煩悩日記

煩悩日記

サクラサク

この数ヶ月は長い時間のようで、振り返れば短かったように思える。
三月。
まだ肌寒い季節だが学校内は違っていた。
校庭や中庭では大勢の生徒達で賑わっていたが、教室に居るのは生徒1人だけだった。
今日は卒業式。
外の騒がしさが嘘のような静寂。
もう座ることの無い自分の席に座り、この教室に通う事が最後のことを名残惜しそうに机を一撫でした時だった。
突然、ガラリっと音を立て教室の前の扉が開いた。
ビクッ!!と予期しなかった事態に一瞬、生徒の体は驚きで僅かに飛び上がった。
「何だ、先生か」
「何だとは酷いな、土方君。みんなは外に居るぞ。土方君こそ何で教室に?」
そう話しながら担任である坂田が教壇にある机に向かいながら土方に話しかけてきた。
「…別に。」
その答えに少し微笑んだ後、そうか、と一言だけ言った。
「先生こそ外に居なくていいのかよ。他の生徒達と話とかあるだろ」
「もう、済ませて来たよ」
「ふ~ん」
ゴゾゴゾと荷物をまとめている坂田の元に歩み寄り
「何してる?」
と覗き込んで土方は聞いた。
手を止めること無く坂田は
「出席簿とか他の荷物をとりに来たんだ」
「ってその大量の荷物置いたままだったのかよ。普通、卒業式までに荷物纏めて卒業式には何も無いのが一般的だろ」
「その一般的なことができなかったのはおまえらのせいだ。まったくこの3Zはギリギリになっても卒業が危うかったぞ。それに掛っきりになっていたら荷物を纏める時間が無かった」
「そうだったんだ」
普段、やる気の無い態度なのに此処ぞっという時にはしっかりと動いてくれる坂田はそんな担任だった。だからこそ土方は坂田に惹かれたのかもしれない。
「あ、そういえば知っているか?卒業式におきる現象の噂」
「噂?」
坂田の問いに土方は心当たりが無い。
「これは生徒が怖がるといけないから教師の間で箝口令になっていることなんだけど、卒業式の日、そうこの時間帯の誰もいないはずの教室から──」
「教室から?」
ただならぬ雰囲気と暗い表情をしながら話す坂田の姿に恐い話が苦手な土方はごくりと息をのむ。
「ドッカ~ン!!」
「ぎゃ~~~~!!」
突然の大声に土方は教卓の上に座るような形で飛び上がり、坂田の首にしがみついた。
「お、新鮮な反応」
と坂田はそう言って笑った。土方は坂田にしがみついたままの状態だ。
「な、な、何だよ!急に大声を出しやがって…って、今の話、嘘なのか?」
坂田の緩んだ顔を見て土方は察しがついた。
「あ~、悪りぃ悪りぃ。そんなに驚くとは思わなかった」
ぷぷっと更に笑う坂田の姿に土方は唖然とした。
坂田は土方の腕を首から外し、教卓の上に正面を向くように座らせた。
「卒業出来て良かったな。万が一卒業出来なかったら土方君との関係は蛇の生殺し状態だからな」
そして優しく微笑み、続けて言った。
「卒業、おめでとう。そしてよく頑張った。先生も──、俺も嬉しいよ」
そして瞼にキスをした。
「先生…
明日も逢ってくれますか?」
少し照れながら言う土方の問いに坂田は
「勿論」
と答えてくれた。
その答えに嬉しくて土方は笑って答えいた──。

まだ寒い三月。
校庭に植えられている桜の木には一輪だけ花が咲いていた。

(完)





前回書いた『希望』の続編です。
以前にも感想で書きましたが、3Zのキャラクターを使うのはやっぱり楽しいです。
本当は教卓の上に座らせた後に土方が教卓の上に押し倒される話も考えたのですが、それでは『希望』の内容と違ってくるのでやめました。

なんとか3月の第一週にこれをUPしたかったので間に合って良かったです。


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: