見せてやるからサ。』
男(?)はつぶやく。一瞬迷ったが、どうせ他に目的もないし、どうでもいいという気持ちからだろうか。気がつくと彼についていっていた。

 彼が連れてこられたのは、薄汚いダンボールの、とても家と呼べるようなものではない場所だった。俗に言うホームレスだったのだろう。
 何故彼についてきてしまったのだろう。どうでもよかったはずだ。だが、何故か彼には抗う事が出来なかった。彼の一言一言に、何故か『僕』の心は激しく揺さぶられている。大した事も話していないのに…

 『あんた、名前はなんていうんダ?』
『え?』
『あんたの名前だよ。名前くらいあるんだろう?それとも、名前まで忘れてるのかイ?』
『……』
『オイオイ。マジかヨ?本当に覚えていないのカ?全く、あんたも落ちるところまで落ちたナ。』
『ちょっと待て。お前は…僕の事を知っているのか?何故僕の事を知っている?お前は何物だ?何故僕の事を…』
『まあ落ち着きなっテ。後でゆっくり話してやるヨ。まだ目的地には着いてないゼ。』
『…………』

 なんだろう?この胸の中にある苛立ちは。それよりも、こいつは本当に何物なんだ?
 僕の事を知っているみたいだったが…

 『さて、着いたぜ。ここが俺のねぐらダ。汚いところだけど上がってくれヨ。』
『言われなくてもそうするさ。で、もういいだろう。着くべきところには着いた。そろそろ話してくれてもいいだろう?』
『そうさナ…何処から話せばいいのかナ…』


===続く===


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