旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

≪ボルサリーノⅠ、Ⅱ≫



アラン.ドロンの魅力の中で、
もっとも本質的なものは、やはり、仕事に打ち込む男らしさと
いうことになるかもしれない。
  ”仕事”といっても、正当なかたぎの仕事ばかりではなく、
殺し屋や、ギャング、といった悪徳のにおいぷんぷんのものもあれば、刑事や政治家といったお仕事もある。

が、どんなオシゴトでもそれに徹底して行動する冷酷非情さや、
かたぎであれば、全精力傾けて犯人逮捕とその懸命さ、
決していい加減にしない...という魅力に尽きる。

1975年ごろの彼といえば、
マルコビッチ殺人事件の重要参考人になったという、現実の
殺しの匂いが、ナマの迫力を与えていた。

ーー彼の演じる男性に怠けもの....
怠惰な人物はほとんどといってよいほどいないーーーー

そう意味では、今日紹介する≪ボルサリーノⅡ≫の冒頭シーンの
ドロンに、しっかりと顕れている。
アランの男の美学は、この作品に関しては、パートⅡのほうに
最も顕れていて堪能できますが、
ジャン.ポール.ベルモンドと共演のパートⅠも
非常に楽しいエンターテーメントとして出来上がっています。

パートⅠは、
まるで下町のガキ大将、カペラ.フランソワ(ポール)と、
ロック.シフレデイ(ドロン)がいろいろと悪さをしながら、
暗黒街の黒い霧をやっつけて街を一掃していくという話。

カペラのいい加減そうに見えて、結構、アイデアや先の見通しが
いいところ、女にもちょこちょこちょっかいを出す性格は
ポールのキャラクターそのままに、マルクス三兄弟の長兄
ガウッチョのギャクのごとく、笑わせてくれ、
そのギャグを笑いもせずにしっかりと乗って受けてたつ、
義理堅いロックのドロンが一緒に組んで痛快にみせてくれます。
フランス映画界の二代スター..
さしずめ、
日本でいえば、石原裕次郎と高倉 健の共演みたいなものですね。


ロックがちょっとした悪さでぶち込まれたムショから出所してくるところから始まり、彼の恋人が今はカペラの女になっています。

取り戻しに行ったところで殴りあいとなり、妙に意気投合して、
二人はいろんな金儲けとギャング一味と対決しながら、
町の有力者となっていきます。

ガキ大将がフアッショナブルな紳士?へと変身していくところも
見所です。
そしていつもそうであるように男同士の友情というものを
とりわけ大事にする設定はこの作品でもたっぷりと
味あわせてくれます。

その一人の女..ローラを取り合うでもなく、
二人で大事にしていきます。
ふっとみせる女性の前でのやさしさ、弱さが、
徹底してやり遂げるお仕事への非情さとあいまって出来る魅力が
ドロンの魅力と申し上げておきましょう。
ドロンの魅力ということなので、パートⅡに比重をおきますが、
パートⅠのラストで
親友カペラは新しい敵に撃ち殺されてしまいます。

付け加えるならば、ドロンとベルモンドのこのコンビはもっと一緒に作品を
作ってくれてたらと思うほど、凸凹コンビぶりが秀逸で、
引退作まで、お預けだったとは惜しい気もする。
このコンビもっとずっこけて、リラックスしてやっても良かった。
十分に楽しめるが欲を言えばである。
痛快に、笑わせ、テンポ良く、絶品である。

パートⅡ...
冒頭、友の死に立ち会ったロックの決意、悲しみ、孤独感は
何の演技もしないうちに、もう表現されている。

そういった諸要素はたくまずして、ドロンという男性に
備わったものだからだ。
ロックは新しい黒い霧が立ち始め、殺し屋にやられた友への
復讐を心の中で誓っている。
それだけはやり遂げなければならない。
残された女性ローラも幸せにしてやらねばならない・

ロックがどんな手段を使って新しい敵、ボルボーネという
双子の兄弟をやっつけていくか。
途中、敵のわなにはまり、アル中にされてしまうが、
どういう経緯でそうなったか、マタ、アル中で入れられた
精神病院をどうやって抜け出すかという説明を一切せずに、
仕返しの段階で明確になっていくなど、本格的暗黒ものとして
楽しめます。

そしてこのアル中のドロン、フアンは見たくないでしょうが、
まあみてやってください。
その弱々しげな彼の表情、仕草はおそらく、いや絶対に
女性フアンの母性本能をくすぐる(すでにくすぐられたよ)に
違いありません。
男の弱さが...にじみ出ています。
そこがかえって、冒頭の親友の葬儀に臨んだときに、
無言のままで、全身に漂わせたあの男の孤独感とも共通してくるのではないか。

さて、ロックは
追いやられた精神病院の中でお酒を断ってから、めきめきと
もとの強靭で、男性的な魂と肉体がよみがえってくるのです。

そして目には目をという仕返しがまた笑わせてくれるし、
報復の準備は着々と進みます。
小気味よい仕返しが待っています。見せてくれます。

そして、1930年代ヨーロッパの暗黒ものがよくわかりますし、
フアッションもみものです。

細かな手順を一切省いている。また、決してリアルで生々しい
ギャング映画ではなくて、チャンバラ...大衆講談的に、
カッコいい見せ場だけを、そして、クライマックスだけを
重ねていくという、意識的に大味なアクションドラマを狙って、
ドロンのカッコよさが全面に出ている作品です。

一週間で6回も観ちゃいました。
スカーっとするんです。

理屈抜きでアクションの快味に陶酔しようという方には
絶妙の作品であることを強調しておきます。

ーーードロンの見せ場集ーーーでもあります。
ラストでいよいよ黒いボスーーよこしまな小男tち撲滅作戦を
展開するのだが、出かける前にローラに向かって
”旅の支度をして待ってなさい。君をアメリカへ連れて行く”
けっして甘い言葉など言わない。気持ちだけやさしい。
そして、ベルリン行きの列車で逃げようとしたボルボーネを
機関車の赤々と燃える炉の中に生きたまま、彼を放り込む。
このときも彼の表情はいささかも揺るぐことは無い。

ロックという役の人物が、なぜか実物のドロン自身の
男性像とふと重なって見えた...
冷酷非情な男の美学、仕事一途に突き進む男の美というものを
彼ドロンが演じることによってひとつの魅力となることを
太陽がいっぱいから、15年を経て完成させた男ドロンは
やはり、一級のエンターテナーである。

そして、アメリカ行きの船上で。
ホールのカウンターに腰掛け、ボーイの問いかけに
  ”シャンパン(シャンペンとは聞こえない)”と答える。
....と..”踊りません?”と女性の声...
  ”いつから女性が男を誘うようになった?”と
振り向くドロン.ロック。

”ウイ.ムッシュ、今は1937年ですのよ”
ローラであった。
にこーっと笑って(ここがもうたまらないのよ.この笑顔が)、

”そうだな”とエスコートして、ホールで踊る二人...
ため息が出るカッコよさなのだーーー

ドロン40歳、男盛りの魅力の最高作品です。
ぜひぜひ、ご覧くださいませ。

1975年度作品です。



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