羂索

羂索

インターホン(阪神ファンの夕暮れ)


○インターホン(阪神ファンの夕暮れ)

○登場人物
雅之 (35)
まゆみ(31)

○雅之宅・玄関(夕暮れ)
雅之インターホンを押す。
ピンポーン
まゆみ「はい」
雅之 「ただいま、俺、開けて」
まゆみ「どちら様ですか?」
雅之 「雅之だよ、雅之」
まゆみ「雅之?どこの雅之さん?」
雅之 「ふざけんなよ」
まゆみ「ふざけてんのはどっちよ。簡単に家に入れると思ってたの?」
雅之 「何かしたか俺?」
まゆみ「しらきるつもり」
雅之 「しらきるもなにも、なんもしてねえんだから」
まゆみ「そう、だったらそこにずっといればいいじゃない。思い出すまで」
雅之 「思い出すまでって・・」
まゆみ「考えなさいよ」
雅之 「(めんどくさそうに)えーなに?ああ、わかった・・・・競馬で二万負け
たことか」
まゆみ「知らない。何よそれ」
雅之 「違うのか?」
まゆみ「信じられない。二万も負けたの、あきれた。私がどんだけ家計で苦しんで
ると思ってるのよ」
雅之 「しくった」
まゆみ「なにがしくったよ。二万円分残業してきなさいよ」
雅之 「無茶言うなよ。今の会社残業なんかあるわけないじゃん」
まゆみ「アルバイトでもすればいいじゃん」
雅之 「ちょっとまてよ、おまえが怒ってるのはこれじゃないんだろ」
まゆみ「そうよ、でももっと腹がたってきた」
雅之 「ああ、あれか。お前の鬼武者のセーブデータ消したことか」
まゆみ「ちょっと、あれ、あんたが消しの!幸三がしたと思って幸三を怒っちゃたじゃない。どうしよう」
雅之 「俺がちゃんと謝ってやるから。家にいれろよ」
まゆみ「だめよ、このことで怒ってるんじゃないんだから」
雅之 「なんだよ、もう。(大声で)幸三、幸三、お父さん帰ってきたぞ。玄関開
けてくれ」
まゆみ「幸三は今寝てます」
雅之 「うそつけ、まだ6時だぞ」
まゆみ「遠足でつかれて、寝ちゃったのよ」
雅之 「朝、いつも通りランドセルしょってでていったじゃねえか」
まゆみ「うるさいわね。幸三はいまテレビ見てるの」
雅之 「・・・・・テレビ、どうなってる?」
まゆみ「ちゃんと映ってるわよ」
雅之 「ちがうよ」
まゆみ「なにがよ」
雅之 「わかってるだろ」
まゆみ「なによ」
雅之 「野球だよ」
まゆみ「・・・わかってるわよ。だから言いいたくないし、家にもいれない」
雅之 「ちょっとまてよ。俺がどんだけ楽しみにしてきたかしってんだろ」
まゆみ「知ってるから、わざとやってるんじゃない」
雅之 「あーおまえってほんと嫌な女だな」
まゆみ「あんたに言われたくない」
雅之 「あーまじで、ちょっと、阪神の優勝がかかってんだよ」
まゆみ「・・・・」
雅之 「試合見せてくれよ」
まゆみ「・・・キャー」
雅之 「どうした?」
まゆみ「・・中村が、中村紀がホームラン打っの!キャー」
雅之 「えっ・・・よっしゃー。FAで取ったかいがあったよ。松井は、ゴジラは
どうなった?」
まゆみ「松井はねぇ、(ハッと気がついて)なんであんたに教えなきゃいけないの
よ」
雅之 「わかった、土下座するから許してくれ」
まゆみ「なんで見えないのに土下座なのよ」
雅之 「(大声で)すまん、俺が悪かった」
まゆみ「・・・・」
雅之 「あっ。こ、こんばんわ。今日もあついですね」
まゆみ「何いってんの?」
雅之 「田中さんに見られちゃったじゃねえか」
まゆみ「はずかしいわねぇ」
雅之 「ランディーのお散歩ですか?気をつけていってらっしゃい」
まゆみ「何やってんのよ!明日からどういう顔して会えばいいのよ」
雅之 「おまえが悪いんじゃねえか。土下座させやがって、さっさと入れろよ」
まゆみ「あんたが勝手にやったんでしょ。なにが悪かったかもわからないくせに」
雅之 「ほんとわかんねぇ。なにしたの俺?」
まゆみ「バカよね、あんたって。『昨日の夜は楽しかった。あの夜は浜中が描くホ
ームランの放物線より素敵だった。あの一瞬をなんとかキャッチしようとしたけ
ど、まきちゃんは赤星のごとくすばやく居なくなってしまった。僕はまきちゃんの
ことが忘れられない。また会ってくれるよね。雅之 』・・・何このダサい文
章?」
雅之 「なんでそれ、おまえが・・」
まゆみ「私の携帯に入ってた」
雅之 「へっ」
まゆみ「へっじゃないでしょ。私はまゆみ。間違って入ってたわよ。メール」
雅之 「そんなバカな」
まゆみ「だから、バカねっていてんのよ」
雅之 「返事が返ってこねぇからおかしと思ってたんだよ」
まゆみ「なに冷静に考えてんのよ」
雅之 「しょうがねえじゃん、事実なんだから」
まゆみ「ひらきなおらないでよ!」
雅之「素直に認めたんだからいいじゃん」
まゆみ「素直に認めたからいいとかそういう問題じゃない!浮気が問題なの」
雅之 「浮気だから許してよ、本気じゃないんだから」
まゆみ「これで何人目?次したら離婚するっていったよね」
雅之 「離婚はだめだ」
まゆみ「なに強きにでてんの」
雅之 「ごめんて、お前が1番に決まってんじゃん。ほらちゃんと家に帰ってきて
るし」
まゆみ「私のためじゃないでしょ。野球のためでしょ」
雅之 「わかった、ちゃんと女と手切るから」
まゆみ「なにが、手を切るよよ、女に逃げられてるくせに」
雅之 「・・・」
まゆみ「なにが浜中のホームランよ、なにが赤星のごとくよ、ばっかじゃない」
雅之 「本当に、申し訳ない。絶対次はしない」
まゆみ「それ、いままで何回言った」
雅之 「(まじめに)今回は本当だ。おまえいい女だもん。だってさぁ、普通こん
なメールみつかって、浮気五回目がばれたんだ、家にいないよ。逃げられてるよ。
でもお前は家に居てくれる。俺の話聞いてくれようとしてるじゃん。やっぱり他の女じゃだめだ。おまえじゃなきゃだめだ。だから離婚なんていうなよ」
まゆみ「・・・・・だってあんたバカなんだもん、私がいなきゃなにもできないか
ら・・・」
雅之 「どうしたら許してくれる?」
まゆみ「・・・あんたが1番好きなものガマンしたら許してあげる」
雅之 「なにをがまんするんだ」
まゆみ「今日野球見ること。阪神の優勝が見れないこと」
雅之 「なんだよそれ」
まゆみ「それぐらいできるでしょ。私はもっとがまんしてきたんだから」
雅之 「・・・」
まゆみ「いいじゃないそれくらい」
雅之 「・・・・」
まゆみ「たった数時間でゆるしてあげるっていってるんだから」
雅之 「できねえ」
まゆみ「なに?」
雅之 「できねえ」
まゆみ「なんなのよ」
雅之 「できねえっていってるんだよ。俺はなあこの日のために何十年という苦渋
をあじわってきたんだよ。もうがまんはできねえ。野球みせてくれたら、離婚でも
なんでもしてやるよ!」
まゆみ「・・・・・バカ!。バカ!バカ!バカ!。あープライド傷ついた。女にと
られたあげく野球にまでとられた私はなんなのよ!女のところでも、甲子園でも好
きなところに行けばいいのよ。サヨウナラ」
ガチャ
雅之 「まゆみ!まゆみ!」
             終わり





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