MURDEROUS PLOT

MURDEROUS PLOT

ラブ★コン【小堀夢】

人の後姿
私は中居 ルリ。
趣味はダウジング。
一口にダウジングと言っても、色々な種類があるので説明はしにくい。
でも、その中でも私がやっているダウジングとは、クリスタルを紐で吊るし、YESとNOにきっちり分かれる質問をした時のそれの動き方で沢山の出来事を予測することを言う。
そんな趣味からか、或いはお下げの地味な髪型からか、周囲からは根暗だと誤解されがちだ。
…まぁ、否定するつもりもないけれど。
こんな私が好きなものは、好きか嫌いかがハッキリと分かれるMCの海坊主。
物凄く人相が悪い部類に入る人だろう。けど、道端で出会うファンにお決まりのポーズを取ってみせる程とっても気さくで、ファンからも慕われている良い人だ。彼の出すCDは全て発売日当日に集めるのは当然のこと、ライブハウスにも小まめに通うなどしている。
雑踏

「じゃあね~。」
塾で友達と別れると、私はデジタルの腕時計をちらりと見る。
まだ夜7時の門限に辿り着くには程遠い時刻を指し示しているのがすぐにわかった。飛行機

埼玉で働いているお父さんが大阪に転勤すると決まった時、私達家族は一も二も無く一緒に大阪に移り住むことになった。
それからもう3年も経って、当時中学三年生だった私も今では高校三年生になったというのに、未だに関西弁には慣れることが出来ないでいる。
両親は二人揃って、「それは今まで埼玉にずっと住んでいたんだから仕方が無いんだよ。」と言う。
そう言ってくれるのは有り難いのだけれど、やっぱりこの土地の風習に慣れ親しめない私に対して心を開いてくれる友達は中々居ない。
そんな中でお互い心を開けるまでに至った貴重な友人が、さっき塾で別れたトキコちゃんなのだ。
彼女とは3年間ずっと同じクラスで、尚且つ塾のクラスも3年間ずっと一緒だった。それだけ密着していれば、流石に仲良くなれないのが不自然とも言えるだろう。
彼女は標準語の私と会話をしていても、それを気にする様子が微塵も無い。だから私も、自然と打ち解けていけたのだろうと思う。
眩暈
ふっと、過去を懐かしんでいた自分を現実に引き戻させたのは、車のクラクションだった。
どうやら、赤になった横断歩道を歩こうとしていたらしい。
車が私を轢こうと鼻先まで迫っていたことに気づかされて唖然とする。
現実世界とは違う場所にトリップしていた私を救ったのが車のクラクションだなんて、リアリティに欠ける気がした。
普通、誰かが「危ない!!」と叫んで、それに気づいてうろたえる私を誰かが助けてくれるとか、そういう展開に持ち込まれても良い筈なのに。
いや、それは漫画や小説の中での話か。
脳内に居る沢山の私はツッコミをしたりボケたりと三者三様で、どちらかと言うと彼女らを住まわせている私の方がどっと疲れてしまいそうだった。
私が車をちらりと畏怖の目で見つめると、中に乗る男性が何か言いたそうな目で私を一睨みして、車を発進させた。あっという間に走り去る車の背を、私はただ呆然と眺めるしかなかった。
きっと彼は「気をつけろ!!」という捨て台詞を吐きたかったんだろう。
そう勝手に解釈して、塾帰りにしょっちゅう寄るファミリーレストランへと足を向けることに決めた。
門限まで沢山の時間が有り余っているし、それに何より今年の私は受験生だから勉強していこうという考えがあったのである。
夕焼け
レストラン池辺の入り口に立つと、私の存在を認識してドアが勝手に開いた。流石は自動ドアである。
「いらっしゃいませー」
私が入った時に鳴ったブザーで気づいたのか、店の奥からウエイトレスがメニューを持って現れた。
しかし、随分と背が高い女性だ。160cmの私がこんなに見上げるのだから、きっと10cm位は上だろう。
「お一人様でいらっしゃいますね?」
「はい。」
「お煙草はお吸いになられますか?」
「いいえ。」
型どおりの応酬が続くと、ウエイトレスさんは「わかりました。こちらへどうぞ。」と関西ならではのイントネーションを残した言葉で禁煙席へと誘導してくれた。
そこのテーブルからは、厨房の中が軽く見ることが出来た。でも、そんなことはどうでも良いことだった。何せ、私は此処にただ食事をしに来ただけではなかったのだから。
「ご注文が決まりましたらお呼びください。」
そう言ってこの場を離れようとするウエイトレスさんを呼び止めて、いつも此処に来る度に飲んでいる恒例の飲み物「ポリネシアンダンサー」を一つ頼んだ。
「お客さん!!ポリネシアンダンサー、上手いですよね!!!」
さっきこの禁煙席まで案内してくれたウエイトレスさんは、とても陽気で優しい人だということが、この一言で直ぐに予想出来た。
関西の人の大抵の人(…というと差別や偏見にあたるかもしれないけれど…)は、ノリが良いと言われている。全てが全てそうではないけれど、例えば自分と同じ趣味や共通点を持つ人とは、すぐに意気投合してしまうらしい。
「はい!美味しいです!!私、コレを飲むのが大好きなんです!!!」
塾帰りに此処に寄り道をする時には、必ず頼むんです。
そう付け加えて、 ポリネシアンダンサーを指し示すと、彼女は私に握手を求めてきた。
「うちら、ポリネシアン仲間やね!!仲良くしよー!!」
「はい!!ウエイトレスさん!!」
友達が増えるのは私にとってもとても喜ばしいことだ。嬉しくて頬が緩む。
…と、突然私の携帯が鳴り響いた。メールが届いた時専用の海坊主の曲『渚の落とし穴』が軽快に音を立てていく。
「…お客さん…」
突然、目の前のウエイトレスさんが私の目を覗き込むように背をかがめた。
……あ、もしかして店内はマナーモードにしなきゃいけないんだっけ…?
慌てて私は携帯の*マークを長押しする。
すると液晶画面に『マナーモード設定しました』という文字が映りこんだ。
それを見て、ほっと安堵の溜息を漏らすと同時に、ウエイトレスさんに謝ろうと思って顔を彼女の方へと向けた。
「あの、マナーモードにしてなくてごめんな……!!」
「なぁなぁなぁなぁなぁなぁなぁなぁなぁなぁなぁなぁ!!!!!!!!!!!!!!!」
言い切ることも出来ずに、ウエイトレスさんの一声に押し迫られてしまう。
「あ、はい。何でしょう?」
「アンタ今何!?何何何流したぁあぁぁあああ!???」
突然ウエイトレスさんが椅子に座る私に今にも掴みかかりそうな体勢で言った。
その形相があまりにも鬼気迫っていたので、「あぁ、この人は海坊主が嫌いなんだなぁ。ポリネシアンダンサー仲間であっても、海坊主が嫌いなら、私と友達になってくれないのかなぁ。」と頭の中でつい先程あった奇跡のような幸せをさながら走馬灯のようにリフレインさせていた。
「海坊主の、『渚の落とし穴』です。」
首を竦めて、ポソリポソリと小声で答えると、彼女はその目を更に大きくして、「仲間や!!ホンマに海坊主なん!??海坊主の着メロなんてレアやわ!!何処で手に入れたん??」と早口でまくし立てた。
その声は歓喜に打ち震えているようにも、泣いているようにも取れた。でも話の内容からして、これは明らかに「喜び」の声だった。
―――…彼女も、海坊主が好きなんだ!!!!
初対面の相手とここまで趣味が一緒だと、何だか物凄い縁を感じてしまう。
「あ、これですか?これはCDを聴いて耳でコピーしました。だから手作りなんですよ。」
彼女も海坊主が好きとなれば、ついつい饒舌になる。
今まで、身の回りに海坊主ファンは、一人として居なかった。やっぱり、外見の第一印象で恐れをなしてしまう子が殆どだったのだ。
「ええええぇええぇ!?ホンマですか!?だって今、何和音やったっけ?」
「3和音ですよ?」
右手の人差し指と中指と薬指を立てて、3を表すと、目の前の彼女は今まで以上に輝いた瞳で私の顔を凝視していた。
「3和音ってアンタ、それってバーバーバーバーバーって、一杯音を聞き分けてるっちゅーことやんなぁ!?」
「そうですねぇ。」
いつの間にかウエイトレスさんは、私の目の前のソファ状の椅子に腰掛けていた。どっこいしょ、と言うのも忘れずに。
「それって、なんちゃら音感っちゅーヤツ??」
「いえいえ。そんな大層なものでもないんです。サビの一部分位しかわかんないんですよ。」
「え、でもそれエライことやて!!」
お互いにおでこがぶつかりそうな程身を乗り出して、着メロ話に花を咲かせていると、レストランの奥の方から
「小泉さぁぁぁああああん!???」
と、しわがれた女性の怒声が聞こえてきた。
「あ、まず!!忘れてた、今バイト中やったなぁ!!」
慌ててガタリと立ち上がる彼女に、「お仕事中なのにお話してくださってありがとうございます。」と深々と頭を下げると、彼女は「あ、これはどーも。」とオウム返しみたく深く頭を下げ返してくれた。
「なぁ、アンタ。名前教えてくれへん?また今度飲みに来てな。暇な時、一杯海坊主の話しよ?」
…やったぁ!!初★海坊主友達だ!!!
嬉しくて、声にならない声を上げる。
「…あ、はい!!私の名前は中居 ルリです。ウエイトレスさんは?」
「あぁ。言い忘れてたなぁ。あたし、小泉リサ。よろしく。」
お互いに、海坊主のことで話足りない感覚を持て余していたのは、輝きあう瞳で一目瞭然だった。
去り行く背中に、「また来ます、絶対に!!」と声を掛けると、彼女はこちらを向かずに右手の拳を高々と天井へ突き上げて見せたのだった。

ポリネシアンダンサーのつもり

初めての海坊主友達に、逸る心を止められなかった。
でもそれは無理も無いことだ、と自分の暴挙を許してしまう。
これを逃したら、もう二度とこんなに気の合う人は見つけられないかもしれない。
最早、勉強など手につかなくなっていた。
何とかして、彼女ともっと触れ合いたいと思った。
ただの客としてだけでは、あまりに会う時間が制限されすぎてしまう。
やっぱり…こうするしかないかな…。
私は、頭の中で沢山のことを計算していた。その上で、どうすれば良いのか、算出した。
「後は、この子に聞くだけか。」
コートのポケットを陣取る、紐付きのクリスタルに触れると、それを摘み上げる。私の場合、右回りがYES、左回りがNOの合図。
そっと問いかけてみると、クリスタルはゆっくりと右回りを始めた。
「本当に、それで良いと思う?」
尋ねると、より強く強く、それを肯定しているのだとありありと伝わる程に回っていく。
「…決めた。」
ポリネシアンダンサーの中で浮き沈みを繰り返す氷が、カチャリと一際大きい音を立てた音に触発されて、私はその言葉を口に出していた。

TO BE CONTINUED・・・


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: