MURDEROUS PLOT

MURDEROUS PLOT

ホスト部夢小説⇒3rd Lesson



「…つまり、君は男なのに女のフリをして此処に来た、という訳だね?」
「…はい。」
陽の光が徐々に弱まり始める時間帯。そろそろ夕闇が迫ってくる。
ホスト部の奥の方にある個室へ連れて行かれると、職務質問のようなことをされ始めた。
目の前で細長い眼鏡をかけている男子生徒は、俺の顔を不気味な微笑みで見つめている。
「君のおかげでウチの環が再起不能になったんだけど、どう責任を取ってくれるのかな?」
再起不能、というのは、精神的になのだろうか。それとも肉体的に?或いは両方?
「あれでもウチのナンバーワンホストなんだ。」
「はぁ…。」
至極楽しそうな微笑を浮かべつつ、彼は俺にゆっくりと語りかける。
それにしても、『あれでも』という言い方は、まるで目の前の男子生徒が環先輩のことを貶しているみたいだ。彼の言い方から解釈するに、
「あんなショボい男で、君に蹴られるのもまぁ仕方ないといえばそうなんだけど、それでも一応は人気がナンバーワンのホストだから、あまり手を出されると困るんだ。」
と言いたいのだろう。きっと彼は、環先輩よりも立場が上の者なのだろう、と思った。
それと、環先輩のことを「あれ」だの「環」だの言い表していることから解釈するに、彼は環先輩と同学年、或いは3年生なのだろう。
「そういえば、どうして君はわざわざ女装してまで此処に来たのかな?」
「光と馨は、俺の昔からの友人なんです。それで彼らは俺が服飾手芸部に所属していることを見込んで、今度の部活の為に二人がデザインした浴衣の欠点を見極めてほしいと頼まれたんです。」
よどみなく言い終えると、急に喉が渇いて水が欲しくなった。
「それで?」
「それで…俺は、ホストとかそういうのが大嫌いなんです。」
正直に白状をすると、彼はいきなりくつくつと笑い出した。
「俺も一応そのホストなんだけど、随分言うね、君。」
――…しまった。軽率な自分の発言を罰する為に、軽く下唇を噛み締めた。
「面白いね、君は。まぁ良い。続けて?」
「だから、本当は来たくはなかったんですが、幼馴染の頼みともあり、渋々此処へ来る決意を固めました。その時、彼らにアドバイスを貰ったのです。」
「へぇ、なんて?」
彼が話の間に返す言葉は絶妙で、俺にとって非常に話しやすい状況にしてくれる。
その所為か、話がとんとん拍子に進んでいくのだ。
「“お前は男なのにホスト部へ来たら、ホモと間違われるぞ”って。」
「成る程…ハルヒの前例があって助言したのか、あの二人…。」
成る程、までは聞き取れたが、それ以上先の言葉は小声で全く聞き取れなかった。
「なので、女装をして此処を訪れ、双子の浴衣を見たら、俺は帰るつもりでした。」
ぬけぬけと嘘を吐く自分が信じられない。本当は、ホスト部の皆と友達になろうと思っただけだったのだが。しかし今は耐える時だ。これを耐えれば何とかなる。
「事情は呑み込めたよ。」
バタンと片手で持つノートを閉じると、彼は俺に向かってそう言った。
「じゃあ、彼らの浴衣をこれから見に行くのかな?」
「はい…。そうさせてもらおうかと。」
彼の前から去ろうとすると、「ちょっと待って。」と引き止められた。
「君の本当の名前は?」
…。本当の、名前は、“風上鈴音…かざかみりおん”。
しかし、本当にこの名をバラすのは良くない気がする。
少し、名前をいじくろうか。いや、でも調べればすぐにバレるだろう。どうしようか。
バレたくはない。彼らとは徐々に友達になりたいのだ。
仕方が無いので、同じクラスの友人の名前を借りることにした。勿論、その友人は男だ。
「佐原 多紀(さわら たき)です。」
言い終えるや否や、俺はその場を離れる。でも彼の名前が気になったので
「貴方の名前は何ですか?」
「鳳 鏡夜だ。」
「そうですか。それでは失礼します。」
ぺこりと小さく会釈して、俺は今度こそその場を離れた。

「鈴音、お帰り~!!」
「ただいまー。」
さっきの個室のドアを開けると、目の前には二人が待ち受けていた。
「ね、鏡夜先輩から何て言われた?」
馨が興味津々といった様子で俺に話しかけてくる。
「“ウチのナンバーワンホストが再起不能になったんだけど、どうやって責任を取ってくれるんだ?”って言われた。あと、俺はホストが嫌いだからホスト部へ来るつもりは無かったんだって言ったら、“俺も一応はそのホストなんだけど、随分言うね、君。面白いね。”って言われた。それと最後に…」
言いかけて、俺はちらりと背後のドアを見つめる。鳳鏡夜という人が、まだこの中に入っているのだと思うと、あまり声を大にしてはいけない気がした。
「…俺の本当の名前は、って聞かれたから、クラスメイトの佐原多紀の名前を借りた。」
俺が蚊の鳴くようなか細い声でそう言うと同時に、二人は床に腰を下ろした。
「「はぁ…」」
遠慮なしの大きな溜息と共に。
「参ったね、馨。」
「そうだね光。」
馨も光も、頭を抱え込んで地団駄を踏んだ。俺も彼らに合わせて床に腰を下ろす。
「鏡夜先輩って、結構恐ろしいんだよ…。」
「ある意味で、ホスト部の真の部長って感じ。」
光と馨のうかない顔を見ていると、何だか俺はマズいことをしてしまったような気になる。
「…俺、若しかして凄くヤバいことをしたのか?」
「「うん。もの凄くヤバいことをしたね。」」
即答されて、俺は返事に詰まった。…俺、一体何をやらかしてしまったんだろう?
「鈴音…。多分今頃、鏡夜先輩は、お前の素性をこの部屋で探ってるはずだ。」
握りこぶしから親指を突き出すと、光はクイッと先程まで俺と鏡夜先輩が話していた部屋を指差した。
「直ぐに鈴音の正体がバレて、強請られるかもしれない。」
「「“君はどうして、そんなに厄介な演技をしているのかな?”って。」」
…。それはつまり、俺が「女のフリする男」という演技をしている、ということがバレてしまうと言いたいのだろう。
「ちょっと待て。そんなにあの先輩は恐ろしいのか?」
「「今にわかるよ…。」」
沈みきった声でそういう双子を見ると、この二人も以前彼に何かされたのだと見える。
随分と落ち込んでいるので、そのことにはこれ以上触れないようにしようと決めた。
しかし、このまま彼らが沈んだままというのも心苦しいので、話題を軽く反らそうとする。
「…ま、いざとなったら全く違う架空の人物とか、光とか馨とかに変装してホスト部に遊びに行くさ。」
意気揚々と、声高々に俺は笑った。
「「…出たよ、鈴音の趣味が…。」」
少し二人の声にハリが出て来て良かった。二人はこうでなくちゃつまらない。
「む。趣味とは何だ。得意技と言え、得意技と。」
二人の言い方にケチをつけると、「はいはい。“鈴音の素晴らしい得意技が出ました。”」と、明らかに嫌そうに返された。
「…何でそんなに嫌そうにするんだ?」
「だって、鈴音の変装、あまりにも本物そっくりすぎて僕らにも見分けられないから。」
「悔しいじゃん。」
――なんて馬鹿馬鹿しい理由なんだろう。それだけで不機嫌になっているようじゃあ、やはり彼らはまだまだ精神がお子様だということだ。
「ま、俺は人間観察が趣味だからな、大体それぞれの癖とか性格も見てるんだ。」
そう言うと、俺は借り物のスカートをおもむろにたくし上げ、スカートの下に履いているズボンを二人に晒した。…やっぱり俺の脚は太い。
「何、鈴音?」
「誘ってるの?」
馨と光が事も無げに言う。“誘う”という言葉の本質的な意味を、俺は未だに知らない。
ただ、何か良からぬものへ“誘っている”んだろうな、とぼんやり思いはしている。
「…?…いや、このズボンのポケットにな…。ノートが…。」
尻側に付いているポケットを右手で漁ると、束ねた紙切れの感触がした。
「これこれ。」
やっとこさとポケットから取り出すと、少し表紙が破れて皺くちゃになっていた。
「俺は、いつも他人を観察したらその人間についてこれに事細かに記録しているんだ。もうざっと50冊は溜まってるかな。」
“二人に見せるのは初めてだったよな?”と付け加えると、俺はノートを開いて見せた。
「何々?“常陸院光は、やや単細胞(直情径行型)の傾向あり。しかし悪戯を思いついた後の彼の行動は極めて頭脳的。侮ってはならない。人をからかうのが大好きで、ホスト部では女子の前で馨と禁断の兄弟愛を繰り広げている(本人談)。どうやらホスト部では、女子をからかいのネタにするべく馨と日夜努力をしているらしい。彼は、馨に対してやや優位を保っているような演技をじているらしい(本人談)。そのことからするに、ホスト部では、彼がいつも馨をリードした恋愛劇を繰り広げているものと仮定される。”うわ~、鈴音、細か~い!!」
馨が俺の書いた『光の考察』欄を読み上げていく。すると馨に続いて光までもが読み出す。
「え~っと?“常陸院馨は、精神的に光と比べると大人びている。だから、光の暴走をセーブする役(補佐役)が多いように見受けられる。しかし悪戯に興じている時の彼は子供のように無邪気である。彼も光と同じく人をからかうのが大好き。しかし彼は光よりも頭脳的というか知能犯というか。その所為か、光よりも悪戯は極めて芸が細かい。悪く言えば悪質だ。光の話も踏まえると、馨はホスト部では、光にやや押され気味の禁断的兄弟恋愛劇を繰り広げられているものと仮定される。しかし、実際の二人では、馨がさり気なく光をリードしているはずだ。何せ、光よりも物事に対する思慮が深く、大切な人を守ろうとする力に長けているからだ。”へ~。鈴音、よく僕らのこと見てるじゃん?」
“偉い偉い”と二人して俺の頭を撫でた。結構酷いことを書いていたのに怒られないのが不思議だが、まぁその辺は放って置こう。
「まぁ、昔からの俺にとって唯一の親友だからな。お前ら程性格が手に取るようにわかる相手は、きっと他には居ない。」
――…それは即ち、この二人に変装するのは俺にとって他愛もないということでもあった。
実は俺は一回だけ光に化けて、校内をうろついたことがあった。俺にとってはつまらない毎日の内のほんの些細な暇潰しであったのだが…。
二人はいつも一緒に行動している為、俺が扮する『光』に出会った人間は、その直後に別の校内を散歩している二人を見つけた時、「ドッペルゲンガーだ!!」と叫び二人を指差して怯えて走り去ったと聞く。そうした不審な行動をする通行人を見て、この二人は“ドッペルゲンガー”の正体を探り始めた。結果、俺が光に変装していたとバレ、更に、変装を特技としているのがバレてしまったのである。
それまで二人には俺の特技は『裁縫』と『どんな場所でもどんな格好でも眠れる』と『記憶力が強い』だと教えていたのだ。何となく変装が得意というのは言いにくかったのだが、しかしバレたくないのなら、幾ら暇潰しと言えど、光の変装をしなければ良かったわけなのだ。そうとなると俺は結局、二人にこの特技を知ってほしかったのかもしれない。自分でも自分の行動の意図がわからないのがたまらなく可笑しくてならなかった
「僕らから見たって鈴音の性格は手に取るようにわかるよ。」
馨がにっこりと微笑んで、俺の手をその格好良い手で包み込んだ。
馨の笑顔は、何処か俺を安心させる要素を兼ね備えていた。光の笑顔も同じだ。
「言っとくけどね、僕のこと色々書いてたけど、鈴音だって結構単細胞だと思うよ? 」
光が、再び意地の悪い笑みを浮かべながら俺を見遣った。
「…そうか?」
自分が単細胞だという自覚はまるで無かったものだから、少々呆気にとられた。
「うん。僕らの言うこといっつも素直に受け入れるし。」
「それから、後の災難も考えないで光の変装して校内ほっつき歩くし。」
「「ね、単細胞でしょ?」」
…。少なからず、光の言っていた前者の意見は、単細胞ということには繋がらない。何故ならば、俺はこの二人を信頼しているからその言うことを聞く訳であって、それが他人からの申し出なら、疑いをもってその提案の良し悪しを調べ、その後に受け入れるか否かを慎重に決めるものだ。しかし馨の言った後者の方は確かに俺の考えなしの行動が招いた不祥事であり、先を見越した行動が行えなかった点では確かに単細胞と言われても道理が通る。矢張り一卵性双生児とは言えど、その違いは明確である。きちんとした理論を持って語れる馨と、あやふやな理論上でも尚語ろうとする光。両者は全く対極に位置していた。例え、二人の纏うオーラが同じだとしても、矢張り同一人物である訳では無いのだ。
「…そうかもしれないな…。」
光の意見には反対だが、中途半端に訂正させようとすると始末が悪い。ここはいっそのこと、二人の意見を纏めて捉えてしまおう。もしも“光の意見にのみ反対だ”と言えば、恐らく“馨ばかり贔屓するな”と釘でも刺されてしまうだろう。それが光だ。そうなると後々の光からの俺の印象も悪くなるし、その後に馨を認める時があればその都度光が“鈴音は馨に肩入れしすぎだ”とへそを曲げてしまうかもしれない。否、寧ろ100%へそを曲げる。
そうなると非常に今後の行動に対して大きな制限が生じる。面倒くさいことがあると気づいているのなら、それは極力避けられる限りは避けなければならない。それが人として幸せに生きる為の最低限の知恵だからだ。
「…そうだ。一応の此処に来た理由である“二人の作った浴衣”を見せてもらわなければなるまいな。」
「「あ、そういえばそんなこともあったね。」」
二人が同時に手包みを打つ。本当に息がピッタリだ、この双子。
「さ、何処にその浴衣があるんだ?早くみせてくれ!」
心なしかワクワクする。光と馨の母君は、洋服等のデザイナーの仕事に就いている。そんな母君の影響もあってか、光と馨もデザインのセンスに長けていた。美術は彼ら共通の得意教科になっている程である。そんな彼らの作り上げた浴衣に、多かれ少なかれの興味を抱いたのもまた事実である。
「な~んか鈴音…。」
「「楽しそうだね?」」
声の抑揚から察しがついたのか、二人は俺を真ん中に挟んで双方からニヤニヤと見下ろしてきた。
「…ぅ…鋭いな…。そりゃあ、光と馨の作品だからな!二人ともデザインのセンスに長けているから、そんな二人の作品を見れるとなれば、多少は興奮するのが当然だろう?」
「「いや、そんな当たり前のように言われると僕らが照れるんですけど。」」
二人して顔を紅潮させる図は、傍から見ればかなり可笑しかった。
「さ、連れて行ってくれ。」
「「ハイハイ。」」
光と馨の手が、またもや差し出される。俺はまた躊躇いも無く二人の手を取った。
てろてろと二人の後に続いてホスト部の中を歩いていると、周囲から沢山の視線が突き刺さってくる。
「…光、馨。」
「「何?」」
「乙女達の視線が、何故かやたらと突き刺さってくるんだが…。」
「多分それは、見慣れない女が僕らと仲良くしてるのが気に食わないんじゃない?」
「ほら、僕らも一応人気のホストだし~。」
「「モテるホストは辛いよねぇ~!」」
確かにこの二人は見てくれがとても良い。乙女が彼らにハマるのも無理はないかもしれない。彼らの同性愛という売りに目を付けているのかもしれない。しかしどちらにせよ、それは彼らの外見しか見ていないだけであり、そんな女子は彼らの恋愛対象外であるということも、俺はきちんと知っていた。彼らはそういう人間だからだ。
「はい、着いたよ鈴音。」
「この中に浴衣が入ってるから。」
ガチャリと二人が同時にドアノブを捻ると、そこには色とりどりの浴衣が見事な間隔で配置されていた。俺はそっと間合いを詰めて浴衣の懐に潜り込んでいく。
「…ほぅ…。浴衣の腕の部分が破れているのが良いな…。何となく野性的だ。男らしさを表すには丁度良いだろう。この隣の浴衣も、青を基調とした涼しげな色合いが良い。見ているお客様も涼しくなれるだろうし。…こうして見ると、矢張り流石だな!二人とも!!」
「本当?鈴音?」
「変な所は無い?」
二人が不安そうに俺を見下ろす。俺には二人と10cm程あるこの差が堪らなく辛かった。背丈的にはそんなに大した差ではなく、彼らを撫でることだって出来る。だが、どうしても歯痒さが生まれてくる。俺はいつだって彼らと対等でありたいのに、この身長差があると、若干俺の方が不利な立場にあるような錯覚を引き起こすからだ。
「…。そうだな…。全体的には変な所は無いが…。強いて言うなら、もう一つアクセサリー…或いは小道具が欲しいかな。リストバンドとか、あとはサンダルとか…ピアスとか。」
「「フムフム。」」
二人は同時に首を上げ下げした。ご丁寧に片手を顎に持っていっている。
「ありがとう。鈴音。」
「結構参考になったよ。」
二人が至極嬉しそうに言うから、俺はすっかり機嫌が良くなった。
「いや、こんな適当な言葉で参考になったのなら幸いだ。」
自分が誰かから必要とされるというのは、たまらなく嬉しいことである。更に、そうした結果で感謝されようものなら、これはもう堪らない程の幸福である。
俺も、嬉しさ故に至極綺麗に笑い返した。
「そういえば、この借り物の制服はどうすれば良い?」
「ああそれ?僕らのクラスの早乙女 真那珂(さおとめ まなか)に借りたから、その子に返しておいて。」
「さ、お、と、め、ま、な、か…な。わかった。その子に返しておく。」
彼らに制服を貸すのだから、余程二人と親しいのか、それとも彼らに好意を持っているのか。何となく考えるのが面白くないから、そこで思考を打ち消した。
「それじゃ、二人に迷惑をかけてしまいそうだから帰るぞ。」
ちらりとドアから外を見て、俺は二人に声をかけた。先程よりは視線の数は減ったように感じるが、それでもまだこの部屋に入った俺達はドア越しに見られ続けている。これ以上いわれのない視線を受けるのは辛い。もしも誰かにこの二人の恋人だの何だのという容疑をかけられでもしたら、俺は乙女達に何をされるかしれない。(否、もしかしたら乙女達によりその疑惑をかけられるかもしれない。今でさえこうして嫉妬の念の視線が俺に突き刺さっているわけだし。)ホスト部の運営にも関わってくるかもしれない。彼らは兄弟の禁断愛を売りにしてるのだから、そこに一般の女子(“のフリをした男子”のフリをした女子)が現れれば、指名率ダウンは確実だ。そうなれば結局はこの二人に絞られるのは間違いなく俺であり、俺はただの一般市民であるにもかかわらず、最大の負債を背負わされる羽目になってしまう。やっぱりそんなのは嫌すぎる。せめて、俺は穏便に生活を送りたいのだ。
「鈴音。」
光が俺の背中をトントンと叩く。俺がゆっくりと振り向くと同時に
「「夜道には気をつけて。」」
と素敵なハーモニーで囁かれた。
「…あのな、俺はお前らの所為でこんな目に遭ってるんだぞ?少しは俺を守るとか何とかしてくれないのかよ?」
「うーん。今はまだ何も出来ないよ。」
馨が頭をポリポリと掻きながら言う。俺は馨に「何故だ?」と問いただす。
「鈴音が実際に被害に遭ってからなら、守ってあげるよ。」
「何も無い内からボディーガードしてちゃ、それこそ乙女達から反感の目を買うよ?」
「「だって僕らは人気ホストだもの!!」」
二人同時に片手を俺へ差し向ける。何だかこの二人は自意識過剰な気もする。
「だけど、実際にはこのホスト部でナンバーワンの指名率を誇っているのは、環先輩なんだろう?彼が7割もの指名率を奪っているなら、お前らは一体この部の指名率を何割奪っているんだ?」
「「…。さ、帰りなよ。鈴音?」」
綺麗さっぱり俺の嫌味を無視すると、二人は正面玄関から俺を押し出した。
バッタンと荒々しくドアの閉まる音に見送られ、俺はその場をゆっくりと離れ始めた。
結局、今日会えたホスト部員は、光と馨、それからハルヒ君に環先輩、最後に鏡夜先輩だった。
鏡夜先輩といえば。
歩きかけのところで、はたと足を止める。
馨の言っていた言葉をふと思い返す。
《直ぐに鈴音の正体がバレて、強請られるかもしれない。》
鏡夜先輩は、侮ってはならないらしい。強請る、とは何を俺に強いるつもりなのだろう。
全くもって彼の今後の動向は予想がつかない。今日出会ったばかりの人間である所為も一因だろうが、それだけじゃあない。でもそれ以外の要因は検討もつかない。
「気を引き締めなくては。」
きゅっと唇を真一文字に結ぶと、俺は、威風堂々と光と馨のクラスへ向けて、その場から歩き始めた。

By「台詞100題」ショートバージョン No.26


制服は、鈴音もちゃんと自分の教室に置いてあります。それを双子は知っているのに、敢えて違う子のを借りてきた。

「そうすることで、何か面白い影響が出るのでは」という、双子なりの面白さの探求心が引き起こした悲劇とも、喜劇とも言えましょう。

⇒本当は、後で「教室にある制服」という場面が出てきて、自分が矛盾を感じた為に慌てて付け足した設定です、上の二、三文の設定(ぇ)


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: