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エレファントピア
上意討ち(小林正樹)
1967年東宝映画
監督:小林正樹 脚本:橋本忍
撮影:山田一夫 音楽:武満徹
出演:三船敏郎、司葉子、加藤剛、仲代達也
判定:☆☆☆.5/4星中
あらすじ:
滝口康彦の小説を元に描いた時代劇。
江戸時代の会津藩。剣の達人である伊三郎(三船)の長男与五郎(加藤)の元に、藩主の寵愛を失った側室いちが拝領される。やがてふたりは愛し合うようになり、娘をもうけるが、藩側に世継ぎの問題が発生。藩主は、いちを大奥に返せと要求してきた。
以下、感想。
これは小説なのですね。読んでみたくなりました。
まず、渦中の人である女性、いちの描かれ方がとても好きです。
これほど女性を、(男性の)対象としてでなく、人として描いている映画も、珍しいのではないかと感じました。
映画は淡々と話が進み、ワンシーンごとのカットも、ちょっと気になるくらい短く切られています。余計な情感をはさむ余地がないというか、非常に淡々と確実に、理不尽さに対する怒りや悲しみが堆積されていきます。
そして最後。
小説では違う終わり方らしいですが、私はこのラストがとても好きです。
主人公である伊三郎は、どんどん、それまでもっていたものを失っていきます。
まず、職をなくす。(これは辞職、隠居)
藩主という仕えるべきあるじをなくす。(自分で切って捨てる)
家族をなくす。(去っていく)
彼が憧憬を抱き、守りたいと思っていた息子と義娘をなくす。
彼を、もしかしたら彼自身以上に理解していた、親友をなくす。
そして、最後に彼のなくしたものは、剣。
剣を持たせたら鬼神のように、向かうところ敵なしだった彼も、何発もの銃弾にさらされて最後には剣を持つこともできなくなる。
このシーンを見たとき、この主人公が20年も理不尽なお役目に甘んじ、婿養子として家でも妻の尻にしかれていても耐えてこられたのは、もしかしたらこの剣という自負があったからなのかなあ。と思いました。
自分をかたちづくっていたものを全てなくす。
そうして最後の最後、すべてなくした男が地べたをはいずりながら孫娘に願ったことは、復讐ではない。幸せ、というたったそれだけの当たり前のこと。
この映画のテーマは封建制のもとで押さえつけられてきた人間性とその救いのなさなのかもしれないけれど、死の間際に限りなくゼロに近くなった人間というものの描かれ方が、悲しいというよりも、つよくて、うつくしい。と、そちらに心を打たれました。
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