2.セナトス


母さんにはあんなこと言ったけど、やっぱり緊張する・・
体全部が心臓になってしまったみたいだ。鼓動が速い。指先が冷たくて、脚が震えそうだ・・
王女様への挨拶も昨夜あんなに練習したのに、頭が真っ白だ

いかにも「門番」という感じの体格のいい兵士に向かって

「あ、あの・・今日からこちらで王女様の侍女として・・」
「推薦状を見せよ」

笑顔でも気持ちが悪いが、ムッとするほど無愛想だ

「神官様からの推薦状か。確かに。よし!通れ!」
「はい。ありがとうございます・・」

命令するなっ!何様なのよっ!なぁんて言えないけどね。


目の前に広がる光景に、ティティは思わず息を飲んだ

「・・ひ、広い・・こんなの・・見たこと・・ない・・」

「目が真ん丸」とはまさに今のティティの瞳のことである
広大な土地に、信じられないほどの豪華で壮大な宮殿
その中で働く人の多さ・・
自分が急に小さくなったような気がする・・
私はとんでもない場所へ来てしまったのではないか?
急に脚がガクガクと震え出して前へ進まない・・
帰りたい・・家に。やっぱり私には無理だよ!

「アンタ、何やってんの?邪魔だぞ?」
「・っ!!ご、ごめんなさ・・あ、申し訳ありませんっ!」

鼻が膝にぶつかりそうなくらいガバッと頭を下げる
顔が燃えるように熱いのに、冷たい汗が背中を流れる

「俺ってそんなに恐いか?怒鳴ってないよな?」

予想していなかった言葉が頭から降ってきてティティは恐る恐る顔を上げる・・
気まずそうに首の後をポリポリと掻いている美青年がいた
少年のようでどことなく色気すら感じる瞳に、ハラリと下りた前髪は瞳と同じ明るいブラウン。信じられないくらい顔が小さく、ガッチリとした肩に、長い長い脚・・濃紺の長いマントがこれほどまでに似合う人がいるだろうか
長い指が前髪をかきあげる・・その指にティティはうっとりとと見入ってしまった・・

「アンタさぁ・・大丈夫?顔真っ赤にしてジロジロ見るなよ。顔真っ赤にしたいのは俺の方だぜ?」
「あ!・・も、も、申し訳ご、ごごございません」

ティティは突然我に返ってオタオタと慌てふためいてしまった。恥ずかしい!どうしよう!

「プッ!どもり過ぎ。変なヤツ」

パッと華やかに花が開くようなとびっきりの笑顔だ。
少し日焼けした肌に白い歯がこぼれる
ティティはまともにその笑顔を「浴びて」倒れそうになった

「アンタ見かけない顔だな。新人?」
「は、はい!今日からネフェル王女様の侍女として・・」
「王女の?」
「はいっ!」
「ふぅ~ん・・」
「・・あの・・?」
「いや、別に。一人じゃ迷うだろうから俺について来いよ」
「ありがとうございます」

さっきまで家に帰りたくて前に進むことができなかったのにスムーズに歩き出すことができた

「アンタ名は?」
「ティティと申します」
「そうか。俺はセナトス。一応将軍かな」
「一応?」
「あぁ。将軍って言っても一人じゃないからな。俺は騎馬隊の将軍だ。そのうち全軍の将軍になるけどなっ!ハハハ!」

将軍の顔を見上げながら歩いていたティティだが、その歩幅とスピードについて行けず、小走り状態で話を聞く

「俺歩くの速いか?・・いや、アンタが遅いんだな・・」




門を入ってからいくつの宮殿や神殿を横切っただろう?体力には自信のあるティティも少し息が切れてきた
「さぁ、ついたぜ。ここが今日からアンタの働く場所だ」

神殿とはまた違った雰囲気の宮殿だ。どことなく、ラインが優美で華麗な感じがする。

「これが・・王女様の宮殿・・」

いよいよ来た。噂でしか聞いたことのない王女様が住む宮殿

「アンタ緊張すっとどもるみたいだから、リラックスしろよ王女って言っても同じ人間なんだから」
「ありがとうございます。セナトス将軍。」
「フフン。じゃぁ、また。会えたらなっ!がんばれよ!」

マントを華麗に翻して、来た道を戻って行った
しばらくその後姿を見送ってから、ティティは宮殿へ足を力強く踏み入れた。





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