旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

≪嘆きの天使≫


ユダヤ系ドイツ人であったという
ジョセフ.フォン.スタンバーグは、ドイツのプロデューサーに
招かれて、ドイツに渡り、
ドイツの名優エミール.ヤニングスの
相手役に無名の踊り子デートリッヒを起用して作ったのが
≪嘆きの天使≫であった。

長く苦しい生活にあえいだ経験が、
彼の作品に深い人生の陰りをにじませ、
ほろ苦い味を与えたようだ。

≪嘆きの天使≫では重苦しい暗さのなかにも
気持ちが和らぐような、生きる歓び、
また、人間の愚かな滑稽さとでも言おうか
哀しいまでの中年男の恋情を織り交ぜて、
味付けの濃い作品となっている。

これも,ラストは感動的でした。

世に認められるようになってから5,6年で
この作品を作っていることになるが、これからしばらくは、
ルビッチと並んで、
世界の映画ファンは絢爛たるスタンバーグの活躍に
眼を見張る事になるのである。

同じ1931年に作られた≪モロッコ≫では
もう、姉御肌のスター然としているが、
この作品ではまだぽっちゃりとした
それでいてその後の活躍を予想させるような輝きを
持っているように映りました・

1931年度作品   独

出演
ラート先生..........エミール.ヤニングス
ローラ.ローラ.....マレーネ.デートリッヒ.

ストーリー

ドイツのある港町。

ある男子高校。

学校と下宿以外のことは何も知らないかのような
謹厳実直な教師、ラート先生は
中年過ぎていまだ独身である。

どこの学校にもあるようにこの真面目な先生に
いたずらをする生徒はラート先生を悩ませる。

ある日、ひとりの生徒が♪青い天使♪という酒場の
踊り子のプロマイドを教科書に挟んでいるのを見つけた先生は
それを取上げる。

ところがその生徒は優等生の教科書に二枚の別の
ブロマイドを挟みわざと先生に見つかるように仕組んだ。

優等生までがこんなものを持つとは。。。。
先生は三枚の写真を眺める。
一枚は面白い仕掛けで女の子が身に付けている
羽根のスカート、フッと息を吹きかけるとひらひらと動くのだ。

右,左。。と誰もいないのを確かめて
ラート先生は息を吹きかけた。
ひらひらと羽根はゆれてなまめかしい。
先生もやっぱり男だ。少しにんまりしたようです。

先生は生徒を誘惑しては困ると
酒場に出かけて文句を言おうとするが
ある楽屋に迷い込んでしまった。

そこはローラ.ローラ≪デートリッヒ)という踊り子の
部屋であった。

真面目に話そうとする先生にローラは一向に動じる事もなく
まるで生徒達と同じような扱いをする。

舞台へ出てもローラはこの石仏のような先生に
ウインクを送ったり、
得意の歌で痺れさせたりと、
おかげで先生はすっかりローラ.ローラの虜になってしまった。

生まれて初めての経験にラート先生は憑かれたように
来る日も、来る日も、彼女の許を訪ねてゆくのである。

生徒達は、そんな先生を冷やかし、囃したてた。
怒った先生は生徒達に怒りをぶつけたが、
それは火に脂を注ぐようなもので
冷やかしはどんどんエスカレートしていった。

ラート先生の行状は、町民の知るところとなり、
長年勤めてきた
学校を辞めざるをえなくなった。

そうなるともう、ローラ.ローラの許に行くしかない。
彼は全身全霊を込めてローラに求婚した。
そして彼女の亭主となったのである。

だが、所詮、流れものの稼業の一座。
ローラ.を養う為のお金もたちまち底をついた。

そして、ついにローラのヌード写真を
裏町の酒場へ売り歩くまでに
落ちぶれていった。

かつて教鞭をとっていたハンブルグの町で
興行をする事を思いついた座長は
ラートを道化役者に仕立て、
町民の好奇心を煽って客を寄せ,
収益をあげようと思いついた。

面白半分に町民が見にくると分っているからだ。

落ちぶれた中年男は、真っ白なドーランを塗った顔を
さらけ出し、一生懸命に道化を演じ、屈辱に耐えた。

かつての教え子達はラート先生の道化に笑い、揶揄し、嘲笑した。
それでも終わりまでやっとの事で舞台を終えた。
楽屋へ戻ると
ローラが、若いハンサムな団員と
抱き合っているのを見たのだった・

怒り狂ったラートは団員に掴みかかったが、
ものすごい形相に驚いた他の団員が、危険を感じて
彼を引き離し、床に叩きのめした.

ラートはフラフラとどこかへ出かけて行った。

翌朝、かつての高校の教室の教壇の机の上に
ラートの身体が、転がっていたのだった。
それはもう、ボロボロの雑巾のような
姿だった。
どんな男性の中にも潜んでいる一種の願望を
誇張してこのような形で表したのと,
何もかも捨てても恋ひとすじに走った男の行動は
現実に出来なくても、
世の男性の願望でもあるだろう。

そこまで突っ走った先に待っていたものは
若い者は若いもの同士という現場を見せ付けられ
老いさらばえようとしている自分に気付いた為の
自殺なのか、
叩きのめされた為の死なのかは分らないが、
絶望の果てに行き着いたところは失った教鞭の
懐かしい机の上.

ここで死ぬことは彼にとっての
最後のプライドの証だったのではないだろうか。

この映画は多分、ドイツ映画界きっての名優、ヤニングスの為の
映画であったはず?と思うのですが、
結果的には無名の新人女優デートリッヒの
鮮烈なデビュー作ともなり、
その美しさの魅力の作品となってしまった。
ヤニングスの名演もデートリッヒの魅力の陰に
薄れているように思いました。

無名の踊り子から抜擢され、
百万ドルの脚線美を惜しげもなく見せ、
歌いまくったデートリッヒの妖しい美しさと
新人とは思えぬ貫禄である。

スタンバーグとデートリッヒは女優と監督という関係以上にまで
及び、公私共に、
まばゆいばかりの黄金時代を築く事になるのである。


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