MURDEROUS PLOT

MURDEROUS PLOT

ホスト部夢小説⇒4th Lesson



夕闇が世界を恐怖に陥れる時間帯が訪れようとしている。闇は確実に俺達を蝕んでいた。
「…しまった。」
そんな中で光と馨のクラスの目の前に来て、俺は重大な事実に気づいた。
もし、“さおとめまなか”から借りた制服を返すのなら、今まだそれを来たままの状態だから本人の目の前で脱ぐ羽目になる。いやそれは流石に二人のクラスメイト達大勢に白い目で見られること必須といえよう。いや、そもそもさおとめまなかは教室に居るのか?
「…。自分のクラスへ服でも取りに行くか…。」
俺と二人のクラスは、隣同士だった。
この学校のクラス分けは、公立高校とは違い、成績と家柄を足したランク毎で行われる。だから、大体の場合は小等部から皆同じ顔ぶれであるそうだ。
俺は、光と馨と遊ぶようになってから、自然とこの学校に入学した。家柄は彼らよりは相当劣っている(寧ろ一般市民と言っても過言では無い)のだけれど、成績で何とかカバーして、今俺はB組に居る。でも、家柄だけでA組になれることなんて『有り得ない』のだから、きっと二人は相当成績が良いのだろう。うぬぅ…。羨ましい…。俺なんて、家柄は普通なら一生変わらないだろうし、成績をもっと上げない限りは、二人と同じクラスには一生なれないのだ。
因みに、俺は小等部からこの学校に入学した。その頃からずっとB組である。
「…待てよ?」
自分の教室へ行ってスポーツバッグを漁り始めた時、俺は自分に『待った』をかけた。
…もしも俺が女子の制服を着て“さおとめまなか”に会ったとしよう。そうすると、もしもその女子が双子を好きだなんてことがわかったら、俺はいつも二人と一緒に居るから、後々放課後に校舎裏に呼ばれたりして苛められたりとか厄介な目に遭うんじゃないのか?もしも鬼畜な女子だったりしたら、俺の身が危ない!!幸い、彼女はA組だ。A組の人間がB組のような格下の存在を意識することは、ほぼ100%有り得ない。…B組や、それ以下の者は、A組をバッチリ意識しているのだけれどもな。
…今の俺の身を守れる唯一の特技…。『男装』これだ!!これしか無い!!二人には後で弁解しよう。男子の格好をしていれば、双子を好きだなんていう風に誤解もされにくいだろう!
俺は、敢えて俺とは無関係の男子…双子とは知り合いという関係でも良いだろう…として行動し“さおとめまなか”に制服を渡し、帰る。
心の中で改心の策ににんまりと不気味に微笑みながら、俺はスポーツバッグの奥を漁り始めた。そこには俺の“男子用制服”が入っている。
「よし。これに着替えてこよう。」
廊下を走り女子トイレへささっと駆け込むと、ぱぱっと着替える。そして、ズボンのポケットにいつも忍ばせている“人間観察ノート”を取り出すと、クラスメイトの男子達の癖や性格をひたすら体に叩き込んだ。大勢の男子のデータをまとめ、そしてそれらを平均したのは、模範的な男らしい演技をするには、必要不可欠だったからである。
そして、髪型を少し整えて廊下に誰も居ないことを確認する。その後に脱いだ女子用制服を持って、A組の教室へ再び急いだ。
声は低めにしなければ。男らしく演技をして、俺の名は名乗らずに帰ろう。
「“さおとめまなか”さんは、この中に居ますか?」
ややドスのきいた低い声でそう言うと、教卓の目の前の眼鏡をかけた、か弱そうな女子がおずおずと俺の前に現れた。
「…あ、あの…。私、です…。」
可愛らしい女子だ。小首を傾げながら、小さい手を控えめに天にかかげている。
「あ、俺は常陸院兄弟の知り合いなんだけど、はいこれ。返すように頼まれたんだ。」
「…あ、光君に貸した私の制服…。」
そっと彼女はその制服を俺から受け取ると、にっこりと俺に向かってはにかんだ。
「ありがとうございます。この制服を使われた方は、どちら様かわかりますか?」
なんていじらしい女子なんだろう。もし俺が使ったと言ったら、きっと目の前で俺のことを『女装趣味!?』とその可愛らしい目で凝視するのだろう。…困った困った。
「…いや、俺にも詳しい人はわからないんだけど、誰かに苛められてた女子が、制服をビショビショに汚されたらしくて、ホスト部に居る彼らに泣きついたらしいんだ。それで、光は制服を君に借りに来たって訳なんだとさ。」
――…ここのところずーっと、俺は嘘を吐きまくりだな…。
嘘を吐く時程、心が傷む時は無い。ましてやこんな綺麗な目をした女子を騙すのは、ことのほか苦しい。
「…!!?そうだったんですか…。その方、大丈夫かしら…。心配ですね。」
目の前の少女は、カタカタと小さく震えだした。…幾ら感情移入したからといっても、その行動は明らかにオーバーだった。…何かあったのだろうか?
「恐らく大丈夫だ。それより、君こそそんなに震えているけれど大丈夫?」
「…あ、いえ…。すみません。私、臆病なんです。」
俺に指摘されると、慌てて体の震えを止め、彼女はふんわりと笑った。
―――…やっぱり、可愛い。双子は、こんな彼女を見て、好きになってやしないだろうか?
「ところで、君はあの双子を好きだったりする?」
俺がひっそりと尋ねると、彼女は「とんでもない!!」と言い、そしてけたけたと笑い出した。
「私は、彼らみたいな悪戯好きな方は、好きではありませんよ。」
「以前、二人に悪戯されたことがあるのか?」
彼らの悪戯は広範囲に及んでいるのは前々から知っていた。校長先生、担任の先生、道端で会った人、クラスメイト…。彼らの悪戯は、今や知らない人は居ない程に有名である。
「ええ…。私は保健委員なんですけれど、光君が突然授業中に“気持ち悪い”と言うので、私が保健室へと運ぶということがあったんです。そして保健室へ連れて行くと、突然光君が血を吐いてしまいました。オロオロしていたら、馨君がやって来て“もー光ってば今朝食べたトマト、まだ口の中に入れてたの~?”というんです。どうやら、光君は授業中にトマトを噛みくだしていて、トマトのあまりの不味さから“気持ち悪い”と言ったらしく、血だと思ったものはトマトの汁だったのです。私は見事に騙されました。」
成る程…。随分手の込んだ悪戯をしたものだ、あの二人。
双子が彼女にした悪戯は、決して咎めることが出来ない。何故なら、光が気持ち悪くなったのはトマトを食べていたからだとなれば道理が通るし、何処にも非の打ち所が無いからだ。まぁ、強いて言えば“朝に食べたトマトの欠片を口の中に入れたままにするな”といったところだろう。中々頭を働かせた悪戯だ。これはきっと、馨が立てた計画の上で行われたに違いない。
「そうか。でも、あんな悪戯好きだけど、根は良い奴だから。わかってやってくれよ?」
ぷりぷりと頬を膨らませる目の前の彼女の頭へ手を遣って、俺はそっと撫でてあげた。小動物みたいな可愛らしい雰囲気を纏っている彼女を見ていると、何となくつい世話をしたくなってしまう。初対面なのに、失礼なことをしてしまっただろうか。
「優しいんですね。」
にっこりと、彼女は俺を慈しむように微笑んだ。俺にはそんな微笑みは出来ない。
「いや、俺はあまり人には優しくないぞ。マイペースだから。」
「…ふふふ。」
俺は少し照れながら必死に優しくないのだと強調しようとした。けれど、彼女があまりにも嬉しそうに笑うものだから、これ以上否定していても意味が無いかもしれないと思った。
「それじゃ。」
頃合を見計らって、俺はその場を立ち去ろうとする。
「待ってください。」
男子用の制服の一体何処を摘んだのだろう。意外にも急激な力が加わり、俺は彼女の元を離れることが出来なかった。勿論、力を出したのは彼女だろう。
「貴方のお名前は?」
――…聞かれてしまった。
それを聞かれたくないが為に、早くこの場から去りたかったというのに。
…一体俺にどうしろと?いたいけな彼女に嘘を吐くのも辛い。かと言って俺の本名を喋り、男装をしていたことについて軽蔑されたら嫌だ。此処は意地でも本名は教えず、偽名も教えない。その方向で行こう、と心中で決めた。
「俺は“常陸院兄弟の友達”。名前なんて聞かなくて良いだろ?俺はただ制服を返しに来ただけなんだから。」
“さ、放してくれ”と付け加えて、俺は今度こそ彼女の元を去ろうとする。
「わかりました。貴方の名前は問いません。でも、また貴方に会いたいです。貴方はどんな時に何処にいらっしゃいますか?」
――…それは…非常に困る質問だ。
俺は、大抵の場合は常陸院兄弟とつるんでいる。それは、女バージョンでつるむことだってあるし、勿論今のような男バージョンでつるむこともある。
そうなると、もし女バージョンで彼らとつるんでいる時に彼女に鉢合わせしてしまったら…。一体どうなってしまうのだろう。幾ら変装していたとしても、流石に俺は何度も彼女を騙せる自信が無かった。いつもなら、誰だって騙せる自信があるのに、彼女にはそれが持てない。俺の苦手なタイプなのだろうか?自分でもさっぱりわからない。
つまり、もし彼女と会える時間を教えるなら、彼らとは全く切り離された独立した時間を持たなければならない、ということである。そんなこと、出来るだろうか?
「…一週間に一度、昼食を屋上で食べている。曜日は不定期で決まっていない。」
それだけ言うと、その場を走り去った。彼女にこれ以上問い詰められる前に。
ボロを出す前に、彼女の元を去りたかった。彼女の純粋な笑顔を見ていると、俺が何だか悪いことをしているみたいで(いや実際騙している訳だし、悪いことをしているのだが)嫌だった。
「夢なら良かったのに。」
ふぅ、と廊下で一旦溜息を吐いて、俺は自分のクラスへと向かった。
とりあえず、制服を女子用のに着替えておこう。そして、ウイッグでも被るとしよう。
自分の席へ行き、スポーツバッグを取り出すと、その中から女子用の制服とウイッグを取り出した。そして女子トイレへと向かう。人が辺りに居ないのを確認すると、俺はそそくさとトイレに入り、女子用の制服に着替えた。ウイッグを被せたら、念のためトイレに付いている鏡で確認する。よし、大丈夫だ。
そして、来た時と同じように、辺り一面に最新の注意を払って、ひっそりと自分のクラスへ向けて歩き始めた。
「…無視すれば良かったのかもしれないな。」
先程まで目の前に居た彼女のことを思い出して、また溜息を吐く。俺は、彼女にああ言ってしまったけれど、果たして本当に屋上でご飯を食べる気があるのだろうか。
「…行く気は無いが…。」
それでは彼女に対してあまりにも冷たすぎるような気がして、後ろめたくなる。
…でも、俺が演じたさっきの男は、この学校内には何処にも存在していないんだ。だから、二度とあの時のような男装さえしなければ、彼女は俺に気づかない筈なんだ。
…でも、やっぱり後ろめたい。
終わりの無い螺旋階段に巻き込まれてしまったような感覚がする。
教室へ入ると、俺はスポーツバッグを手に取った。くるりとUターンを決める。
そして、毎日待ち合わせをしている玄関へとゆっくり歩き出した。
By「台詞100題」ショートバージョン No.46

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