煩悩日記

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そらへの階段 2(恋×藍)

「藍染隊長の事が好きです」
「え?」
 不意に言われた言葉に藍染は驚いた顔をした。
 何故、この言葉が出たのだろう。話すつもりは無かったのに何故か、自然と口から出た言葉だった。何かに焦っていた訳でない。恋次の気持ちはとても穏やかだった。
「初めて会った時から藍染隊長に憧れていました」
「部下からそう言ってもらえるのは隊長として嬉しいよ」
 微笑んだ藍染は上官と部下としての関係を言っているのだろう。恋次の表情が少し曇る。
「────違うんです」
 恋次の否定の言葉で場の空気が変わる。
「それはどういう意味……」
 藍染も雰囲気を察し表情が変わる。
「当然、尊敬しています。けれど、それだけじゃないんです」
 恋次は単刀直入に言う。
「俺は藍染隊長の事を愛しています」
 藍染の眼鏡から見える瞳が驚きで見開かれている。当然だろう。部下に、しかも同性に告白をされたのだから。
「……阿散井君……」
 今度は少し困った様な顔をした藍染を見て恋次は後悔した。藍染にそんな表情をさせたくなかった恋次は慌てて前言を撤回しようとして口を開く。
「あ、失礼しました!今の話は──」
「僕も……」
 恋次の言葉を遮るように優しい口調で藍染が言葉を発した。
「僕も阿散井くんと同じだよ」
「…───」
 その言葉の意味が一瞬理解出来ず、そして、予想外の言葉に恋次は声を発することができなくなる。時間が止まったかのように物音がせず、聞こえるのは藍染の声。
「僕も阿散井君のことが好きだった……」
「本当、ですか?」
「本当だよ」
「全く気がつきませんでした」
「そうかい?僕は阿散井君に気がつかれているかもしれない、と思っていたよ」
「いえ、分からなかったです。逆に俺が単純だから俺の感情は気がつかれていたんじゃ……」
「いや、気がつかなかったよ」
「何時からですか?」
「何時からかは分からないけれど、阿散井くんのことを意識していることに最近、気が付いたんだ。けれど、僕の立場から阿散井くんに想いを打ち明けたら重荷に……迷惑になると思ってずっと言えなかった。この想いが僕の一方通行であれば尚更、迷惑に──」
「そんなことありません!」
 迷惑になる、の言葉に藍染が話し終える前に恋次は藍染の両肩を掴んで慌てて否定した。
「迷惑じゃありません!そして一方通行でもありません!俺は藍染隊長の事が好きです。そして、藍染隊長が俺の事を想っていて下さった事を知れただけでとても嬉しいです」
「そう言ってくれるだけで僕は十分だよ」
 藍染は肩をつかまれた時、また驚いた顔をしたが、藍染は笑顔を浮かべた。想い人は隊長。上官である彼が一般隊士である恋次の事を気に留めているはずが無いと考えていた。だが、想いは同じだった。
「阿散井君」
「はい」
「少し、肩が痛い」
「す、すみません」
 力一杯に肩をつかんでいる事を思い出した恋次は、慌てて肩から手を放すとまるで万歳をしているような体勢になった。
「そんなに慌てなくても大丈夫だよ」
 焦る恋次を見てくすくす笑う。
「すみません」
 恋次は気持ちを落ち着かせる為に一呼吸すると藍染の眼を見て言った。
「藍染隊長。俺と付き合って下さい」
 穏やかな表情の藍染はゆっくりとした口調で返答する。
「うん。こちらこそ、宜しく」
 一見、藍染はとても落ち着いて見えた。だが、よく見ると頬が少しだけ紅くなっている。初めて出逢った時はとても遠い存在で、隊長格は化け物のような存在だと思っていた。しかし、頬を染める藍染の新鮮な反応に親しみを感じ、化け物ではなく同じ死神なのだと改めて思う。そして、恋次は紅くなっている藍染の頬に手を添えると、二人は自然と顔が近付き、口づけをした。


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