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ねぇね2人と双子っちのママのお部屋。
「無題」第48章~第49章
年が明け、姫は産み月に入った。もちろん年明けの忙しい頃にもかかわらず、中将は休みを取り、姫に付き添った。一緒に居る事が出来る期間はあと長くても三ケ月。十分思い出を作ろうと中将は帝に無理を言って休みを頂いた。(もちろん綾子姫のことは内緒だが・・・)
出産も近づいているようで、度々陣痛らしきものがある。姫自身は三度目の出産であるので、
姫の母宮の一部の女房が手伝いに来ただけで、最低限度の人でしか用意しなかった。中将は生まれて来る我が子の為に最大限の準備をした。乳母も厳選に厳選をして、生まれてくる子にふさわしい者を選んだ。準備が整ったとたん、陣痛が始まったようで、中将は祖母宮の元で吉報を待つことにした。やはり三度目だからか、朝陣痛が始まって、もう昼過ぎには無事生まれた。
「中将様!お生まれでございます。元気な姫様ですよ。お母様もお元気ですわ!」
そういうと高瀬が生まれたばかりの姫君を抱いてやってきた。中将は怖々姫君を受取ると、かわいらしい顔を眺めてしみじみと涙した。姫君は中将と姫によく似たかわいらしい顔をしていた。中将は姫君を祖母宮や姫の母宮に見せる。
「まあ!かわいらしい姫君ですこと・・・。ここの家系で久しぶりの姫・・・。かわいらしいわ。生きていて良かった・・・。ずっとこちらで育てなさいね。」
「本当に綾子と中将殿の良いところばかり・・・きっと末は良い公達と結婚して・・・。」
中将は乳母を呼び、小さな姫を預ける。
「高瀬、もうあちらに行ってもいいのかな・・・。」
「もうよろしいかと思いますが・・・。」
そういうと中将は姫の部屋に向かった。高瀬は中を伺って片付いている事を確認して姫のいる寝所に案内する。中将は姫の側に座ると、姫の手を取りいう。
「姫。ありがとう・・・。疲れたでしょう・・・。ゆっくり休んでください。小さな姫の名前は何にしますか?よろしければあなたの名も絵を一字頂きたいのですが・・・・。」
姫はうなずき中将に微笑む。中将は少し考えて姫に言う。
「綾乃はどうだろう・・・。」
「とてもかわいらしい名前ね。私があるべきところに戻ったら、綾乃のこと頼みますね。」
「わかっています。私の命に代えても綾乃を育てましょう。そしてあなたの前に出しても恥ずかしくないような姫に・・・。さあ、安心して眠ってください。」
すると中将は姫の額にキスをして部屋を出て行った。姫は眠りについた。中将は祖母宮の部屋に戻ると、これからの綾乃姫と姫について話し出す。名前のこと、これからは別邸で育てること、姫の母君のこれからのことなどを話し合った。
姫は回復が早く、半月経つともう普段どおりの生活が出来るようになった。姫もあと二か月で綾乃と別れるのでいつも一緒に過ごしている。すると中将が何かを持って内裏から帰って来た。そして姫と綾乃姫の前に置いた。
「これは帝から綾乃に賜ったのです。以前つい年明けに子供が生まれると言ってしまったのですが、それを覚えておられたらしく、生まれたかと聞かれたのです。そして姫を授かったと申し上げるとこれをその姫へと・・・。その場にいた公達たちにからかわれてしまった・・・。末は東宮妃などと・・・。もちろんそれは無理な話だけど・・・。高瀬、姫の代わりに礼状を代筆してくれないか・・・。姫の字ではいけないのでね。」
「はい畏まりました。」
そういうと高瀬は姫の代わりに礼状を書き、中将に見せる。
中将は帝に頂いた包みを開くとそこには綺麗な反物がたくさん入っていた。姫はこの反物を手に取り、言った。
「残りの日にちでこれを使って綾乃のお衣装を作りましょう。まだまだ先のことですが、もし女童として殿上しないといけない時などがあったときの事を考えて・・・。帝から賜った反物ですもの・・・。晴れのお衣装にしなければ・・・。」
「そうですね。きっと綾乃が着る頃、母が作ったといえば喜ぶかもしれません。あまり無理しないでください。」
「はい!」
そういうとどの反物で何を作ろうか高瀬たちと相談しだした。楽しそうな姫の顔を見て、中将はこれがずっと続けばいいと思いつつも、絶対ありえないこととして諦める。
別れの日まで後わずかとなった日、やっと綾乃姫のための衣装が仕上がった。ちょうど上巳(ひな祭り)なので、このお衣装と共に、人形や色々なものを並べ、中将の母君を招待して身内だけの姫のお披露目をした。中将の母君は綾乃姫の誕生により大変喜ばれて、二人の仲をお許しになっていた。そして綾乃姫のために作った晴れのお衣装を見て大変気に入られ、姫を大変お褒めになる。
「母君、これは帝から綾乃に賜った反物で姫が作ったのですよ。いつか綾乃が使うだろうと・・・。」
「まあ触ってもいいかしら。お上手なのね。せっかく帝から賜った反物ですもの、このようなものに仕上げなければ・・・。これを着て綾乃姫が御年五歳の東宮様に入内してくれたら申し分ないのでしょうけど・・・。将直、綾乃姫のためにもっと官位を上げなければいけませんよ。」
「はい・・・しかし私は綾乃を宮中には上げる気は・・・。」
「何を言われるの?女の幸せなのですよ・・・。」
(後宮に上がっても窮屈なだけなのだけどなあ・・・・。)
と姫は思った。綾乃姫は日に日に表情が出てくるようになり、中将や祖母宮、母君は大変可愛がる。それを見て姫は悲しそうな表情で見つめる。
(あんなに仲の悪いおばあ様とお母様が綾乃のおかげで仲良くされているのですね。これなら安心して綾乃をお預けできるわ・・・。きっと私がいなくなったらお母様は驚かれるのでしょうね。中将様はどのように説明されるのかしら?)
姫は庭にある桜を見つめてため息をつく。つぼみは膨んできている。桜が満開になる頃、後宮の桜の木での約束を守らなければならない。出来ることならこのままの時間が止まればいいと思った。
「月姫、母上がお帰りになられるよ。車宿りまでお送りしましょう。」
「はい・・・。」
「いいのよ、ここで。綾乃姫のもとにいて差し上げて。また本邸に綾乃姫を連れて遊びにいらしてね。将直は一緒に車宿りまで来なさいよ!」
中将は困った様子で姫に合図をして車宿りまで送っていった。すると祖母宮が近くに寄ってきて声をかける。
「綾姫、こちらにはいつまで?」
「十日の夜に隣の別邸に入ります。その後はまだ日程が決まっておりません。多分、中将様を通して知らされると思うのですが・・・。本当に長い間お世話になりました。おかげさまで楽しい日々を過ごすことができ大変感謝しております。この先も綾乃がお世話になります。」
「私も大変楽しい日々でしたわ。本当に娘ができたようで・・・・。綾乃姫のことは気になさらず、あるべきところにお戻りを・・・。きっと待ち人は帰られるのを心待ちにされていると思いますわ。待ち人があの方ではなければ、お引止めするのですが・・・。」
宮は寂しそうな顔をされる。姫は気を使って何も話せなくなった。
いよいよ、中将の別邸を去る日の夜がやってきた。中将はここを出る直前になって姫の手を引き、ここの邸で一番早く咲き、一部咲になっている桜の木の下に連れてくる。
「この桜は私のお気に入りなのです。ちょうどこの桜があなたと出会った桜によく似ていて、あなたを見つけたときは驚きました。もう出会って一年なのですね・・・。早いものです・・・いろいろあった一年でした。そして決して悔いのない一年でした。期間限定ではありましたが、あなたのような妻がおり、そして可愛い綾乃が生まれた。最後に一度だけ、この木の下であの時のように・・・。」
中将はそういうと姫を抱きしめてキスをした。そのあともなかなか姫を放さずに抱きしめたまま涙を流す。
「帝のものではなければこのまま駆け落ちしてでも一緒になるのですが、それもかなわず、戻られても以前のように会うことも出来ません。遠目であなたを見つめることしか・・・。もしかしたらもう一度あなたに会えるかもしれませんが、その時は帝の使者として会わなければなりません。良い想い出と可愛い綾乃をくださり、とても感謝しております。さあお戻りください。来世では必ず一緒になりましょう。」
そういうと姫を車宿りまで連れて行き、迎えに来ていた萩に姫を渡した。見送るのが辛いのか、中将は後ろを向き戻っていく。
「頭中将様!」
そういうと姫は萩を振り切って走り出し、中将に飛びついた。そして中将の頬にキスをすると萩のもとに戻っていった。
(幸せをありがとう、頭中将様・・・綾は、綾子は大変感謝しています。来世はきっと一緒になりましょう・・・。)
そう心の中で思いながら、姫は車に乗り込んだ。
「萩、ありがとね。あなたにも迷惑をかけてしまったわね・・・。」
萩は姫の予想外の言葉にはっとして言った。
「綾姫様は一段と大人になられましたね。萩はうれしいですわ。帝もきっとお喜びになりますわ。一段とお綺麗になられましたもの・・・。さあ明日、都より東宮様と姫宮様が面会にこられますわ。都から御使者が来られるまで、ゆっくりどうぞ・・・。」
姫は萩の心配りに大変感謝する。
「本当にありがとうね萩。雅孝や孝子に会えるのですもの・・・きっと二人は寂しかったでしょう。存分に遊んであげるわ。ありがとう・・・。」
萩は素直になった姫の言葉に感動をし、姫に部屋を案内した。
第49章 いざ後宮へ・・・・~桜の木下で~
後宮に戻る日程が決まり、命婦がやって来て皇后に帝からの書状を渡す。そこには正式な文面のため、堅苦しい内容が書かれていた。後宮までの道中のこと、警護の者のことなどがこと細かく書かれていた。警護責任者の名前には兄である左近中将、頭中将の名前が記されていた。皇后は命婦に礼を言う。
「命婦殿、遠路はるばるご苦労様でした。帝にはよろしくとお伝えください。」
命婦はほっとした様子で皇后に申し上げた。
「受取って頂け、大変安堵いたしました。帝には皇后様にこの書状を直接受け取られるまでは帰ってくるなと申されまして・・・。」
皇后は命婦の言葉に笑っているのを見て、命婦は安心して都に戻っていった。
後宮に戻る日、その日のうちに後宮に入るということで、朝早く出立する予定となっていた。皇后は母宮がこの日のために新調してくれた十二単を着て、髪も綺麗に洗髪し、何もかもが最高の状態で、出立の時間を待った。すると左近中将が現れ、皇后の御簾の前に座って出立の挨拶をする。
「もう準備は整われましたか。車や警護の者も皆整いました。」
「はい、いつでも・・・。お兄様、道中よろしくお願いします。」
そういうと、萩が御簾を上げ皇后が御簾の外に出て、皇后の母宮に挨拶をする。一年ぶりに妹である皇后を見た左近中将は、今まで以上に華麗になった皇后を見て顔を赤くしてしまう。
(これがあの妹姫であろうか・・・。静養に入られる前も当代一といわれるほど大変綺麗であったが、この一年で一段と品が出て綺麗に・・・。妹姫でなく未婚の姫であったならば、必ず私はいや都中の公達がこの姫に求婚するだろう・・・。)
と思った。
「お兄様。」
と、皇后が声をかけると左近中将ははっと気がついて立ち上がり皇后の手を取って車まで案内した。警護のものは皆深々と皇后が車に乗り込むまで頭を下げて待っているが、頭中将は軽く頭を下げただけで、何もかも最高の状態で着飾った皇后を見つめた。
(やはりあの方はこのような私にはつり合わない人なのだ・・・。)
そう自分に言い聞かせて、皇后との関係をきっぱり諦めようとした。
皇后が車に乗り込むと、左近中将と頭中将は馬に乗り出立の合図をする。道中唐車の御簾越しに見える頭中将を見て、皇后は今までの事を思い出す。そして時折、頭中将は皇后の体調を伺い現在地などの報告のため、声をかけてくる。
「皇后様、間もなく鳥羽を通過します。都までもうすぐです。ご気分はいかがでしょうか・・・。」
「お気遣いありがとうございます。別に悪くはございません。」
「そうですか。何かございましたら声をおかけください。このあと都に入り東三条邸に一時入ります。休憩後に輦車に乗り換えていただき、内裏へ入ります。よろしいでしょうか。」
「はい心得ております。この先のことよろしくお願いします。」
「はい。」
そういうと頭中将は頭を下げ、先導をしている左近中将のところへ走っていった。
東三条邸につくと、左大臣が車宿りでそわそわしながら待っていた。一旦皇后は車を降り左大臣と共に寝殿に向かう。寝殿に入ると、左大臣が皇后を上座に座らせて、うれしそうに話し出した。
「無事にご帰郷されて父はうれしい。長きに渡るご静養でこの先綾姫はどうなるかと思ったのですよ。帝もあなたのご帰郷をたいそう喜ばれて、このようにあなたのためにたくさんの護衛までお付けになられたのです。また長い間見ないうちに、さらに綺麗になられるとは!きっと帝も驚かれるであろう。」
皇后は手をついて深々と頭を下げる。
「お父様、この一年間私のわがままでたいそう心配し、心を痛められたことでしょう。なんとお詫びを申し上げたらいいのか・・・。」
左大臣は今まで聞いたことのない皇后の言葉に驚いた。
「綾姫はこの一年でたいそう成長されたようですね。私はこれであなたを安心して後宮にお返しすることが出来る。誤る必要はないのですよ。もう夕餉に時間になりますので、召し上がってからでもいいでしょう。護衛の者達にも何か出させるようにしましょう。」
そういうと左大臣は女房に夕餉の支度をさせ、護衛の者達にも夕餉を振舞った。寝殿では、御簾の中に皇后が入り、御簾の外には左大臣と左近中将、そして頭中将が座って一緒に夕餉を食べた。道中あった色々な事を左近中将が面白おかしく話したりして時間を過ごした。
「さあ、もうこんな時間だ・・・。」
そういうと頭中将は立ち上がり、皇后に向かって頭を下げると、車宿りの方に走っていった。左近中将は皇后に向かって言う。
「私はここまでなのですよ。ここから内裏までは彼が先導することになっています。そのまま宿直に入られるのでね・・・。本当に彼は真面目で仕事熱心な人でね。特に今年に入って姫が生まれてからさらに輪をかけて熱心に仕事をされるから、帝の覚えも良い。そしてとても周りに気配りをするから公達中にも評判は良い。これからの出世は間違いないでしょう。彼に見習わないといけませんね。この摂関家の流れをくむ家柄の私が・・・・。さあ、そろそろ参りましょうか・・・。」
そういうと、車宿りまで先導して、輦車に皇后を乗せる。頭中将先導のもと、皇后を乗せた輦車は内裏目指して動き出した。そして無事皇后は後宮に到着する。弘徽殿に入ると、懐かしい顔ぶれが皇后を迎えた。摂津を始め、たくさんの女房達が、元気になって帰ってきた皇后に涙し、喜んだ。
「摂津、長い間心配をかけましたね。そして皆さんも・・・。私はこうして皆さんに会えた事をうれしく思います。」
「まあ皇后様、摂津はずっと帝のお側であなたのお帰りを待っておりました。以前に増して麗しくなられて・・・。本当に静養されて正解でしたわ。今から帝にご報告してまいりますわ。」
「摂津。ちょっと時間をいただけないかしら・・・。ちょっと庭の桜を一人で見に行きたいの・・・。」
「まあお一人で!それは・・・。」
「大丈夫。ある御方と約束しているのよ。」
そういうと、皇后は十二単を脱ぎ小袿になると、庭に降りて満開の桜の木に向かった。
一方清涼殿では、頭中将が帝の御前に座り報告をする。
「ただいま無事、皇后様お戻りになられました。」
「ご苦労であった。あなたには色々感謝する。」
そういうと帝は立ち上がって御簾から出ると、すのこ縁から庭に飛び降りて走り出した。
「帝!どちらに!私も参ります!」
帝は頭中将のほうを振り返って言った。
「頭中将、ついてこなくていいよ。約束があるのだよ。弘徽殿近くの一番綺麗な満開の桜の下で。」
その約束相手が誰であることに頭中将は気づいた。そして帝が清涼殿を抜け出された事を見て見ない振りをした。
(きっとお相手はあの方だから・・・・。心配はないだろう・・・。)
と、頭中将は思いそのまま清涼殿を後にした。
帝が約束の満開の桜の木近くに着くと、もう皇后は帝が来るのを待っていた。皇后は満開の桜を見上げ、風が吹くたび散っていく花びらをうれしそうに眺めていた。その姿を見た帝は、一瞬見とれてしまった。そして次の瞬間帝は叫んだ。
「綾子!」
その声に皇后は振り返り微笑むと、帝は皇后の元に走っていき、皇后を抱きしめ嬉しさのあまり皇后にキスをした。そして帝は皇后の顔をじっと見つめると再び抱きしめた。
「綾子・・・約束通り戻ってきてくれたのですね。」
「はい。もうこれからこのようなことは致しません。常康様、許していただけますか?」
「許すも何も、帰ってきてくれただけで嬉しいよ・・・。綾子が側にいてくれたら何もいらない。」
「まあそれなら、雅孝も孝子も雅和様も和子様も要らないのですか?」
帝は少し苦笑して言った。
「やはり、そういうところ綾子だね・・・。いらないわけではないよ。」
「わかっていますわ。ちょっとからかってみたくなっただけです。」
「相変わらず綾子は意地悪だね。まあそういうところが好きなのだけど・・・。綾子、ずいぶん見ないうちにとても綺麗になったね・・・一瞬見間違えてしまったよ。そうだ、今年の夏は貴船に行こう。そして秋は嵯峨野、冬は・・・。まあいいとして二人でゆっくり過ごす時間を作ろう。」
皇后は微笑んで帝に言う。
「これからはずっと出来るだけ二人でいっしょに・・・・。」
「うん、そうだね。」
すると二人は内裏一綺麗な満開の桜の木の下で長い長い約束のキスを交わした。
50章
以降は文字数の制限により、移転いたしました^^;
こちらへ
お越しいただけますと、初めからの修正版と50章以降の内容が御覧頂けます。
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