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September 3, 2010
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カテゴリ: 貝の鳩



「ふふふ。お戯れを。前にも申し上げましたが、私はマルコス王子さまと結婚するつもりはございません。」
「困ったお姫様だね。僕がこんなに愛しているっていうのが、分からないの?」

 ミシェルはするりとその腕から抜け出して微笑んだ。

「私の理想の殿方は強いお方です。自分の夫が女性を口説いてばかりで一人も幸せにできないような方では困るのです。」

 言いながら、ゆっくりと歩き出した。

「強い男? 僕はこう見えても腕には自信があるよ」
「まあ、ホントに? じゃあ、私を捕まえられるかしら?」

 ほほほと笑いながら、ミシェルはするすると歩幅を広げ、薔薇園へと向かった。宮殿の中の石畳より地面の方が倒されたときの衝撃は少ないだろうと考えたのだ。

 女などすぐに捕まえられると踏んでいたマルコスは焦っていた。ミシェルは微笑んでいるが、するりと体をかわし、どうしても捕まえられないのだ。

「マルコス王子、こちらですわ」

 次第に額に汗がにじみ、その表情から笑顔が消えていく。

「いい加減にしろよ。僕の気持ちが変る前に降参した方がいいんじゃないか?どうせハドソン王子だけじゃ、こんな国など簡単に僕の物になってしまうんだからな」

 イライラした表情を隠そうともせず、ドレスの裾をわしづかみにして怒鳴った。

「ふふふ。捕まえた。これ以上僕を困らせたら、あとでひどい目に会うぞ!大人しく僕の物になれよ」

 ミシェルのあごを乱暴につかみ、マルコスは覆いかぶさろうとした。

「うわぁぁぁ!!ああ、失礼!いやぁ、申し訳ありません」

 黄色いバラの花束をマルコスの頬に押し当てて、男が倒れこんできた。

「これは!マルコス王子さまではございませんか。もうしわけございません。」

 土下座して謝る男にマルコスは目を血走らせた。


「ははぁ。王子様にこの花束を届けるように、そこにいらっしゃるレイチェル様から言われておりまして」

 マルコスはシルクのハンカチで頬に伝う血を押さえながら、ミシェルを振り返った。

「ええ、そうですの。黄色い薔薇の花言葉をご存知?」

 マルコスはやや気をよくした様子で答える。

「花言葉? 愛の告白かい?」


 ミシェルは微笑みながら近寄り踊るようにマルコスの腕を取ると、軽やかに投げ飛ばした。

「何をする!」

砂を払っていきり立つ王子にもう一度近づくと、今度は軽く足払いをした。

「王女である私にこんなにも簡単に倒される王子さまの国が、そんなに強いのかしら?」
「なんだと!」

 つかみ掛かるマルコスの腕を片腕でねじ上げ、なおもやさしい微笑を浮かべてミシェルは言う。

「マルコス王子。もっと痛いのはお好き?」

 その細腕に力がこもると王子はうめき声を出した。

「だ、だれか! この女を!」
「だれも来ませんわ。ここはザッハードではないのですから。それに、あんなに優しいお妃さまがたを離縁なさって、貴方に王子としての居場所はあるのかしら。王家の結婚はそのまま国交の象徴でしょう?アーノルド王は認めていらっしゃるのかしら?」

 マルコスの顔は次第に青ざめた。

「僕を脅すのか?」
「あら、脅していたのは王子様のほうではありませんの?」

 さきほどの男が立ち上がった。

「レイチェル王女様、今日のところはその辺で許してあげてください。男としての面目は充分つぶれてしまったでしょう。今頃は、ハドソン王子もアーノルド王との会談を無事に終えられているでしょうし。」

 ちらっと見上げた男の目が「やりすぎだぞ」と語っている。ミシェルはそれには答えず、マルコスの腕を放すと、静かに言った。

「今日のことは、聞かなかったことにして差し上げましょう。ですが、お忘れにならないでください。どんなに恵まれた境遇に生まれ落ちたとしても、それはあなた自身の功績ではないのです。あなた自身の功績は、これからご自分の手で築き上げていかなければならないのです。アーノルド王はご立派です。貴方にもその素質はあると思いますよ。さようなら、マルコス王子。」

 ミシェルはそのまま宮殿に帰って行った。マルコスが呼び止めても振り向く事もなかった。救いを求めるマルコスの視線に男は静かに言う。

「王子、王たるものがしなければならないことが何か知っているか?今からすぐザッハードに戻って、アーノルド王に教えを乞うんだな。それと、まだこの国を狙うというなら、お前の命なんぞあっという間に俺が奪ってやるぜ。」

 男もまた、さっさとバラ園の中に消えて行った。一人残ったマルコスは白い衣装についた砂埃を払い、だまって黄色い薔薇の花束を見つめると、深いため息をついた。そのまま宮殿の中央玄関までぼんやりとした様子で向かう。近衛兵がどうしたものかとおろおろしている中を進み、乗ってきた馬車に乗り込んだ。王子の変りように戸惑いを見せながらも、ザッハードの近衛兵たちは一礼して馬車に続いた。

 入れ違いに入ってきたのはハドソン王子の一行だった。隣国への挨拶を終え、少しずつ自信をつける王子は著しく成長していた。
 ロザーナから事の次第を確認したハドソンは満足げに頷くと、すぐさまミシェルの部屋に向かった。

「レイチェル王女、私だ」

 扉を開けると、嬉しそうな笑顔が飛び込んできた。






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最終更新日  September 3, 2010 04:00:11 PM
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