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MURDEROUS PLOT
ホスト部夢小説⇒1st Lesson
放課後の校舎は、茜色にほんのり染まりかけていて、何とも言えない情緒を感じさせる。
そんな中で、桜蘭高校の第3音楽室の目の前に立ち、俺は一言呟いた。
「此処か?あいつらの部活動場所って――…。」
“部室は第3音楽室”と言った二人の顔を思い出す。
心なしか、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべていたような気がする。
――…嫌な予感。
Uターンをして教室に戻る決意を固めると、俺は早速引き返そうと試みた。
「逃げんなよ。」
光の声だ。思わずビクリと身を竦めた。
「あっれー、鈴音逃げるんだー?へー、イイ度胸じゃん。」
馨の声も聞こえる。全く…この二人は!気配を微塵も見せずに俺の背後に現れやがって…。
「逃げる訳無いだろ。トイレ行ってからまた来ようと思ってたんだ。」
口からでまかせが出る。彼らの意地の悪い笑みが、背中越しにありありと見えた。
「とか言って、そのままトイレに篭る気だったんじゃないの?」
「んで、休み時間が終わったら、悠々とトイレから出てきたんじゃないの?」
「「違う?」」
一向に振り向く気など無かった俺の肩を思いっきり掴んで、二人の内のどちらかがぐるりと俺の体を一回転させた。二人とばっちり視線を絡め合わせてしまった。
「ぁ…ぅ…」
確かに彼らの言うことは少しだけではあるが図星だった。俺は、逃げたまま、この場所へはやって来ない気でいたのだ。ただし、トイレに篭る気は微塵も無かったのだが。
「さ、行くよ。」
「手間取らせないでよね。」
光と馨の手がスッと差し出される。俺は渋々ではあるものの、彼らの手に自らのソレを繋ぎ合わせた。
「それにしても鈴音。」
「今日は男バージョンなんだ?」
その場で足を止めたまま、彼らは俺にそう問いかけた。さっきまでの愉快そうな声は何処へやら。不満がありありと伝わってくる声で、彼らは俺の体全体を舐めるように見回した。
「悪いか?」
「「悪い。」」
間髪入れずにあっさり言い切ると、双子がブーブーと文句を垂れ始める。
「別にさー。その格好も悪くないんだけどさー。」
「どうせなら、僕らに会いに来る時は女の格好で来いよー。」
「ウイッグ位持ってるだろー?」
光も馨も、俺に一体何を期待していたというのだろうか。
「ウイッグは確かに持っているが、着用するのが面倒くさい。」
俺は確かに短髪で、男子用の制服を身に纏っているが、女だ。
一人称は“俺”だが、戸籍上は確かに女だ。
だがしかし、彼らは素の俺も変装した俺も知っているのだから、今更変装した俺を見せずとも構わないだろうと思って、いつもの格好(男子制服着用・短髪)で来たというのに。
「鈴音は面倒くさがりなんだからー。そんな格好で来たら、皆にホモだと思われるよ?」
光が溜息を吐きながら俺の頭を叩く。
頭を一回叩くだけで、脳細胞の内の1000個が死滅するという話を聞いたことがある。光は、そんなに俺を馬鹿にしたいのか。
「どうしてだ?俺はただお前等に会う為に、ついでにあわよくば部員の皆と友達になりたいな、と期待を抱いて来ただけだ。」
光と繋いでいた手を離し、彼に叩かれた頭をさすりながら二人に問う。馨との手は繋がれたままである。
「だって、鈴音からすれば皆と友達になりに行くんであっても。」
「僕ら部員にとって、鈴音はお客様と同じなんだよ?」
「別に正面玄関から遊びに行くからといって、俺をお客様扱いせんでも良いのに。」
双子の常陸院光と馨は、俺の唯一無二の親友である。まぁその話は追々するとしよう。
そんな彼らの所属する部活――…ホスト部に、俺は今から奇襲をかけさせられるのだ。
「かけさせられる」という物言いは、何処か文章としては可笑しいかもしれないが、強ちハズレとも言い難い。何故ならば、俺は先日、彼らの話術に見事なまでにハメられたからだ。
「ねー鈴音。」
「何だ?」
「鈴音、確か服飾手芸部だよねー?」
「ああ。そうだが、それがどうかしたか?」
「それがさー、今度の部活で、浴衣を着てお客さんを出迎えるんだー。」
「…ああ、ホスト部だったな、二人とも。…それで?何が言いたい?」
「そうそう。それで、僕と馨は浴衣のデザイン担当になった訳。」
「…いつもなら、オートクチュールで作ってるんじゃないのか?」
「今回は、お客様に“たまには手作りの衣装で出迎えて欲しい”って言われちゃったから、その要望に答えなくちゃいけないからさー。」
「そうか、大変だな二人とも。でも母君のように二人ともセンスが良いのだから、何も臆することは無いだろう?」
「まーそうなんだけどさ。」
「でも、どうしてもデザイン的に微妙な部分があるんだよー。」
「それが何処なのかとか、作った自分達でもよくわからないんだー。」
「…お前等…。」
「ね、だからお願い!!僕らの作った浴衣を、ホスト部の部室に見に来てくれない?」
「場所は、第3音楽室だからさ。」
「「頼んだよ!!」」
俺は、女ではあるが、乙女では無い。断じて違う。
だから、「ホスト部」に足繁く通うつもりは微塵も無かったし、出来れば一生通いたくなかった。自分がなよなよしい女になってしまうような気もしたし、男に会いにわざわざ行って話をして帰るなんて、面倒くさいことこの上なかったからだ。男なら同じクラスにも沢山居たし、ホスト部に通う理由なんて、ただの一つも無かったのだ。
しかし、彼らの家は我が家の営む呉服屋の大切なお客様でもあったし、それ故に昔からよく遊んだ仲だった。だから、仕方無しに、彼らに会う為だけにホスト部の部室へと足を向けたのである。
「あ、良いこと考えたよ、鈴音!」
ニヤリと笑って馨が手包みを打つ。ポン、という短調な音がした。
「何だ、馨。言ってみろ。」
「鈴音は、ホストとか、嫌なんだよね?」
「うむ。そんな奴等に会いに行く乙女とやらの気もしれん。」
馨は俺の言うことを聞いて、ふむふむと考え込む。
「ならさ、良い考えがあるんだ。ホスト部の皆に口説かれず、更にはお友達になれちゃうかもしれない良い考えが。」
「あるのか!??」
馨の言葉を聞いて興奮し、馨に顔をぐいっと近づけると、光が背中から圧し掛かってきた。
「馨の言いたいことは何となくわかったよ。鈴音に、“女のフリした男”役を演じさせるつもりだろ?」
馨の顔が、にこやかな顔に変わった。俺一人置いてけぼりで、二人だけ通じ合っている。
今までにもこんなことがよくあった。一卵性の双子だから、お互いの意思が通じ合うのも無理は無いのだが、どうしてもこういう時は疎外感を感じてしまう。
「ご名答!流石は僕の兄だね、光!」
二人は手を取り合って鼻歌まで歌い始めてしまった。おいおい、俺の存在は無視か!??
「鈴音。わかりやすく説明してあげる。」
くるりと二人がこちらを向いてそう言ったので、「頼む」とだけ返した。
「鈴音。男はどんな人間に心を開きやすいと思う?」
光が自らを指差しながら言う。
…どんな人間に、と言われても、そんなもの知らない。何せ口調は男でも、俺の性別は一応女なのだから。
「ぶっぶー。時間切れだよ。正解はね、 同じ男に対して、なんだ。」
何時の間にタイムリミットなんて用意していたのやら。くすくすと笑って馨は続ける。
「男はね、同性の男には心を開きやすいんだ。逆に言うと、女は同性の女に心を開くってことだよ。」
「付和雷同、ってことか?」
「ま、そんな感じじゃない?」
俺の問いに軽く返事をして、光はまた話し出した。
「だから、鈴音が男のフリをすれば、ホスト部の皆と仲良くなりやすいんじゃないかって思ったんだよ。」
「あと、ホスト部の皆だって、男相手に接客したこと無いしさ。」
「“男が女のフリしてる”って演技が出来れば、多分ホスト部の皆も鈴音を口説かないよ!」
「そーすれば、君の望むこと二つが成し遂げられるじゃん。仲良くなれるし、口説かれず!」
「「こんな良いことって無いと思わない?」」
二人のハーモニーに挟まれると、いつ身動きが出来なくなってしまう。がんじがらめにされたみたいで、凄く窮屈になってしまうのだ。
「…それもそうかもしれないな。」
やっとの思いで言の葉を紡げば、彼らはにんまりと、これまた嬉しそうに笑った。
「最高の暇つぶしにもなるよ!」
「お、一石三鳥じゃん!」
馨も光も至極楽しそうに俺の頬を撫でた。
「…そうだな。人を驚かせること程愉快なことは無いしな。」
いつものノリで、二人の意見に同意する。昔からいつもこうだった。
彼らとの仲は、きっと原稿用紙10枚を使っても語りつくせない。それだけお互いが無くてはならない存在なのだ。彼らも、俺のことを表そうとすれば、原稿用紙は相当使う羽目になるはずだ。
「それじゃ、鈴音。」
「ホスト部へ行く前に、ちょっとメイクしていこうよ。」
がしっと両方の肩を、それぞれに掴まれても、俺はそれを振りほどこうとは微塵も考えなかった。彼らの意見に心から賛成していたからだった。
「じゃ、男のフリするんだから」
「男子トイレでメイクしようか~?」
二人がくすくすと笑いながら問う。俺は別段羞恥など感じることも無く「あぁ、そうだな。」とだけ返した。
ホスト部の中にも小さなトイレがある、とずっと前に二人が言っていた。しかし、ホスト部に入る前にメイクを施すことが重要であり、入ってしまってからメイクをするのでは、それは全く意味を成さなくなる。それは何故か。今の自分には、僅かではあるが「女」の雰囲気が漂っていたからだ。
「光、ウイッグと女子用の制服、とってきてくれる?」
「オーケー、馨。」
馨は俺の髪を梳かしながら、光に命令を下す。光は右手を額へ持っていくと、素早くトイレのドアを開けて教室の方向へと走り去っていった。
「さーて、鈴音。演技の方は俺が注意しなくても大丈夫かな?」
楽しそうな声で馨は笑う。その笑いは、決して嘲るようなソレではなく、ひどく優しい。
「あぁ、俺は変装するのが得意だからな。確か“男が女のフリしてる”っていうフリをするんだよな?」
あまりにもややこしい言い回しだ。フリが二回も付くから、結構頭の中で考えるのが面倒くさい。
「そう!蛇足だけど一応言っておくよ?ポイントは、女らしくしている中に、ちょっとずつ男らしさを滲ませること!!」
馨は、俺の髪をギュっと握り締めながら言う。引っ張られている髪の根元がヒリヒリする。
「つまり、馨が言いたいのは、“女装に慣れてない男”っぽく演じろ、ってことだな?」
「そうそう。そういうことだよ、鈴音。」
ギュっと俺の髪の毛が締めつけられる。髪の根元が傷んでいくような気がして、言った。
「馨、髪の毛離して。」
「あ、ごめん。」
俺の短い髪を握っていた馨の手は、今は背後に立っているから見えないけれど、いつも通りにゴツゴツしていて格好良いんだろう。そうそう、光の手も格好良い。俺は、男口調ではあるけれど、光や馨みたいな格好良い手は生憎持っていない。それは、俺が“女”であることの紛れも無い証明になってしまう。ガタイは普通の女の子よりはあるつもりだが、流石に手までは誤魔化せない。それに、筋力だって二人とは差が有りすぎる。いつも、光や馨の手を見ると、自分が、ホスト部へ入り浸る“女”と同じ種族なんだと気づかされる。それはとても辛いけれど、それでも二人の手は好きだ。二人の手によって現実をまざまざと見せ付けられるのは辛い。だけれど、二人の手はそんな次元は関係無しに好きなのだ。
「…鈴音。俺も光も、出来る限り協力するからさ。」
「うん。」
「だから、一杯友達作れよ!皆良い奴だから。」
くしゃり、と俺の髪を右手で潰しながら、馨はことのほか優しく言った。こいつらは、いつもふざけてるところがあるけど、根は本当に友達思いの良い奴なのだ。ただし、彼ら二人が認めた“友達”でなければ、全く彼らは無視してしまうのだけれども。
この二人には二人だけの“世界”がある。そこには、誰も立ち入ることは許されない。無闇に割り込もうとする人間を、彼らは極端に嫌う。しかし、その世界を壊そうとせず、そっと上から包み込んでやれるような人間を、彼らは歓迎してくれるのだ。そうして、包み込んでいる内に、何時の間にやら彼らの“世界”へと誘われているのだ。そして、この“世界”に入ることを許された人間は、ある条件が課せられる。今度は勝手気ままに“出て行く”という行為を認めてもらえないのだ。そうして出て行こうとした人間に対する彼らの言い分は、「勝手に僕らの世界に踏み込んでおいて、勝手に出ていこうとするなよ!」なのだ。
しかし、理由があって“出て行く”ことさえも許してくれないのだから、全くもって困りものだ。まだまだ彼らの精神は、幼い子供の域を出ようとしないのである。
でもまぁ、それはそれ。これはこれ、だ。何にせよ、彼らは俺を思いやってくれている。そして俺も、何だかんだで彼らのことを気遣っている。それだけで十分なのである。
「馨~!!ウイッグと制服、とってきたよ~!」
くたびれた声と古びたドアの開く音を共にして、ロングヘアーのウイッグと女子用の制服を持ってきた光を見て、俺達は笑った。そして同時に言葉を紡ぐ。
「「お疲れ様。」」
疲れきった光の手からウイッグを受け取ると、馨は「鈴音、もう少しで終わるから。」と耳元で囁いた。俺はコクリと頷くと、側で息を切らしている光の頭をそっと撫でた。
因みに今の俺の格好はというと、トイレの中でメイクをしてもらっているのだが、洋式のトイレには座っていない。壁に手をつけて立っている。そして、俺の真後ろに馨が立ち、髪を弄くっている。俺達に居る位置よりも左隅の方にあるドアから、先程光はやって来て、今は光は俺の右隣に立っている。俺も光も馨も、身長は殆ど一緒だった。だから、光の頭を撫でるのなんてそう難しくはないこと。俺は、そんな光の頭を撫でたのだ。
「お、鈴音が頭を撫でてくれるなんて珍しい~。」
光は、茶化しながら俺に向かって屈託の無い笑みを傾けた。
「そうだろ?まぁ有り難く思いながら撫でられとけ。」
グリグリと光のつむじを親指で押してやる。
「…ねぇ鈴音。何やってるのかな?」
光が、片言になりながら俺に笑いかける。
「ん?光が禿げますように、ってな。」
俺も負けじと、優しく微笑んで言った。
「「うわ~!!鈴音、鬼~!!」」
光も馨も他人に追い討ちをかける“ここぞ”という時に限って、抜群のハーモ二-を見せる。それが、より他人にダメージを与えているということに、彼らはとっくに気づいている。気づいていて、わざとやって相手の反応を面白がりながら見ているのだ。
「鬼で結構コケコッコー。さ、馨、続きを頼むぞ。」
「はーいはい。」
ムッスリとむくれる光を尻目に、馨を急かした。暫く地毛を弄くられた後に、ウイッグをかぶせられた。
「じゃ、これ女子用の制服。」
「ん。」
光の手から制服を受け取る。
「じゃ、トイレの個室で着替えてくる。」
「「えー、別に僕らの目の前で着替えてくれて構わないのにー。」」
光と馨が声を揃えてブーイングする。
「もう子供の頃とは違うんだぞ。物事の分別位、お前らにもつくだろう?」
そう言って二人の間を通り抜けると、個室へと入っていった。
個室に入って鍵をかける。男子用の制服をそっと脱いでいく。
「…女物の服装は、今になっても慣れないな…。」
呟きながら、そっと女用の制服を身に纏っていく。
「うぉあ!…足がスースーする…。」
スカートの先から覗いている自分の脚が、あまりにも太く見えた。
「終わったぞ。」
ガチャリとドアの鍵を外すと、二人の前に姿を現す。
「よし!これで何処からどう見ても、“女らしい男”だよ!」
「どれどれ?」
ポケットから手鏡を取り出すと、俺はまじまじと自らの顔を眺めた。
「…コイツ、誰だ?」
鏡の中には、女っぽい、でも少しだけ荒々しさを秘めた“男”が映りこんでいた。
By「台詞100題←http://dragon09.web.infoseek.co.jp/100/100index.htm」ショートバージョン No.16
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