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August 15, 2010
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カテゴリ: 貝の鳩



「お疲れ様。あ、そのティアラはそっと扱ってくださいな。まったく。これだから殿方は困るのです。女性ならもっと丁寧に扱ってくれるんでしょうのに。」
「すみません」

 ミシェルは心の中でだけ口を尖らせた。この状況はなかなか難しいのだ。

ドレスと宝石の類を片付けると、メイドたちはさっさと引き上げ、ミシェルにもほっとする時間がやってくる。レイチェル王女の奥の間に戻ると、鳩が小窓の縁で鳴いていた。

「ありがとう。」

 ミシェルは鳩を抱き寄せて頭を擦ると、そっと足に付いた手紙を解いた。

「調査結果だ。王妃はもともと健康体であったのに、どうやら鉄過剰症に陥れられていた様だ。スキャットマンに会っただろう?弱ったところを見計らって王女の失踪、そして犯行声明と王女の死を思わせるティアラ返還だ。巧妙なやり方だが犯人ははっきりした。ミシェル、気をつけろよ。詳細はツボの中だ。
 それと、隊長のチェロはどうだった?すばらしいだろう? しかし惚れるなよ。お前の女装に隊長はすっかり調子を崩している。隠そうとしているのが痛々しいぜ。早く元の姿に戻ってもらわないと、こっちもえらいことになりそうだぜ。F」


 それでも心臓がドキドキしているのをとめることは出来なかった。

 急いで自分の頬を手のひらで叩き気合を入れなおすと、つぼの中にある資料を取り出した。その厚みはツボを移動する時に気付いてはいたが、短期間に多くを探り当てる仲間のすごさに改めて尊敬の念を覚えた。

 夕食を終えて自室に戻ってくると、ミシェルは本格的に資料に読みふけった。ジークに出された指令は、国交のないリュードという国のテロ集団、ジャンキーに潜入してレイチェル王女誘拐の犯人を捕まえる事。そしてレイチェル王女を救い出すことだという。
 確かにレイチェル王女の失踪は国民には内密なので、長い髪やティアラが送りつけられた事も公表はされていない。しかしそれが送りつけられた時点で、王女の生存は絶望的と言えるのではないのか。それとも、その亡骸を連れ戻せと言うのか。
 ミシェルはラングレイの影の人格に恐れおののいた。

 しかし、レイチェルも王妃も亡くなった今、次に狙われるのは誰なのか。冷静に考えてウイリアム王に間違いないだろう。ミシェルは自分の打った手でどこまで防げるのか、心もとない気分だった。

 気を揉んでいるうちに三日はあっという間にすぎた。ジークはラングレイの元に呼び出され、正式な命を受けた。ミシェルはジークに会うチャンスを与えられず、小窓に寄りかかって外の様子を眺めていた。
 ふいに鳩が飛び込んできた。足の手紙を解いてやると、鳩はすぐさま大空に飛び立つ。手元の手紙には「開けるな」と書かれてあり、もしも帰って来なかったなら、これを読むようにと記されてあった。窓に飛びついたミシェルは先ほどの鳩がジークの乗った車の上を飛んでいるのが見えた。

「私にも、翼があればいいのに!」

 ミシェルはその車が見えなくなるまでいつまでも見送っていた。


 それからしばらくはただ黙々と王女の振りをして外交をこなす日々が続いていた。それが落ち着いたある日、ミシェルに軍から連絡が届いた。訃報だった。

 ミシェルはラングレイに休暇を申し入れ、1日だけの休みを手に入れた。すぐさまアーミースタイルに着替えると、調理室へと急ぐ。

「ゴードンさん、お願いがあるの! 父が、今朝亡くなったって、連絡が来て」
「なんだって!そうか、スチュアートの奴…」
「それで、どうしても今日一日で実家に行って戻ってこなくちゃならないの。」
「今日一日でか?!厳しいなぁ。ここは警備の関係もあるから公共の乗り物には簡単にありつけないよ。そうだ!お前さん、乗馬は得意だったな。野菜を運んでくるオヤジに頼んでやるよ。もうすぐ来るころだ。」



「俺になんかようか?」

 ゴードンはすぐさま事の次第を伝え、馬を一頭借りる事に成功した。

「ゴードンさん、ありがとう。」
「奥さんにヨロシク言っておくれ。俺も行きたいが仕事だからな。」

 寂しげな顔はゴードンには似合わなかった。そんなゴードンの肩をごんと荒っぽく叩いて押しのけ、ゴードンの女房が包みを差し出した。

「ミシェルちゃん、コレをもって行きな! どうせ昼には着かないだろう。途中で食べるんだよ。それから、あんたのお母さんに伝言しておくれ。困った事があったら、いつでも言ってきてってね」

 ミシェルはゴードンの女房のふくよかな胸に顔をうずめた。

「ありがとう。じゃあ、時間がないのですぐでかけるわ」
「裏門は夕方の仕入れの時間には開いているよ。それに間に合わなかったら夜まで待っておくれ。そうすれば朝食の材料を届けに業者が来る。それに紛れて入ればいい」

 こういう時は女の方が肝が据わっているらしい。帰りの段取りもしっかりとつけて、ゴードンの女房は勝手口の扉を開けた。

「さあ、早くお行き!」
「ありがとう、おばさま!では、行ってきます」

 軽やかなひづめの音を立て、ミシェルはふるさとを目指した。





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最終更新日  August 15, 2010 08:21:27 PM
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