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MURDEROUS PLOT
01.言えない気持ち
「サチ。サチ。起きろよ。」
頬を叩かれる感覚に、目覚めさせられる。
「…。」
寝起きに見た顔は、私のお兄ちゃんである、サトルだった。
「おーい。まだ寝ぼけてんのかぁ?」
も一つオマケに、と言って頬へと近づけてくる手を一蹴する。
「とっくに起きてる。」
むっすりと叩かれた頬を膨らませながら、私はそう返す。
「ホントかぁ?お前、この前教室でも先生にんなこと言ってたけど、その割に眠そうな顔してたじゃんか。」
からからと笑うサトルと、むっすりしている私は、同い年の兄弟――所謂、二卵性双生児だ。だから、顔も驚く程似ていないし、特技も趣味もかみ合う所が滅多に見当たらない。
そして、私と彼は偶然同じクラスになったのだ。小学校、中学校、そして高校と一緒の学校へ通い続けている上に、必ず同じクラスになったというのは、お互い相当に結びついているんだろう。
「この前はね。でも、今日は家に居るから平気。」
「何だ、その理論は。」
裏拳でツッコミを入れられて少しよろける私を、彼は悠々と眺めている。
あぁもう、なんて余裕そうなツラしてらっしゃるんでしょう。主導権は俺にある、とでも言いたげな。
「別に、ただの一般論。」
サトルは、数学が得意で、私は国語が得意。サトルは体育が一番好きで、私は音楽が一番好き。お互い、本当に正反対なのに、根本的な部分は通じ合えている。
「あ、そ。」
そう言ったサトルの携帯が、急にバイブで鳴り出した。サトルは、焦るわけでもなくゆっくりと通話ボタンを押した。
「もしもし。」
途端に、それまでの声とは明らかに違う覇気のある声に摩り替わる。やれやれだ。一体誰と話しているのか知らないが、そんなに嬉しそうに会話をしないでほしい。電話の相手が羨ましくなってしまうじゃないか。
サトルは(自分では気づいていないみたいだが)、かなり格好良い。何でもそつなくこなすし、優しいし、面倒見も良い。スーパーマンとは、きっと彼を形容するためにある言葉なんだろうとさえ思う。
同じ兄妹でも、私とは大違いだ。私は、特に取柄も無いし、どちらかというとつっけんどんで、他人なんて知ったこっちゃない、っていう風なスタンスを保ってる。何ていうんだろう、こういうの。あ、そうだ。『一線を画す』って言うんだっけ。
そこまでの思考を終えた時、タイミングぴったりにサトルも携帯の通話を終えた。そして、突然私の両手を鷲掴みにした。
「やったー!!サチ、俺やったよ!!」
私はと言えば、突如訪れた展開について行けず、目を白黒させるばかりだ。
「何を?」
「滝嶋さんと、明日デートすることになった!!」
滝嶋サント、デート?
滝嶋さん、と言われる人を脳内検索にかける。暫しの間を経て、『私達の高校一の美女』と謳われる才色兼備の女子だと判明した。彼女は私とサトルと同い年の高校二年生で、入学当初から、告白の嵐をかいくぐってきたというツワモノだ。彼女は今まで、誰からのアプローチも断り続けてきたというのに。
…ああ、そうか。サトルは、スーパーマンだもんね。きっと、滝嶋さんも、才色兼備の自分と釣り合えるのは、サトルだけだと判断したんだろう。正しい判断だ。
『サチ、しっかりしなさい。こういう時は、喜んであげるべきでしょう。良かったね、と言って褒めてやらなきゃ駄目でしょう。』
脳内会議で出た答えは、その『善意』と、
『サチ、お前本当に良いのか??サトルをぽっと出の女に奪われて、悔しくないのか??昔から、サトルのこと一番知ってるのはサチだけだぞ?』
という『悪意』の二パターンだった。
自分の知ってる人が、そのイメージから遠のいていく瞬間は、たまらなくこの胸をキリキリさせる。サトルってば、ただでさえ小さい胸を、これ以上小さくさせたいのだろうか。
――…私だって、さ。血が繋がってなかったら……。
「サチ?」
気づいたら、サトルが私のおでこに彼のおでこをくっつけようとしていた。おでこが徐々にこちらに近づいてくるのを見て、思わず後じさった。
「熱は無いから安心して。ちょっと考え事してたの。」
そう言うと、彼のおでこを両手で押し戻す。
「だったら、なんかリアクションくれよ。サチが無反応だと、なんか俺、つまんないんだからさ。」
拗ねてみせる彼は、きっと滝嶋さんの知らない彼なんだろう。きっと、他の誰も知らない、彼が私にだけ見せる顔。
それを見る度に、滅多に笑わない私は微笑んでしまうんだ。彼が私に、他の人に求めない何かを求めてくれている気がしてしまって。
「えへへ。」
「え、ここ笑うトコ?」
サトルは首を傾げてみせるけれど、私はそれを見て更に笑ってしまう。
なんだ、サトルは昔と何ら変わらないんだなぁ。変わったのは、身長と体重と、学力と運動能力なんだなぁって。嬉しくて。
「うん。笑うトコだよ。」
私がそう言って更に微笑んでみせると、彼もふっと楽しそうに笑って、「そういうもんかぁ。」とうたった。
結局、彼への愛しい気持ちは、今日も仕舞うことになった。
だって、肉親にそんな事実を言ったって、相手を困らせてしまうだけだし。彼もまさか、私が恋愛対象として自分を見ているなんて、夢にも思っていないだろうから。
だからきっと、いつかほとばしってしまう日まで、私は上手く気持ちに蓋をして、ただ誤魔化すように笑い続けるんだろう。
その後で彼から聞いた話だけれど、滝嶋さんとのデートは、お互いの価値観の相違で上手くいかなかったんだそうだ。
内心ホッとして微笑んだ私を、彼は咎めるように軽く睨んだのだった。
いつか、彼が私を同い年の女の子として、一瞬でも意識してくれれば良いのだけれど。
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