猫まっし!なクロノス記

猫まっし!なクロノス記

ぼやき -5-

ぼやき -5-

椅子を持ち帰ってからの俺はちょっと反省して、薪割りに専念することにする。
当分、暇だろうしおとなしく家の雑用でもしてる事にしよう。
桧には単純だと笑われたが、さすがにあの話を聞いて、ごねるわけにはいかないだろう?

あらかた薪割りも終わって片づけをしていたら、姉貴のただいまという声がした。
何事だ?
普段だったら、帰ってくるのはもっと遅いはずなのに。
ついさっきまでの俺なら、狩りにいかせてくれとせがむ事間違い無しだが。
さっきの今で、忘れるほどには鈍くない。
おとなしく薪割りの片づけを続行することにした。

ふと、人の気配を感じて顔をあげると。
姉貴だった。
しかも、無表情、怒ってるオーラ全開。
いつも笑いを絶やさない姉貴だけに、無表情は何より怖い。
よくわからないけど、とりあえず場をなごませとこう。

「あ、っと。姉貴、今日は随分と早・・・。」

言い終わらないうちに、姉貴は入口に立て掛けてあった、俺の相棒のスタウトをいきなり投げつけてよこした。
なんだ?
俺、余計な事言ってないし、言おうともしてないぞ・・・・・・。
第一今だって、反省してこうやっておとなしく薪割りしてたってのに・・・・・・。
そおぉっと顔色を伺う。


そんな俺の態度がおかしかったんだろう。
姉貴から無表情という仮面が剥がれ落ち、とたんに周囲に立ちこめていた緊迫感が霧散する。
・・・・・・どうやら、質の悪い芝居だったようだ。

「ターラであんたのお師匠さん、見かけたよ。」

「え!師匠!?」

姉貴の突然の発言に、疑問を感じつつも思わず反応してしまう。

「行きたっ・・・。あ、えと・・・。なんでもない・・・。」

俺ってば、さっき反省したばかりだろうが。
どうしてこう、すぐぶっとんじまうかなぁ・・・。

とうとう姉貴がくすくすと笑い出した。
はいはい、どうせ俺は単純ですよ。
そんな思いが顔に出たらしい。
姉貴の笑い声が一段と大きくなる。

「なんだよ、姉貴・・・。」

あまりの笑われように、抗議する。
きっとむすっとした顔してたんだろうなぁ。
姉貴は、相変わらず表情はほころんでいるものの、さすがに笑いをおさめた。

「で、行きたいの?行きたくないの?」

そりゃ、もちろん!

「行きたい!・・・です。」

慌てて下手に出てみる。遅いか?

「ま、ハンマー買ったのはこっちだしね。」

姉貴が苦笑する。


「師匠さんにあんたをよこすって言っちゃったんだから。ほら、待たせない!!」

姉貴ってこういうとこ、素直じゃないよなぁ。
そう思ってたら、後ろからくすっと笑い声が聞こえた。

「姉さん、素直に行っておいで、って言ってあげればいいのに。」

どうやら他にも同じことを思ってた人物が居るらしい。
思わず、一緒になって笑ったら、

「行かないなら、師匠さんに断ってくるけど?」

「行くっ!行きますって!!」

おいおい、切り出したのは棒(ぼう)だぞ?
なんで俺がとばっちりをくらわなきゃいけないんだ。
久々に師匠に会えるってのに、足止めくらってなるものか!
よし。

「じゃぁ、行ってくるよ。」

「いっといで。」

「いってらっしゃい。」

「お土産よろしく~♪」

3人の声が重なる。


「あ、ちょっと待った。」

姉貴だ。

「はいはい、わかってますって。金遣いには気をつけるよ。」

これでも反省してんだから。

「いや、どうせ使うなら、無駄死にしないように気をつけなね。」

「へ・・・・・・?」

思ってもみなかった言葉に、我ながらまぬけな反応を返す。

「あんたに狩り場を下げろって言ったところで、聞かないでしょ?」

呆れたような笑顔。


「・・・姉貴、ありがとう。」

怒ると怖いけど、なんだかんだ言って姉貴は優しいのだ。

「ほら、師匠さん待ってるって。」

そして、やっぱり素直じゃない。

今日だけはせめて、赤字が出ないように狩ることにしよう。
久々の高揚感に身を震わせ、俺は街を飛び出した。




- 了 -


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: