旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

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ドヌーブの≪別離≫


かなりのウエイトを占めたものにフランソワーズ.サガンの
存在を知らねばならない。
アランとジャンが華々しい活躍をする中で、
ジャンヌ.モローの個性的な映画も動いていた。

その一方で、サガンというフランス社交界の花、
サガンの存在と、次々と発表される彼女の作品の
映画化でネーム,アップしていった女優も多い。
ジーン,セバーグ、クローデイヌ.オージェ、
モニカ.ヴイッテイ、クリステイーヌ.カレルといった
女優が名を馳せた。

その中で今も現役でフランス映画界に君臨する女優、
カトリーヌ.ドヌーブがいる。

その前にちょっと,サガンのことを。

大きな瞳の中に未知への憧れと、残酷さを秘めた
一人の少女。フランスの文壇に衝撃的なデビューをした、
フランソワーズ.サガン。
18歳の少女が、彼女自身をモデルに描いた、
≪悲しみよこんにちは≫は、世界中の女の子に
深い感動を与えました。

そして、”ブラームスはお好き?”という言葉を
愛のシンボルまでにしたサガンがなによりも
好んだフランスの蒼い海と太陽。

悲しみよ..はもとより、彼女自身が、
フランス社交界の華であり、
その中での経験を倦怠感あふれるパリジェンヌのあり様を夢豊かに
そして、新しい愛の感性を投げかけ、それまでの愛の形を
打ち破って書いたこの作品は、新鮮な感動を呼んだ。

折りしも映画界はヌーベル.バーグの台頭、
そして、男優、アラン.ドロン,ジャン.ポール.ベルモンドといった若者が圧倒的な人気を集め始めた、新しい時代の始まりだった。

私がアラン.ドロンを語る上でも、
この当時のフランスの映画、文壇、シャンソンの世界、
フアッションの世界、全てがちょうど新しい時代の始まりに
出会った時代でもあったので、知っていただきたいのです。

サガンの親友、ジュリエット.グレゴ。
その夫が、俳優ミシェル.ピコリ、
そのグレゴがシャンソン界に誘った歌手イヴ.モンタン、
その婦人が名女優,シモーヌ.シニョレ、
そういった人たちと親交があったサガンが、若くして、
....の花になったことも自然の成り行きであろう。

サガネスクとまで言われた文体のなかに、
蜂蜜のような愛の出会いの、数々が、
その当時の飛んでる女の子には恋の教科書でもあったわけです。

アメリカの、いや、ハリウッドのような巨大な映画界ではない、
むしろ日本のそれよりももっとこじんまりとした
フランス映画界は、
その当時、芸能活動や、文化活動をしているものにとって、
まるで家族のような芸能界にさえ思えたものです。

それまでのフランス社交界、映画界、というものの、イメージが
変わってしまった時代となったのです.

≪別離≫は、原作は ≪熱い恋≫です。

私は、サガン小説も発表されるのを待ちわびた世代ですので、
映画化となると誰が演じるか?という楽しみもありましたね.

サガンが28歳になった頃の、この小説はもうヒロインは
大人の女です。
白羽の矢はサガンの指名でカトリーヌになったのです。

1969年、監督はアラン.カヴアリエです。

中年の実業家シャルル(ミシェル.ピコリ)の保護を受けている
リュシール(カトリーヌ)の愛の遍歴を描いたこの作品は、
同年、日本で公開されるや否や、女性フアンの圧倒的な
支持を得て、大ヒットとなりました。

シャルル役もサガンの親友、グレゴの
夫ミシェルが、サガンのたっての希望で決まったのです.

リュシールの恋の相手アントワーヌには、
ロジェ.ヴアン.オールが選ばれました。

二人が繰り広げる愛には、女性の羨望と、憧憬の視線が
矢のように降り注いだのであります。
ハリウッド映画ではこのような倦怠ムードとおしゃれ感は
出せないのです。

煙るような金髪と、少し、愛に飢えたような眼に
底知れぬ情感を秘めたカトリーヌ.ドヌーブの
様ざまな表情は、ヒロインリュシールにぴったりと
重なり、
  「こんな美しい人がこの世に?」と納得せざるを得ない
シャルムに満ちていました。

衣装デザインを担当したまだ、そのころは、新進デザイナーだった
サン.ローランの、ドヌーブへの傾倒ぶりは、
彼女の美貌をいっそう盛り上げ、この作品の彼女は、
限りなく美しく、哀しく、透き通るようなヒロインでした。

リュシールのパトロンのシャルルは、彼女が若い青年と恋に落ちても、無言で見送り、アントワーヌとの愛に破れたリュシールの
帰宅を腕の中に抱きとってやる、抱擁力豊かな男を
しっとりと演じて見せた。

セーヌ河、モンテーニュのアパルトマン、コート.ダジュールの
サントロペ、などの美しい景色。

ある時、リュシールをパーテイーに誘い、
彼女のために、オーケストラの演奏を頼んだ、

”ほら、これが君のコンチェルトだよ”

一年後、アントワーヌとリュシールがある家で
顔を合わせたときに
 ”ラ.シャマード、 というのは何ですか?”と誰かが
言った。

すると誰かが”敗北を告げるときの太鼓の鳴る音だそうです”と
応えた。

あの時、シャルルが自分のために演奏させたあのコンチェルト...は、まさしくシャルルのメッセージであった....

前に紹介したサガンの一作、
「さよならをもう一度」のなかでも、
アンソニー.パーキンス扮するフイリップが年上の恋人、
イングリット.バーグマン扮するポーラに、
コンサートのチケットを送り、”ブラームスはお好き?という
愛のメッセージを送ったという解説をしました。

ああ、フランス人ってどうして、こう気障なの?
いや、それがスマートになるから...
でもこういう新しいエスプリはサガンの生み出した新しい
愛の告白のコ.ト.バ。なのである。

今はなにも珍しくも無い。だが、あのころの私達には、
なんて、カッコイイ とため息が出たのです。
それもハンサムさんが、さらりとやるんだもの。

それと、フランスの女優さんほどタバコが似合うのも不思議。
ひとつのフアッション、アクセサリー的なんですね。
マダムとパリジェンヌの中間、これが背伸びして見えないから
不思議です。

ハリウッドがやるとどうしてもキャリア.ウーマンの
代名詞的な映りでしかない。

パンとぶどう酒とタバコ.
パリの世界たっぷりのサガンの世界。
若い方たちに読んでいただきたい、観ていただきたい。
フアッションも生き方も、食もワインもここらあたりから、
日本と親密になってきたのです。

ぜひ、いちど、ご覧ください。読んでくださいな。
その後で、1960年以降のフランス映画をご覧くださいな.
きっと受け取り方が違うはずだから...

1960年を境に台頭してきた、歌手、男優、女優、小説家、
映画界の人々などなど、
彼らが築いた今に続くフランスを見直すためにも....

サガンの作品

悲しみよこんにちは 優しい関係 熱い恋
 ブラームスはお好き スエーデンの城、ある微笑 
水の中の小さな太陽 心の青あざ
幸福を奇数に賭けて 草の中のピアノ
時おりヴアイオリンが   などがあります。




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