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・2章
吹き付けられた雪は、窓を穢れ無き白に染める。
男は短剣を振り上げ・・・そして部屋は赤く燃えた。
二酸化炭素の放出により温暖化が懸念され、その過程でいくつもの島が沈んだものの、なんとか食い止められたのは人間の底力であろうか。
ただその副作用により、世界はとてもじゃないが暖かいと言える気候ではなくなった。
お陰で入学式から2週間ほど経った、古代の暦で言えば残暑である九月の初めでも、平気で雪は降る。
ただ、暖房装置の発達により、効率的に建造物の内部を暖めることが出来るようになったため、寒冷な気候でもさほど寒さを気にすることは無くなっている。無くなっているのだが・・・
「いい歳してなにやってるんだか・・・」
「ガキね・・・まったく、寒いときに雪で遊んで濡れるなんて、馬鹿みたい。」
雪合戦をしている俺たちを見ていたアランとウェンリィの溜息が、一つに重なった。
「う~・・・でも遊びたいものは遊びた・・・ヘクシッ」
「被害者その一、ってところか。」
「むしろ自業自得だとは思うけど・・・」
ちなみにクレアは、第一回戦で集中砲火にあい、見事に風邪というペナルティとともに白銀のマットに沈んでいた。
そんな彼らをよそに、俺とダンは雪合戦に興じている。
ルールは、自分に6回当たったら負けという至極単純なものだ。何故6かといえば、主催者のダンの誕生日が6月6日だったためである。もちろん、防御をすることは可能だ。まぁ避けたほうが早いのだが・・・
「くらえっ、雪玉3連射~!」
「よ・・・避けきれない・・・むぅ、Fuego!」
俺の放った、精魂込めて硬くした3発の虎の子は、ダンの炎の前にあっけなく溶けさった。
「だいたい炎ってのがずるいっ!溶けちまうじゃねぇか!」
「漢ならグチグチいうんじゃねぇ!ぼーっとしてるならこっちからいくぜ~!」
「のわわっ、あぶね・・・グッハァ!?」
「ふふ、かかったり!これぞ必殺落とし穴!」
ダンの雪玉を避けた俺は、一瞬にして深い雪にはまっていた。
「お前、序盤投げてこなかったのはコレ作ってたからか!卑怯者!ってか助けろ!」
「はっはっは、勝負に卑怯もクソもあるか!まあとりあえず、ルール違反ではないだろう?」
といいつつ、6つの雪玉を俺に落とすダン。
「ちくしょ、9ラウンド連続負けか・・・」
「これが実力の差というものだよ、ふはははは!」
「あいつら、よく飽きないよな・・・」
「ガキだからね・・・」
再び、アランとウェンリィの溜息が重なった。
「「ふ、ふ、ふ、ぶぇくしっ!」」
翌日の一時限目の教室、結局日が暮れるまで雪合戦をしていた俺とダンのくしゃみが見事に一致した。
・・・どこかで溜息が二つ、三つほど聞こえたのは気のせいだろう。
「ハァ・・・これで五度目ですよ、大丈夫ですか?」
教官のベル=マグワイア先生が、数字だけを変えた同じ台詞の四つ目を繰り返した。
「大丈夫です、先生・・・グズ」
「ズズ・・・はい、大丈夫なはずです、多分・・・」
それに力なく答える声は揃って風邪声。
「・・・医務室にいっても構いませんよ?」
「タフさだけが売りですから・・・」
「同じく・・・」
「・・・ふぅ。では授業を再開します。昨年度のおさらいの続きですが・・・」
クラスの雰囲気がまた授業に戻ると、俺とダンは顔を寄せて小声で話し出した。
「ノートはアランかウェンリィのを見れば大丈夫だろう、それより・・・」
「俺は大丈夫じゃないが・・・なんだ?」
「今度の休日に俺、じいちゃんの家の蔵で親父の遺品探しをするんだが・・・ついてくるか?」
「・・・う~む、蔵ってあれだろ、去年みんなでいったやつだろ?」
「ああ、その通りだ。」
ちなみに俺は去年、いつもの面子を引き連れ、祖父の家の蔵をあさりに行ったことがある。
そのときは時間の関係で、あまり長く見られなかったのだ。
「少々魅力的な提案なのだがやめておこう。あそこには何かがいる気がする。君子危うきに近寄らず・・・ってな。」
「・・・怖いだけだろ。まぁいいか・・・」
と、少し落胆した俺に、
「はい、じゃあアームシュライト君?」
先生の愛の鞭が飛んできた。
「ふぇ?何でしょう、先生?」
「ふぅ・・・友達も大切ですが、授業にも集中してくださいね?でないと点数をあげませんよ?」
「ふぇ~い、気をつけます・・・」
「で、君を指名したのは他でもない、質問に答えてもらうためなんだよ。だから座らないように。」
気づけば俺は、反射的に立ち上がっていた。
「では、魔術の発動の仕方には2通りある。それは何と何かな?」
「え?あ、う~・・・」
(わ、わからない・・・カンペ頼む、アラン・・・!)
必死の思いでアランを見ると、彼は呆れたように(というか呆れているだろう)溜息をつき、ノートに大きく二つの単語を書いて俺の方に向けてくれた。しかも先生に見えないように。
(あとでなにかおごらないといけないな、こりゃ・・・)
そんなことを思いつつ、忘れないうちに・・・と先生のほうを向き直る。
「どうしました、アームシュライト君?」
「あ、はい、ワンカウントと詠唱です。」
「・・・うむ、よろしい。」
少し残念そうな表情をのぞかせながら、先生は授業を再開する。
「ワンカウントとは、一単語で発動できる方法のことで、主に基本的な魔術に使用されます。例えば・・・Antigravità」
先生が言葉を発した瞬間、先生と周囲のものが1m程浮き上がった。
当然、ギャラリーからは歓声や驚きの声が上がる。
通常ならば、頑張っても50cm程度しか浮き上がらないからだ。
「さて、詠唱魔術は・・・ここでやると危険なのでやりませんが、主に召還や大きな威力、力の魔術に使います。私が軽く本気をだせば、この教室を丸ごと吹っ飛ばすぐらいはできるでしょう。」
・・・あながちウソだと言い切れないのも恐ろしい。古人には、巨大な氷山を丸ごと吹っ飛ばした人もいるという。雑学であるが、長い年月をかけて圧縮された氷山の重さというものは恐ろしいものがあり、人間3人分ぐらいの大きさがあれば、ぶつかった衝撃は17000トンほどにもなるらしい。
その日、生徒には暗黙の了解ができた。
(この人は怒らせてはいけない・・・!)
やがて授業終了の鐘がなり、先生も終わりを告げた。
その後の、出口へと向かう雑踏に混じっていた俺は、先生が手招きしているのに気がついた。
「なんすか、先生?」
「ん?いや、風邪は大丈夫だろうか?と思ったのでね。」
「いや、大丈夫ですよ。・・・他には?」
「それだけだが・・・そうそう。」
そういうと先生はいたずらっ子のような目でウインクして、
「アラン君にはちゃんとお礼をいっておくんだよ?」
と、いかにも愉快そうに言った。
「あ、バレてたんですか・・・」
「当たり前だよ、目の良さには自信があるからね。」
次からはちゃんと聞くようにね、アッハッハ・・・と笑いながら、先生は去り際に振り向いて、
「ついでにいっておくけど、私の役職は先生ではなく教官だよ?」
そういって、教室から出て行った。
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