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煩悩日記
邂逅の空(クラ×エア)※和パラレル
「よろしく、ね」
差し出された手にクラウドは一瞬躊躇した。
何気ない日常の光景。
だが、クラウドは挨拶で手を差し出される経験が殆ど無かった。その理由としてクラウドは周囲の人から距離を置かれていた。それはクラウドの容姿が一つの原因だろう。
この国の人は髪は黒で稀に茶色系の髪の場合もあるが限りなく黒色に近い。瞳も茶色か黒色だ。
それに比べてクラウドは金の色の髪に輝きを帯びた蒼い瞳。
誰が見ても外国の血が入っている。
長い鎖国の時代が終わりを告げ、開国を切っ掛けに外国の文化が入ってきて数十年。今では外国の生活がこの国でも定着しつつあった。外国風の服装をする人も増えてきている。街でも普通に外国の人間を見かける様になった。しかし、この国の人の気質なのだろう。まだ鎖国的な精神は若干残っていて外国の人間と接触する機会が少ない街の人達は接触を避けたがる風潮がある。
しかしクラウドは外国の血は入っていない。両親はこの国の人間だ。しかしクラウドの姿は違っていた。
新し物好きの両親は当時この国に浸透しつつあった外国の文化に非常に興味を持ったらしい。家庭を築いたばかりの両親は積極的に外国の文化に触れ取り入れていき、そんな時に産まれたのがクラウドだった。クラウドと言う名もその両親が名付けた。そんな中、当時この国で事業を興そうとした外国の会社が何か事故を起こしたらしい。クラウドの母は偶然その事故に遭いまだ母の胎内に生を受けたばかりのクラウドはその影響で容姿が外国の人間の様に変わったと聞かされた。
ただでさえ『クラウド』と外国の名前を名付けられ、からかわれやすい。そしてこの容姿だ。近所の歳の近い子供達に
『外国に帰れ』
『異国の人間だ』
『髪と目の色が違うから遊んであげない』
彼等にしてみれば面白可笑しく、他愛も無い冗談のつもりだったかもしれないが、クラウドにとっては心ない言葉を言われ続けた。
そして幼少期に聞いた大人の言葉。
『一緒にいると髪や目の色が移ってしまうぞ』
当然、ガセである。
そんな環境で育ったクラウドは言葉数が少なくなり、クラウド自身の雰囲気も人を寄せ付けなくなり更に距離を置かれるようになり悪循環になっていた。成長した今でも皆は言葉を口に出さないが表情や言動で同じ雰囲気を感じていた。
そんな中、出合ったのが彼女だった。
クラウドは『なんでも屋』を生業としている。なんでも屋の仕事は依頼された仕事が終われば客とのそれ以上の関わりを持たなくていい。その利点もあってなんでも屋に依頼してくる客も『訳あり』が多く連続の依頼がある事が珍しい。利用した客から連絡があるとすれば紹介位だ。
その日も仕事を終え帰宅途中に何者かに追い掛けられている女性と出会した。クラウドは人と関わる事を避けているがその時は関わってしまった、と言うより彼女に巻き込まれた。普段なら無視をする。だが、助けを求める彼女に圧倒された。いや圧倒とは違う。恐らく彼女の不思議な雰囲気がそうさせているのかも知れない。
追っ手の姿が無くなった事を確認すると彼女はクラウドの前に立ち言った。
「助けてくれてありがとう。えぇっと」
そこで彼女は手を後ろで組み、上半身を少し前に倒してクラウドの顔を覗き込んだ。
「名前、何ていうの?」
「……クラウド」
「クラウド、ね」
「外国かぶれの親がつけた外国の名前だ」
初対面の人に偏見の目で見られることに馴れていた。しかし、名前や容姿のことで色々質問されるのがお約束になっていたクラウドは自己紹介が嫌いだ。
「あら、あたしも外国の名前よ」
「え?」
意外な言葉にクラウドは少し驚いた。
「あたしエアリスよ。改めて助けてくれて有り難う。クラウド。よろしく、ね」
彼女は笑顔で手を差し出している。
クラウドはどうすれば良いかは当然知っている。エアリスの手に自分の手を差し出せば良い。ただそれだけのことだ。それだけのことなのに経験が少ない無いだけですぐには行動に移せなかった。そしてエアリスが女性であることも躊躇の原因だろう。
このまま彼女の手を差し出させたままでは気まずくなると思いクラウドはぎこちなくだが彼女と手を握った。
エアリスはクラウドが今までに出会ったことの無いタイプの人だ。
無邪気に喋り笑顔を振りまく。そして何よりクラウドに対して普通に接してきたことに驚いている。
ふっとエアリスがクラウドの顔を覗き込んだ。
それにつられてクラウドはこの時、初めてエアリスの瞳を直視した。クラウドは人と話す時殆ど視線を合わせない。合わせて話す必要性も無かったからだ。だが何故だかエアリスとは自然と合わせることができた。
「母が外国の生まれなの。あたしは半分その血が流れているから外国の名前なの。変わっている名前だと言われるときもあるけれど、とても気に入っているわ」
「……」
「母の人種、とても希少なの。少し特異体質な所があるから研究者が関心があるらしいわ。半分だけ血が流れているあたしも研究対象みたい。さっきの人達も研究者の命令であたしに研究の協力依頼を申し込んでくるの。何度も断っているのに」
「じゃぁ、さっきの奴らは…」
「うん。今回無理矢理に連れて行かれそうになったから逃げるのが大変だったわ。父は早くに亡くなって、母も今のあたしみたいに研究者から追い掛けられていたの。さっきみたいに無理矢理連れて行かれそうになった事も何度もあったことを覚えているわ。母はまだ幼かったあたしも研究対象になる事を嫌がっていたから。でも、身体の弱い人だったから心労が重なって死んじゃったの」
そこでエアリスは初めて僅かに顔を曇らせた。
「でもね、育ての母が追い掛けてくる人達からあたしを護ってくれるの。本当の娘のように」
エアリスは既に笑顔になっている。
「とても感謝しているわ」
「……良い人だな」
「クラウドの両親はどんな方?」
「俺の両親はこの国の人間だ。エアリスとは違う。期待に添えられなくて残念だったな」
エアリスはクラウドが自分と同じ境遇の外国の人間だと思って話しているのだろうか。それとも興味半分で話をしているのだろか。そう思うと初めて話せる相手だと思ってしまったことに後悔した。いや、この考えは屁理屈なのだろうかとも思う。
クラウドの言葉の真意をエアリスは察したらしい。
「ううん、違うわ。誤解、するような言い方をしてごめんなさい」
「違う?」
「クラウドにならこの事を話しても良いと思ったの。でもね、それはクラウドの境遇とあたしの境遇が同じかもしれないって思ったからじゃないわ。私はクラウドという人に私の事を知ってもらいたかったの」
「俺に?」
「うん」
「俺は……俺の瞳はこんな状態だぞ」
そういってしっかりとエアリスの瞳を見た。真っ直ぐなエアリスの視線が返ってくる。
「もしかしてあの事故の?」
「……そうだ」
クラウドはぶっきらぼうに言った。
「エアリスと違って俺はこんな形だから関わると色々と巻き込まれるぞ。俺と関わらない方が良い」
「どうして?クラウドはクラウド、でしょ。容姿なんて関係ないわ」
「言っただろ。この形は事故の影響だと」
「それがどうしたの?変な噂、あるの知ってるわ。でもそれは迷信」
「世間はそんなに甘くない。殆どの人間はこの目の輝きを見たら避けるようになる」
クラウドは右手で両目を翳した。
「どうして目を隠すの?あたしはクラウドの蒼い瞳、好きよ」
そう言って空を仰いだ。
「まるでこの空みたいに綺麗、ね」
そしてまたエアリスは上半身を少し前に倒してクラウドの顔を覗き込んだ。どうやらエアリスの癖のようだ。
「だから綺麗な瞳を隠さないで」
そんなことを言われたのは初めてだった。クラウドは戸惑った。そして少し嬉しかった。
「……エアリスって変わっているな」
「失礼ね」
そう言ってエアリスは怒った表情をしたが直ぐに二人はくすくすと笑い出した。本気で言っていないとわかっていたから。
クラウドはこんなに普通に笑えたのは何時だったか記憶に無い。この数年は本心から笑った覚えがない。
他人に干渉される事が嫌になていたクラウドだったがエアリスは違っていた。自然と隣に寄り添っているのに不快感すら感じない。
この心地よさは何だろう?
エアリスはクラウドの話に緑色の大きな瞳をくるくるさせて笑ったり驚いたり、時には説教までしている。
ほんの少しだけ年上の女性。
「また、会ってくれる?」
「あぁ構わない」
「約束、ね」
そう言ってエアリスはとても嬉しそうに笑った。
(完)
2009年7月に発行した小説です。
今回、和物の話を書きたくなってこの話ができました。でもクラウドの金髪と魔晄を浴びた瞳の輝きをどうしようか散々悩んだあげく『事故』に巻き込まれた事が原因という取って付けた様な理由を付けました。これで魔晄の問題は大丈夫!(そうか?)
本編でエアリスは星に還ってしまいますが、この話は和物パラレル。今後この二人は幸せになって欲しいなぁと思っています。最後まで読んで下さりありがとうございました。
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