MURDEROUS PLOT

MURDEROUS PLOT

「不良?」【芭夢】



私には、今でもよくわからずにいる。
あいつが不良かどうか、なんて。

不良?

「くあぁぁ…。」
6時間目の終了のチャイムと同時に、私はひっそりと欠伸を噛み殺した。これで今日の授業は終了かと思うと、思わず笑みが零れ落ちる。
「あー眠かった!!」
理科総合の吉谷先生の授業は、退屈の極み、と言っても過言では無かった。自分の自慢話に始まり、家族の話で終わる。
実際にきちんと授業をしてくれているのは、1時間の内のほんの数十分だと思われる。こんな人でも教師になれるんだから、世も末だ。
そんな事を考えながら、明日の授業では使いそうもない教科書やノートを、後ろのロッカーへと持って行く。
がちゃり、と私のロッカーを開けると、『どさどさ』と大雪崩が発生した。まるでそれは、置きっぱなしの教科書達が起こしたブーイングみたいだった。
「好い加減持って帰って勉強しろよ!!!」という声のようだ。しかし、私は彼らを上手く押し込めると、また元のようにドアを閉めた。
「よし、お片付け成功。」
我ながら適当だな、と呆れざるを得ない。いつからか、私はこんなにも怠惰な性格になってしまった。昔はもっと、覇気のある子供だったのに。
たかが15歳の小娘が何を戯けた事を、と年配の方から叱咤を喰らってしまいそうだ。もう少し、気を引き締めなくちゃいけないのかもしれない。
自分の席へ戻ろうと、私は小走りになる。生徒と生徒の机の間はとても狭く、「そこを走り抜けるのは少々骨が折れるなぁ。」とぼんやり思いながら。
難儀だと思うのなら、遠回りをするなり、走るのを止めるなりすれば良かったのかもしれない。何も、リスクを冒してまですべき事じゃあないだろう。
しかし、等速直線運動という厄介な法則がこの世に存在するのだから、私はその意志とは裏腹に、走り続けなければいけなかった。
結果は、私の想像を遥かに上回る、悲惨なものだった。
「うわぁぁぁあ!!」
一瞬、何が起こったのかわからなかった。ただその時にわかったのは、自分の情けない叫び声だけ。
次に気づいた時、私は見事に机と机の間ですっ転んでいた。ゴチ、と机に額をぶつけ、「いっつぅうう!!!!」と、またもや情けない声を上げる。
「あ、悪ぃな。」
さらり、と耳元に男の声が通り過ぎた。今の謝罪は、私に宛てたもの?と、私は声のする方を見上げる。
視線の先には、椅子の上に座って携帯を弄くっている、美形な青年。その青年が、自分の足を指差したのを見て、彼の足を見遣る。
彼の足は、私の進路を妨害していたのだ。それに気づかぬままに、私はそこを強行突破しようとした。結果、コケてしまった。
要点を全てまとめると…。私は、彼の足に引っ掛かって転んだ、という事だった。
頭がズキリ、と痛むので手をおずおずと遣る。たんこぶが出来ていた。途端に、目の前の青年への怒りが私を取り巻き始めた。
たんこぶも出来て、周囲に恥を晒して、散々な目にあった私に対する謝罪が「あ、悪ぃな。」だなんて…酷すぎる…!!!!!
「『あ、悪ぃな。』じゃないわよ!!!!たんこぶ出来ちゃったじゃないの!!!!もっと誠意のある謝り方は出来ないの!?」
目の前の彼は、いきなり大声を出した私に面食らったらしく、黙りこくってしまった。余りにもその沈黙に耐えられなかったので、
「まぁ、別に良いけどさ。」と慌てて取り繕って、その場を去った。自分の席に着いた時、私の頬は羞恥と怒りで真紅に染まりきっていた。

それが、私と御柳芭唐のファーストコンタクト。

彼は、まるで私の事を歯牙にもかけていないみたいだった。俺様的態度、深緑に染められた髪、目元の赤いライン、フーセンガムを噛む音、
だらしない服装、冷たい言葉。それら全てが私に「こいつは不良だ」と訴えかけている事は、誰の目に見ても明らかであったと思う。


セカンドコンタクトは、それから数ヶ月した梅雨の日の放課後。


私の家の近くに、小さな市営の公園がある。そこはいつも帰る時には子供で賑わっているのだけれど、梅雨の期間だけはめっきり人が来ない。
まぁ、梅雨に外で遊ぶ子供なんて、そうそう居ないだろうから、当たり前と言ってしまえば当たり前だ。
私は、暴風と暴雨に苛まれながらも、必死に家へ向けて足を進めていた。時折、風が私の長い髪を投げ出そうとするのが堪らなく不快だった。
終いには、私は道のど真ん中で立ち止まり、髪の毛をポニーテールに結いなおしたのだ。
「あー、風邪ひいちゃう。急がないと。」
傘を握る手は強く、大地を蹴る足は勇ましく。まるでRPGの主人公みたいに、前へ前へと突き動かされた。
やっと、公園が見えてきた。もう一息だ。そう思い、ほっと溜息を漏らす。ついでに顔も地面へと向ける。
溜息を吐き終えた後で、ようやく顔を上げると、そこには先日散々な目に遭わされた元凶が居た。
「…?!」
そいつは、傘も何もささず、公園の真ん中でしゃがみ込んでいた。一体、何の真似だろう。私はそっと背後に忍び寄った。
ぴちょん、ぴちょん、と私の歩く音が雨音に掻き消されていく。その所為だろうか。彼は、真後ろに私が居る事にすら気づいていないようだった。
「…ね、こ。」
私は、「彼に気づかれたらどうしよう」とか考えもせずに、その一言を漏らしていた。彼の手元に小さな猫が擦り寄っているのが雨の狭間で朧げに見えた。
「…!??」
そいつは、やーっと私の存在に気づいたようで、「お前、あの時の…!!!」と言いながら、数歩だけ後ずさりした。
あの日の出来事がトラウマになっているのは、どうやら私1人だけでも無かったらしい。彼の私を見る畏怖の目でそれがわかった。
そんな彼の手は、しっかり猫を撫でている。この光景に私は、ひたすら驚いた。何より、彼が動物を愛でる様子は想像すらつかない。しかし、目の前の彼はそれを遣ってのけている。そのギャップに、私はただただ口をあんぐりと開けるばかりだ。
「ど、どうしたの?その猫。」
やっとの思いで搾り出した言葉。余りにも稚拙だな、と自嘲した。仮にも、以前彼を叱咤した女の言う台詞だろうか。
「野良なんだよ。前に此処を通った時に、懐かれた。」
私がまた怒る訳ではないと判断したのか、彼の警戒する声が弱くなっていった。
彼のスポーツバッグにちらりと目を遣ると、高校の購買で売っている150mlの牛乳パックがほんの少しはみ出している。
「その牛乳、わざわざこの猫の為に?」
私の視線と言葉で気づいたのか、彼は慌てて自分のスポーツバッグのチャックを閉めた。でももう手遅れ。私は見てしまった。
「悪ぃかよ?」
半ば逆ギレをしながらも、彼は必死に私を睨み付けた。でも、全然怖くなかった。それよりも、目の前の猫みたいに、何処か微笑ましささえ覚えた。
「ううん。悪くないよ。」
動物が好きなのかな、とか考えながらそう言うと、彼は「なら黙ってろ。」とぶつぶつ呟くように返事をした。やっぱり、可愛い。
「可愛いね。」
「そーだな。野良だけど、結構愛嬌ある顔してるよな。」
最初の時の不審な者に対する警戒している声は、遠いお山に捨ててきてしまったように感じられる位、今の彼の声は優しかった。
「ううん。猫もだけど、御柳君も。」
指差すと、彼は「は!?」と呆れたような声で私を見つめ返した。私は、相変わらず彼のスポーツバッグを見続けている。
「お前、頭可笑しいんじゃねぇの?」
「そうかもしれないね。」
自分でもそう思うよ、と返して、私は自らの傘を彼に差し出した。彼は、そんな私の一挙一動を全てその狐目で見つめている。
「野良猫君、もとい御柳君。私の家、スグ側だから、傘貸そうか?それとも、私の家で雨宿りする?」
彼は、私の傘を訝しがりつつも受け取って、「お前んち、寄らして。」と短く言った。
私は、どちらか一つを選ぶように差し迫ったのに、彼は二つとも選んだ。取捨選択という言葉を知らないのだろうか。
やっぱり俺様的態度だなぁ、と思いながら、私は彼を自宅へと招いた。でも、不思議と数ヶ月前の時のような侮蔑の感情はそこに見当たらなかった。








はい。強制終了ね。

この後何があったのかは、全て皆さんのご想像にお任せ。
ちなみにこの小説は実は書きかけです。
この後に
「私は、彼を自宅に入れると、防犯対策でいつものようにガチャリと鍵を閉めた。」
という文章を書いて、そんで止まってます。

はいソコ。破廉恥だとは言わないのっっ★☆


ま、ねぇ。御柳君は取捨選択、って言葉知らなさそう(激しく失礼)だし。
そしたら、主人公への畏怖を取るか、一時の愛を取るかという事に対しては、断然両方取るんじゃないかな、という考えですがね、私は。

ま、つまり器用貧乏って事かなぁ。あははは。



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