-小麦粉記-

-小麦粉記-

資料四


 資料四
 Sの病院での手記の切れ端・ゴミ箱の側に落ちていたのを看護婦が拾ったという
 特に意味はないが、一連の事件の締めくくりに収録し、了とする。

 罰せられない罰
 ア、ハ、ハ! この目が代償ならばそれでエンディングか?
 Iに妄想の中でさせた愛の告白じみた言葉が土壇場で離れなかったとはいったいどういうことなんだよ。ちくしょう、一番の罪は、ご都合主義か?
 もし本当にIが俺を好いていてくれたのなら、もし俺がここで死んでしまったら、Iは悲しむだろう。Iに涙を流させることが罪ならば、俺はその「償えるはずの罰」を償うことなく芯で住まうのかと、土壇場でためらったのだ! クソ忌々しい、どこまで言っても、空想という奴はついてくる。死なない限り、空想って言う無限の、罰の無い罰はついてくる。
 自由は、足枷だ。
 そうしたら、オイオイ、Iがのこのこやってくるじゃないか、しかも、あのときみたいに紙をみてキョロキョロしながら!!!
 俺はどうしたともう?
 涙を流しやがった! 猿芝居か! いや、芝居ならまだよかったものを、オレまじでIの姿を見て安堵の涙を流しやがった!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 償えない罰は、無いって言い切れる?
 そんなことをIは言ったんだ。
 お互い、罪悪感でつながりあうっていうのも、いいんじゃない? なんて、そんな簡単なア、ハ、ハ!
 安っぽい恋愛感情じゃなくて、どうにも拭えない罪悪感で一緒にいるのも、それはそれでなかなか離れられないから、私は嬉しいな。

 思わずIの、珍しく悪戯っぽい笑顔をみて笑っちまったね。
 Iの奴も「片目で、可愛くなったんじゃない?」なんていって、一緒に笑いやがる…

(ここで紙が破られている。改めて何を書き直したかはわからず仕舞いであり、また知る必要もないと思われる。Sは片目を失ったが後に小説家と新聞記者としてそこそこの収入を得ながらIと同棲をしているが、この事件については一切口を開かないという。また、友人のKは研修医であるが、TはSが発見された山林のほど近くで、首をくくって自殺している)
                                                           了


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