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August 7, 2010
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カテゴリ: 貝の鳩



「そこにいるミシェルという人物は、どうしてここにいるのですか?」

 抑揚のない冷たい声がミシェルを突き刺した。チャーリーだ。

「こいつか?こいつは以前俺のいた部隊の掃除係だ。見た目は役に立たなさそうだがいろいろと使い勝手がいい。少なくとも、実戦では対等だと思うが。」
「まさか…」

 呟きと同時にチャーリーは小さな胸倉をつかむ。ミシェルはくるりと体勢を変えて投げ飛ばす。すぐさま立ち位置を変えて平手が飛んでくる。ギリギリのところを払い落とし、後ろから飛んでくる回し蹴りを交わしながら軸足を蹴り倒した。

「うっ…」
「あ、すみません。大丈夫ですか?つい、勢いで…。」

 むっとするリチャードの肩をぽんと叩いて、ジョージが笑った。


「はい、よろしくお願いします」

 ジョージはすばらしいムードメーカーだ。一気に場の雰囲気が和らいだ。

「いい動きだったぜ、ミシェル。どこで覚えた?」
「父に教えてもらいました。」
「いいお父さんだな。俺が後で指導してやるよ。少し筋肉が足りないんじゃないか?」

 ディックが細い腕を振りながら言う。

「いや、こいつにはこのままの体形の方がいいんじゃないか?俺とおんなじだ。筋肉質にならずに俊敏に動く。力仕事はディック、君に任せるさ。そうだろ?」

 スキャットマンはさらりと笑って見せた。任しときなと力瘤を見せるディックに一同がわっと笑った。

「では、今日の会議はここまでだ。昨年の西部の暴動の後始末がすっきりしていない。あの時は第3部隊で鎮圧したが、首謀者は逃亡したままだ。近いうちに出動要請があるかもしれん。休みの間に家族とのんびりしておいてくれ。もちろん、トレーニングは欠かすなよ」

 ジークが言うと、一同は席を立った。会議室は最上階、そこから中央の階段を使って下りる。一フロアに二軒が暮らしている。ベランダを広く取ってあるので、家族が多いほど部屋数の多い下の階に下りる事になる。ジークは踊り場を出て部屋に向かいながら、珍しくミシェルに声をかけた。

「どうだ、これから一つチェスでもやってみるか?」


 答えながら、前から気になっていたことを聞き出してやろうと考える。ジークに続いて部屋に入ると雑念と荷物がならんであった。

「どうだ、あまりに汚くて掃除したくなっただろう。」
「隊長。それが目的ですか?」

 むっとするミシェルににやりと返すジークだったが、さすがにミシェルも黙っていなかった。

「わかりました。私が負けたら掃除しましょう。でも、もしも勝ったらその貝の鳩のペンダントをつけている理由を聞かせてください」


 ジークはそっと柔らかな光を放つ鳩を指でなでた。


「いやぁ、助かったよ。また部屋が汚れたら一戦交えよう。ご苦労」

 楽しげなジークに見送られて、ふくれ面のミシェルは部屋を出た。掃除どころか洗濯までさせられたのだ。自分の部屋の片付けもまだだというのに。

 それでも、今までのようにみんなが寝静まってからのシャワーからも介抱されるのだ。気持ちは弾んでいる。さっぱりと荷物を片付け、シャワーを済ませてはたと気が付いた。食事の用意が何もない。前の宿舎と違って食堂がないのだ。

 仕方なく服に着替えて部屋を出ると、ちょうどジークも部屋を出てきたところだった。

「なんだ、今頃。」
「ちょっと散歩です」
「偶然だな。俺もそうだ」

 ぎこちない空気が流れる中、二人は階段を下りる。フロアごとにおいしそうな匂いが漂い、恨めしくさえ思える。建物の外に出ると、街は夕焼けに染まっていた。

 少し歩いたところにスーパーがある。閉店ギリギリに滑り込んである程度の食材を買い込むと元来た道を戻った。気が付けばジークも何かを手に提げてのんびりと歩いている。

「隊長!今日の分しか買ってないのですか?」
「おお、お前か。なんだ、俺の分まで準備しているとはたいした奴だな」
「いえ、余計なものは買っていません!」

 足を早めてさっさと通り過ぎようとするが、あっという間に袋を奪われた。

「ほう、バケットがあるじゃないか。それにコーヒーもある。朝はそんなに食べないからコーヒーとトーストだけでもがまんしよう」
「いい加減にしてください!」

 いきり立つミシェルの肩にジークはそっとその手を乗せて静かに言った。

「ミシェル、お前はちっとも自分のことがわかってないなぁ。俺がどうしてお前を特殊部隊に連れてきたのかまだわからないのか?」

 その真剣な眼差しに、ミシェルは動揺した。いつも勝手ばかり言う上司が、こんな風に真摯な態度をみせるなんて。胸の辺りがぎゅっと締め付けられる。もしかして、この人は自分を女だと見抜いているのだろうか。どぎまぎしながらジークの言葉を待った。

「掃除洗濯とくれば残るは一つだ。」
「炊事? ですか」
「大当たり。他の連中はみんな家族がいるんだよ。独り者は俺たちだけだ。まあ仲良くやろうぜ。」

 何が仲良くだ。ほんの一瞬でも何かを期待した自分が悔しかった。さっさとその場を離れ、宿舎まで帰ってくると、かわいい子どもの笑い声が聞こえる。ディックの家は小さい子どもがいるのか。中央の階段を上がって行く。 ビーフシチューの香りが漂ってきた。これは相当おいしそうだ。フィルの奥さんは料理上手らしい。
 自分の部屋にたどり着くと、調味料をセッティングし、急いで料理に取り掛かる。やっと食卓についたところで、ベルが鳴る。

「ミシェル、皿は2枚あるか?」
「隊長!お皿はそれぞれの部屋の食器棚にあると思いますが。」

 ジークは満足げに頷くと、さっさと部屋に入ってきた。

「なんだ、肉とサラダだけでは寂しいだろう。これを持ってきてやったぞ」

 差し出したのはケースに入ったパンプキンスープだった。さっさとスープ皿を2枚取り出すと、まだ充分にあたたかいスープを皿に移した。

「なにをぼんやりしてる!早くもう一皿準備しろよ!うまいスープが冷めちまう!」

 言うが早いか、ミシェルが準備していた料理を頬張った。

「そんなぁ…」

 膨れていても仕方がない。再びフライパンに肉を乗せると手早く自分の分を作り直した。

「悪くないが、もう少し胡椒が効いている方がいいな。」
「御代、頂きますよ」

 ふてくされて言うミシェルにジークはなるほどと納得した。

「いやぁ、悪かったな。そうだなぁ。俺の分の材料費は払ってやらねばな。よし、とりあえず今日の分を払っておこう。次回からはそのやり方でいこう」
「え?」

 あっという間に食事を平らげると、じゃあなと言って隊長は帰って行った。皿を洗いながら思う、今夜のことは全て計画されていたのだと。考えてみれば、この特殊部隊の宿舎での生活については何も教えられていない。他のメンバーの様子からはとまどったところを見かけないからジークが伝えておくとでも言ったのだろう。
 洗い物を終えると、どさっとベッドに横になる。疲れと緊張で、あっという間に眠りに落ちた。





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最終更新日  August 7, 2010 08:20:32 PM
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