MURDEROUS PLOT

MURDEROUS PLOT

ホスト部夢小説⇒2nd Lesson



「「さて、準備は良いかな?鈴音。」」
「…大丈夫。行きましょう。」
慣れない女言葉に苦戦しながらも、俺はしっかりと頷いてみせた。
重々しく開く扉の音を、瞳を閉じながら聞いた。――…最高の悪戯が始まる合図だ。
「「いらっしゃいませ。」」
何人ものハーモニーによるお出迎えに、俺はすかさず目眩を覚えた。
「あ、光と馨。どうしたの、その女の人。」
「あ、ハルヒ。こいつは俺らの親友!!」
「宜しくしてやってくれよ!!」
バンバンと俺の背を叩くと、馨は「挨拶しろよ。」と耳元で囁いた。
馨は、俺に何かを忠告したり、軽い内容のことを話す時は、大抵耳元で優しく囁く。特に意味はないらしい。だけれども、何だか特別に接してもらえているみたいで、悪くない。
「ハルヒ君っていうの?わ…私は、風上 鈴音(かざかみ りおん)っていうんだ。」
演技…演技…と頭の中で自分に語りかける。“女のフリに慣れてない男”を演じる。これはなかなかに骨が折れる。相手の視線にもニコリと返し、しかしさり気なく野性的な雰囲気も漂わす。取り敢えずは、口調は女らしく、歩き方は男らしくすることに決めた。更に、たびたび「私」という一人称を使うことに抵抗を見せる。これで、相手も俺のことを“女”か“男”か、判断に悩み始めるはずだ。そうしたところで、嘘である真実を教える。「あ、俺実は男なんだよね~。」と。
「…無理して“私”って言わなくても良いと思うよ?」
ハルヒ君はにっこりと笑って俺に言った。――…いやはや、実に驚いた。俺の一人称の言い方に、初対面であるにも関わらず早くも気づくとは。――…しかし、その「言い方に困っている」という俺の状態も、演技だということには気づいてないらしい。
「アレ、気づいた?じゃあ素直に君の前では“俺”って言わせてもらうね。」
「うん。あと、あんまり無理して女言葉にする必要も無いと思うよ。」
――…恐ろしい坊やだこと。
「いや、君は凄いな。よく初対面でそこまでわかるものだな。」
素の俺を曝け出して会話をした方がつまらないといえばまぁそうなのだが、気が大分楽だ。
スッと手を差し出して握手を求めると、彼は快くそれに応じてくれた。
「だって、明らかに無理してる感じが伝わってきたから。」
――…へぇ。
俺は、目の前の坊やにかなりの興味を持った。なかなか面白い奴だ。
「俺の名前はさっき言った通り。突然で悪いが、君から見て、俺は女に見えるか?それとも男か?」
「…そうですね…自分から見ると女の方に見えますが……。あ、違ってたらすみません。」
ハルヒ君は、なんて謙虚な男の子なのだろう!!更に興味が沸いてきた。
「いや、それで合ってるよ。俺はこんな口調だけど、一応生物学上は女だ。宜しく。」
「あ、宜しくお願いします。自分は、藤岡ハルヒといいます。どうぞ宜しく。」
ホストというものに対して、俺は常日頃からマイナスのイメージしか持っていなかった。しかし、こんなに素敵なホストも居るのだと知った今では、案外ホストも悪くはない奴らなのかもしれない、と思った。
――思った、はずなのに。その直後に、瞬く間にそれは瓦解してしまった。
「君は、何という名前かな、姫?」
背後で声が聞こえた。それは、明らかに俺のイメージしていた「ホスト」の具体像だった。
どんな女に対しても至極優しく接し、誰に対しても甘い台詞を囁き、女を虜にする。最悪な奴だ。
振り返って俺は、いの一番に微笑んでやった。ハルヒ君にはバレたが、コイツの前では絶対完璧に「女のフリをする男」を演じきってやる。
「あ、私は風上鈴音っていうんだ。宜しく。」
一見すれば快活な少女のように見えたかもしれないのだが、しかしロングヘアーであることが、その口調を危うくさせる。そこから、性別に関する疑問を生じさせる。それが俺の手だ。目の前のせいたかのっぽのコイツが、女をオトす手として、様々な手を繰り出すのと一緒だ。…“コイツと一緒”。それは、俺にとってはとても悔しいものなのだが仕方ない。
「それじゃあ、鈴音姫と呼んでも良いかな?」
いきなり、キラキラとしたオーラに包まれた。口元には零れんばかりの白が煌めいている。丹念に磨かれた歯が、彼をより一層引き締めている、とでもいうのだろうか。
「嫌です。」
至上最高の出来な笑みでそう言うと、俺は目の前で固まる男を軽く睨み付けた。
「お前、本当にホストが嫌いなんだなー。」
光がニヤつきながら言う。今まで半信半疑だったというかのように、妙に感心している。
「そうだ。人間なんて皆違って当たり前なんだ。ホストを愛して止まぬ者が居るのも自然の摂理。そして、それと反対にホストを憎み続けるものが居るのも、これまた自然の摂理だ。」
「鈴音。口調、口調。」
馨に指摘されて、慌ててコホンと咳払いをする。危ない危ない。
「貴方の名前は何ですか?」
目の前で以前として固まり続ける男へ優しく問いかける。飴と鞭は使いようってな。
「…須王環…。」
最初の覇気を何処へ捨てたのだろう。しょんぼりと沈んだ声で、彼は呟くように言った。
「何年生ですか?」
「…2年生…。」
ゆっくりと右手でピースを作りながら、彼は未だに暗い声を変えようとしない。
「なら環“先輩”か。以前一世を風靡したアゴヒゲアザラシみたいで、可愛い名前ですね。」
「アゴヒゲアザラシ…?…可愛い…?」
「ええ。ホラ、多摩川に現れたでしょう。」
環先輩は、ゆっくりと瞳に生気を取り戻し始めた。しかし、多摩川であったあの事件のことは知らないらしい。
「…庶民の間であった事件には、無関心ですか?」
「…というより、庶民の間であったニュースなど、俺の元へは伝わってこないのだ。」
成る程。俺の家のように、庶民の方もしばしば呉服を買いに訪れるような仕事を、彼の家は営んではいないのか。俺はしょっちゅう庶民の方と情報を交換しているから、そのような出来事も知っているという訳なのか。というより、そもそも俺は金持ち貴族と果たして言えるような存在なのだろうか。テレビは一台しか無いし、あまり豪華な食べ物を口にしたこともない。聞けば、光や馨はフォアグラだのバイアグラだのグッチだのキャビアだの、そんな訳わからない物ばかり食しているらしいし。…何だか思い出したものに間違いもあるような気がするが、さして訂正する良い言葉も思い当たらないから放置だ。放置。
「まぁ、詳しい説明は面倒なんで省き。要は、アゴヒゲアザラシが多摩川へ迷子となって現れたので、皆して彼を現れた多摩川になぞらえて“タマちゃん”と呼んでいたんです。んで、貴方の名前も“環”だから、名前だけは“タマちゃん”みたいで可愛いなぁ、と。」
「そうか。俺が可愛いか。中々姫のお目は素晴らしいものですね!」
いきなり俺の視界全てを、ホスト部の輩の衣装が埋め尽くした。嫌悪感から、つい本音が。
「だから、姫って呼ぶなっつってんだろこのクソ野郎!」
そう言うと、俺は目の前の男の股間を思いっきり蹴り上げた。へっ、ザマーミロってんだ。
「……!!!!!!!!」
声ならぬ声を上げると、目の前のホストはフラリと床に向かって崩れ折れた。
「環様!!!」
「環君!!!」
あちこちから、女の悲鳴が上がる。
「…なぁ光、馨。これは一体どういうことだ?」
悲鳴を上げる女性を指差しながら、俺は二人に問いただした。
「ああ、環先輩、通称“殿”は、お客様からの指名率7割を誇るスーパーエリートホストだからね。」
光は、言いかけてそっと俺の唇に人差し指を押し当てる。
「皆、殿が突然倒れたのを見て驚いてるんだよ。」
「…もしや、俺はこの中の女7割を敵に回した…?」
「「ま、そういうことになるね。」」
「……嘘だろ…?」
俺にとって初めてのホスト部は、戦場と化した。

By「台詞100題」ショートバージョン No.57

                             …NEXT…?


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