ごった煮底辺生活記(凍結中

ごった煮底辺生活記(凍結中

宇宙船地球号



 突然だが「風水」というのはご存知だろうか?

 地に流れる「龍脈」と呼ばれる気の流れを「ラバン」という方位磁石の王様の
ような器具で読み、方角などの情報と組み合わせる学問のような物だ。
 我々は地の上に生活しているがゆえに、この「風水」は生活基盤の根本を成し
ている。それゆえに、「占う」事も可能なのだ。

 私はその「風水師」である。

 いや、「風水師」の振りをしたこの船のスタッフである。

 再び突然だが、空を見てほしい。
 新宿の街にそびえる摩天楼の先に、うすぼんやり光る円はないだろうか?

 あれは月である。

 いや、時刻システムと連動した夜間照明システム「月」だ。

 ここは地球全土の環境をとりこんだ、超ド級巨大移民船「地球号」の中なのだ。
 私の仕事を詳しく語ると、地をめぐる「龍脈」--いや、
「電磁エネルギー伝達パイプ」の流れをチェックし、住民の生活を「占い」という
形でチェックしているのだ。「占い」は市民の生活の不安を取り除く効果もある。
 今日はあそこの酒場で「占い」……いや、「生活チェック」してみよう。

「お嬢サン、私は「風水」を見るもの。占いなどいかがですか?」
 カウンターに座る女性をターゲットにきめた。
 幸い、ノリよく答えてくれた。一回あたりの料金も納得してくれたようだ。
「占う前にひとつ……あなたのお父様は怪我をしていませんね?」

 女性は首肯した。チェック1終了。

 ラバンに模したコンピュータで彼女の情報をあらう。

「あなたの職場は新宿ではありませんか?」
 彼女はまたも首肯した。チェック2終了。
 女性は興味をもってのめりこみはじめている。まあ、データの確認なのだから、
あたっていて当然のチェックなのだが。
「あなたは……んーできれば結婚したいと思っていますね?」

 ん、女性が妙だ。

「あの、わたしの薬指見ましたね? 指輪、今、サイズをあわせていてはずしてるん
 です。わたしは結婚してますよ」
 しまった。データを読み違えたか。この失敗はイタイ。
「もう、結構です」
 彼女は私を疑ったようだ。もうチェックを続けられないか。

 この酒場中の注目をあげてしまったようだ。
「すいません、出ていってもらえませんか?」
 酒場の店員の反応。無礼な、私達の苦労によって、日々の生活を滞りなく暮らせ
ているというのに!!

 しかたない。今夜はこれで終わりにしよう。
 夜空から偽りの月光が私を照らしている。
 腹の虫が龍の咆哮のごとく鳴いた。


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