-小麦粉記-

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第五楽章 中編


学年共通のα、β、γ、δ、ε、の五つの組で得点を競い合う、これだけだったら普通の体育大会と変わらないんだけど、名物と言われるにはやっぱりそれなりの理由があったりする。
各競技、すべてに共通して、戦争状態。
例えばメジャーなところで言うと、サッカー。
各クラスの意地と誇りをかけ、激突する猛者たちに審判はもはや無意味。ユニフォームの引っ張り合いなどは児戯に等しく、足掛け、押し倒し、故意な衝突をはじめ、ボールをキープする敵へ殴る、蹴る、ドリブルをしてこようものならラリアットが繰り出される。
ルール無用のデス・ゾーンに成り果てるグラウンド。一方ではすばやいパス回し、殴り合いが展開される中、要マークの人間を三対一で潰している・・・・なんてのはざらだ。
もっと酷いのになると、たいていの学校で一番盛り上がるバスケ。
勿論帝壱校も例外なく生徒のテンションがマックスのなる競技。例年けが人続出。コートは血まみれ。
口に出すのもはばかれるような反則のオンパレード。死人が出ないのがおかしいくらいだ。

とは歴土の弁。入学してまもなく歴土が話した内容に少しぞっとしながらも、その時はまだ甘く考えていた。

この高校は、普通はバスケで幕を閉めるところを、最後に大量得点の獲得できる特殊な競技がある。
障害&格闘死合がそうだ。各クラス一組の男女がペアを組み、学校の屋上をまず二人三脚でスタートし体育館を目指す。勿論このときも各ペアの壮絶な攻防が繰り広げられる。さらに「障害」のなの通り体育館までの道のりには様々な仕掛けが施されていて、男女のペアが協力してこれを乗り越えるわけだ。
そうして体育館に着いたら、男限定で格闘死合だ。ルールは金的禁止のみの何でもあり。顔面のプロテクターが用意されており、早く着いたものはそいつを装着し、後続を待つ。一応全ペアの男子にプロテクターは用意されているが、着けている間に先にきた奴の攻撃をうけてしまうがな。
こうして生き残った最後のペアが優勝ってわけだ。優勝したペアのクラスには最下位から逆転できるくらいの得点が入ることになるらしい。

聞いたときには絶対に俺にはかかわりの無い話だろうと思っていたが、まさかまさかの侘須牙とペアを組んでの出場。
この競技、なぜカップルではないと出場がはばかられるかと言うと、体育館にたどり着くまでの道の障害が、他人同士だと恥ずかしすぎるものが多数だから、とのこと。
しかも何故かバスケのメンバーにも登録されていた。
クラスの連中のニヤニヤに耐え続けてようやく迎えた放課後。
さぁこれからどうしようかと激しく悩みながら帰る準備をしていると、侘須牙が綺麗にたたんだノートの切れ端をこちらに投げてきた。「なんだよこれ?」と聞く間もなく侘須牙は教室から出て行ってしまったので取り敢えず開いてみると
「今日の六時。夕ご飯を食べたら外に出なさい」
と、品のある字で書かれた呼び出しの文句があった。文字に殺気が滲み出ている。
うわ、呼び出しかよ。おっかねー。
「おおぃ月見!何してんだ。バスケの練習にいくぞ!すでに戦いは始まっているんだ!」とズカズちかづいてきた歴土には見えないように手紙をぽっけにいれて、なんだかもう勝手にバスケのメンバーに入れられていることに反論する気もなく、歴土について体育館に向かった。いやまぁ桐坂の中学にいたときからバスケは好きでよくやってたから、出ることに異存はないんだ。

わがγ組のバスケットのメンバーはバスケ部が一人、(人数制限がある。)補欠を含めた残り五人は皆クラスの猛者どもで、見たところ全員176センチ以上はありそうだ。
その仲でも背の高い歴土とバスケ部の栗沢、柔道部の中西、野球部の河田に高橋、加えて俺月見という六人。
第二体育館に行く道すがら、廊下にいたほかの連中がぎょっとした顔で道を開けるほどの威圧感で、先生でさえも通り過ぎた後こちらを見るほどだった。

「戦いはすでに始まっている!」
歴土が放った言葉は、すぐに現実となった。
バスケ部の栗沢が「月見、お前が遅いから体育館とられちまったじゃねぇか」と言ったのもつかの間
「おらあぁぁぁあ!!そこをどけえぇぇぇぇ!!このコートはγ組が占拠するぅぅぅう!!」
と隣から絶叫。勿論歴土。
「まぁ月見が遅れようが遅れまいが、こうゆう展開になるのはどうしようもないんだけどよ。」
半分諦めの表情で高橋がこぼす。
「さぁて、月見。帝壱校体育大会名物、コート占領合戦だ。あいてはベータ組か。手加減すんなよっと!」
柔道部の中西は言い終わる前につっかかってきたベータ組一人を大外刈りでぶっとばしていた。
歴土も大柄な奴に奇声をあげてヘッドロックをかけていたし、野球部の河田はピッチャーらしく相手から奪ったボールを至近距離で顔面にぶち込み、高橋は中西の投げをくらって一時的に昇天した奴をコートの外に引っ張っていた。
すでにベータ組の六人のうち三人が戦闘不能に陥り、高橋によってコートから排除されていく。
帝壱校体育大会名物、コート占領戦。
バスケの練習場所確保の名目で勃発する言わば前哨戦。といえばカッコいいけど、実際はいち早く敵クラスを潰しいかに有利に本番を迎えるか、というもので、もはやバスケではなくただのケンカ。
「γ組の奴らに負けてたまるかあぁぁっぁぁぁぁあ!!」
気付いたら生き残っていたベータ組の一人が、大きく腕を振りかぶってすぐ目の前に迫っていた。
慌てて繰り出された拳を避けて背後を取る。空ぶった腕を振り回しながらこちらに振り返ったそいつの間合いに一歩踏み込み、鳩尾に膝をめり込ませた。
「おぐっ・・・!」っとくぐもった声を発してよろけた隙に一応とどめに、ともう一発胸に蹴りを入れて吹っ飛ばす。
「うわ、ちょっとやりすぎたかな?」と思わずつぶやくほど綺麗に決まった中段蹴りだった。
すでに二人目を潰した河田が「おいおい月見、容赦ねぇなお前。さすが桐坂、おっかねー!」などとぬかした。
「いや、顔面至近距離でバスケのボールを何のためらいも無くぶち込む方がよっぽど容赦ねぇだろ。」
コートの外には哀れなベータ組の六人の骸が積まれていた。
「んだよ歯ごたえねぇな。もうちょっと根性つけてもらいたいね。」
「中西、現役柔道部のお前の投げをいきなりくらって無事な奴はそうそういないとおもうよ・・・。」

こんな感じでベータ組をあっさり全滅させた俺たちは早速バスケの練習をはじめ、あっという間に二時間が経っていた。
「よーし!最後に五分間個人でシュート練して今日は終わりにしようぜー!」 「「おう!」」
バスケ部の栗沢指導の下、みっちり濃厚な練習メニューをこなしてみんな汗でTシャツはびしょびしょ、足はふらふらだったが、気合はまだ十分。
「あしたもこの調子で頑張ろうぜ!このメンバーなら優勝も眼じゃねぇな。」ぐしょぐしょのTシャツを絞りながら歴土がよく通る大きな声で景気づけた。
「みんな基礎は出来てるから、明日は速攻、いわゆるファーストブレイクと、ゆっくり攻めるときのパスの回し方と動き方だな。タオルと代えのシャツは絶対忘れんなよ。」と言った栗沢はさすがバスケ部たいしたもの。凄く教えるのが上手で、本当に手取り足取り丁寧にやってくれるのでありがたい。
中西が「ところで今日はここの第二体育館でやったけど、明日はどうするよ。まぁどっちにしろ占拠済みなら潰すし、かかってきても潰すのみだけどな。」なんて危険な発言。
「一応こっちの方が教室から近いし、狭いけど綺麗だから明日もここでいいんじゃね?」とピッチャー河田。
「そうだな、第一の方はα組がいるかもしれないし。あそことは今の段階で衝突すると両方崩れかねない。」
と言いつつも歴土の眼は一刻もはやく殺りあいたいと語っている。

うちの組、γ組は絶望的なまでにα組と仲が悪い。
特に何か事件があったわけでもなく、どちらかが一方的に嫌っているわけでもない。まさに犬猿の仲。
学力はどちらも校内トップレヴェルで、この間の中間考査では全教科平均がγ組が一点負けたことで流血沙汰寸前まで発展したことがあった。
こんな両組なので、体育大会なんかは雌雄を決する最高の機会としてお互い敵意剥き出しで、喧嘩が起きないのが奇跡のようだった。

「おい、そういえば月見。お前侘須牙からなんか紙みたいなのもらってただろ。なんだあれ。」なんてニヤニヤしながら聞いてきた。
うわ、見られてたのかよ。隠したつもりなのに。
「いや、別になんでもな・・・・・・今何時!?」
「ん、五時五十五分だ。」
しまった。侘須牙との待ち合わせは六時だったよな。あぁ、ぜってー間にあわねぇ!
「わり!さき帰る!また明日!!」
おい月見明日の練習は、といった栗沢の言葉を最後まできかずに猛烈ダッシュ。
やばいやばいやばい!!!後五分で着くわけがねぇんだよ!ポッケから侘須牙にもらった紙を取り出してもう一度見てみる。
「今日の六時。夕ご飯を食べたら外に出なさい」
殺気が・・・滲み出てるよ・・・。
とにかく走った。
ちんたら歩いていた不良とぶつかって吹っ飛ばした。罵声が俺の背中を押してくれた。・・・すみません。

いつものようにシチューを食べてジャージに着替える。まだ五時三十五分。いい加減シチューとカレーの繰り返しが辛く感じてくる。
軽く準備運動でもしましょうかとアパートの駐車場でちょっと体を動かしてから階段に座って彼が降りてくるのを待つことにした。少し汗ばんだ肌に夕方の風がとても気持ちがいい。
必ず優勝してあの下らない交際疑惑を晴らしてやる!と、久しぶりに気分が高揚しているのが自分でもわかる。四十五分。
私は絶対に嫌だけど、月見君はどう考えているのだろうか。やっぱり迷惑に決まってるわ。だんだんあたりが暗くなってきた。五十分。
五十五分。まだ予定の時刻にはなっていないけど、普通待ち合わせ、しかも隣の部屋なんだから少しくらい早めに出ていてもいいんじゃないかしら。
階段を上がって月見君の部屋の呼び鈴を押してみた。キーンコーンと間の抜けた音がして・・・・何の反応も無い。再度押してみるがやっぱり反応なし。
「まさか、まだ学校から帰ってきていない、なんてことはないでしょうね。」
扉を叩いてみるが無論無反応。自然と苛々して一発バガンと扉を殴ってしまった。
「何考えてるんだかあの馬鹿野郎は!」思わず怒鳴ってしまったところ額から汗を流した月見君が、ダッシュして来た。
聞かれた・・・わよね。

「侘須牙―!悪ぃ!!バスケの練習で六時になってたのに気付かなかったんだ!!ほんとにゴメン!!」
ここは謝りとおすしかないだろうと判断し、俺の部屋の前で立ち尽くす侘須牙に声をかけるのと、先ほどの不良も顔負けの罵声を耳にするのは、ほぼ同時だった。
ぎょっとした侘須牙に近づいて「ほんとにすまない!ほら、第二体育館って時計小さいだろ?だから全然気付かなかったんだよ!」と必死に情状酌量を求めたところ、
「・・・・言い訳はそこまで?」
と青筋がピクつつかせた侘須牙が俺に向かって

「さて、なんで外に出てるかわかるわよね。障害&格闘死合の特訓よ。絶対負けられないわ。」
先ほどの思い出したくない惨劇の残痛が残る肘の関節をさすりつつ黙って聞く。
「恥ずかしいけど早速、足むすぶわよ。」と侘須牙ははちまきを取り出した。
障害&格闘死合の障害は、男女二人が二人三脚で屋上から走ることになっている。障害物の様々な仕掛けに加え各クラスのペアからの攻撃をかわし、更に攻撃を仕掛けるので、基本の二人三脚がなっていないと体育館にたどり着くことさえ出来ない。
「・・・・・ホラ、早くしなさいよ。」侘須牙の顔が赤い。
どきどきする。
別になんか変なことをするわけではない。練習練習!と心の中で唱えてはいても、侘須牙と足を結ぶって事は、二人三脚と言うことは体が密着・・・・・あぁ
だめだだめだ!意を決して侘須牙の足と俺の足を鉢巻で結ぶ。
「い、行くわよ。」
「お、おう。」
侘須牙の肩に手をかける。意外なほど華奢な体だった。侘須牙の腕が俺の肩にかかったが、いかんせん身長差があって上手く届かない。
「うーん、仕方ないから胴に手をまわすしかないか。」わき腹にてがまわされる。少しくすぐったくて、更にどきどきしてきた。いや、参ったぜ。死にそう。
「・・・・・・ちょっと、変なこと考えないでよね?」さらに追い討ちかけるようなことをすぐ目の前で言うなよな。
「わかってるって。」無理っぽいけど。

「「せーの!」」
「きゃっ!」「うわっ!」
俺は結んでいる足を出したが侘須牙は違う足を出したらしく、一気にバランスが崩れる。下はアスファルト。前に倒れこむ。
とっさに侘須牙を抱き込んで肩を抱く片手で彼女の体重を支え、あいている左手に体を傾けて
「うぐっ!!」
左手一本で侘須牙を抱いたまま腕立て伏せの形になった。無論そんな体勢が続くはずも無く、根性で侘須牙が地面と当たらないように今度は抱いている方の肩で着地。ちょうど横向きに抱き合っている形になった。
「ぐぁ、痛ぇ・・・・。」二人分の体重+位置エネルギーを全部受け止めてくれた左手と、根性で着地した右肩。特に左手が痛い。
「ちょっと!大丈夫なの!?」狼狽した声と共に、起き上がって俺の手を見た侘須牙が助け起こしてくれた。
「あぁ、痛いだけだ・・。」
左手をついたところに小石があったらしく、手のひらに食い込んで血も出ていた。
「うわ、自分事だけど痛そうだし痛い。」とくん、とくんと心臓が血液を送り出すリズムと共に傷が疼く。
「何意味の判らない事言ってるのよ、私の部屋に来て。消毒するから。」
自分を庇って怪我をしたことに、少しは負い目を感じているのかいつに無く柔らかい態度だった。いっつもそうしていれば可愛いんだけどね。
侘須牙に付いて彼女の部屋に入ると、まぁ、侘須牙らしい部屋であんまりモノがない。大きな本棚が二つあるのが唯一目を引くくらいで、後は雑誌が散らかってたりもしないし台所も綺麗だ。
そんな感じで部屋を見回していると救急箱を持った侘須牙に「ほら、そんなところで突っ立ってないでこっちにきてよ。」と怒られ、まずピンセットで肉に食い込んだ数個の石片を取り除いてから手を握られて「しみるけど我慢してね・・・・・。」消毒液を撒き散らされた。
沈静化しつつあった痛みがいきなり暴れだす。見栄と気合と根性で声は出さなかったがさすがに額に汗が滲む。
「痛い?」
「・・・・これが痛くない奴は無痛症だぜ?」ジン、ジン、ジン
今度は脱脂綿に薬液をつけてぽんぽんと傷口の血と汚れを落としてくれた。その時侘須牙が下を向いたままで
「・・・・・りがとう。」
ボソッと何か言った。
「わりぃ、今なんていったんだ?聞こえなかった。」と聞き返すと少しムッとした表情で
「・・・、ありがとうって言ったのよ。あのままこけちゃうと思ったのに助けてくれたから。」

やっぱりお礼は言ったほうがいいだろう。
月見君の傷口を消毒しながら「ありがとう」と言ったのだけれど「聞こえなかった」なんていわれた。わざと・・・じゃないわよね。あぁ恥ずかしい。
「・・・、ありがとうって言ったのよ。あのままこけちゃうと思ったのに助けてくれたから。」
今考えてみると、普通二人三脚は縛っている足から出すものなんだけど、何故かあの時私は逆の足を出したらしくてあっけなくバランスを崩してしまった。
そのまま地面にぶつかると思い、目をきつく閉じて体が強張るのを感じたとき、ぐっ、と月見君の腕が私の体を抱きとめてくれた。正直に白状すると私も月見君に抱きついた訳・・・・・うわ、恥ずかしすぎるわ。
顔面に血液が集まって紅く上気していくのがわかる。なんで私はこういうことはすぐに顔に出るのだろうと、ちょっと自分の体を呪った。
幸い彼は痛みを堪えるのが大変らしく、私の顔は見られていない。呼吸を整えてまた口を開く。
「それにしても、よくあんな離れ業が出来たわね。普通ならその左手を付いた瞬間二人分の重みで、私が地面と貴方にサンドウイッチになってたのよ?」
「そりゃ侘須牙が怪我しないように気合と根性で何とかしたに決まってるだろ。女と二人三脚やってこけてたときに、黙って一緒に倒れるわけにも行かないだろうが。」
「な、まぁそうだけど」侘須牙が怪我しないように・・・なんていわれてまた顔が紅くなる。そういえばまだ手を握ったままだったのであわてて放した。
「あ、そこはもう包帯巻いてくれるだけでいいみたいだ。そんなに酷い怪我じゃないから。それより右肩に湿布貼ってくれると助かる。」
「え?あ、そう。」ちょっと、何動揺してるのよ。
Tシャツを脱いだ月見君の肩に湿布をペタ、と貼って、結構がっしりした背中にドキッとする。さっきはこの背中に手を廻して抱きついていたわけだから。
また顔が紅くなりそうなので、勤めて冷静に治療終了を宣言。
「はい、終わり。今日のお風呂気をつけなさいよ。左手、化膿するかもしれないし。」
「わかった。そうする。・・・ってもうこんな時間か。今日の練習はやめにしたほうがいいな。また明日やろうぜ?明日は遅れないようにするからさ。」
もう八時近くになっていて勿論外は真っ暗だった。
怪我させた人をまた練習させるほど私は酷い人間じゃないし、私ももう練習するきが無かったので
「じゃあ明日も六時・・・六時半の方がいいわね。貴方バスケットの練習あるんでしょ?その時間にそこの駐車場でね。」
「そうだな、そっちのほうが助かる。そうしてくれ。じゃあ、また明日の朝な。」
と言って自分の部屋に帰っていった。
明日の朝って事はまた一緒に登校するつもりなんだろう、懲りない人間だ。
部屋には救急セットと月見君の汗の匂いが、手には体温が残っていた。


ばたん。と侘須牙の部屋のドアを閉める。
三歩歩いて自分の部屋に戻った。
「あぁ、緊張した・・・・。」聞こえるとまずいので小さい声で。
治療の間ずっと侘須牙に手をにぎられてどうにかなりそうだった。どうにかなりそう、と言うのなら二人三脚で侘須牙に手をまわされたときからどうにかなりそうだったんだけどさ。
汗を大量にかいたので風呂には入らなければいけず、この手じゃなかなか大変で左手にビニール袋を被せ更に常時挙手、みたいな間抜けな体勢にならなきゃなかった。
あぁ、そういえば今日はまだ飯をくっていない。と、適当なものを作ろうかとも思ったが面倒くさくなり、お湯を注いで二分半=カップラーメンで済ませることにした。
そういえばここ何日かのごたごたでこの間せっかく借りた「血玉髄の図書館」を読んでいないことに気付きカバンに入れた。現文の授業のときにでも読もう。
久しぶりのバスケットと、侘須牙との一件でくたくたの体はすぐに眠ってくれた。
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