ねねみにみず

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『アフターダーク』 村上春樹


アフターダーク村上春樹(著)
 日記にもちらっとかきましたが、『アフターダーク』三回目読了です。一度よんだだけでは、謎が謎のまま放置されすぎ!のため、長年のファンを自負している私もかなりとまどってしまいましたが、今回はほとんどきになりませんでした。村上春樹は長編の後に(あるいは前に)息継ぎのように中篇を出すことが多いですが、この『アフターダーク』は、それにとどまらない、次の村上世界への扉を示す、橋渡しをする役割を担った中篇ではないかと感じました。

 真夜中の物語。マリという少女が様々な人々と出会う一夜の物語です。「静かで、透明で、中立的」な視点そのものの一人称で語られています。 キーワードはいろいろあります。「暴力」「眠り」「姉妹」「逃走」「街」などなど。いろいろな切り口で様々な評論がでているようですね。色々な読み方が可能だというのはすぐれた小説の条件のひとつのような気がします。
 私を捉えて離さないこの小説の魅力とは何か。「答えは自分の中にあった」ということに、若い主人公が気づくことができたことではないかと思うのです。
 眠り続ける姉の存在のなにが自分を追い詰めているのか。最初のころのマリは追い詰められていること自体に気がついていないように見えます。タカハシ少年と会い、自分の知らない姉の話を聞いたり、自分とは違う女性たちの生き方に触れるうちに、自分の求めているものに気づいていく。この気付きのなかに、本当の「癒し」(いささか手垢のついた言葉ではありますが)があるとおもわれます。夜明けがやさしくそれを包みます。
 しかしこれからの村上作品にとって肝心なのは、無垢の象徴であるマリだけではなく、暴力の象徴である白川の上にも夜明けの光が降り注いでいることかもしれません。大風呂敷を広げるだけ広げて、作者が大事と思うものだけカバンにしまったようなこの本。是非おためしあれ。


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