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May 4, 2022
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カテゴリ: REALIZE2
第3章 アクシデントで知る想い

 先の御者が言った通り、別の御者がやってきた。次の目的地は東の最果て、以前の王国があった場所だ。そこまでは数日かかるため、食料を多めに積み込んで出発する。

 フォリナー侯爵領を出て2日が過ぎた。馬車は牧草地を通り過ぎ、森を抜け、美しい湖のほとりに到着した。馬車の中ではハワードによる昔の王国についての講義が続いていた。馬車が止まったことで、いったん講義は中断し、テントを張る。この辺りはすでに魔素のないエリアなので魔術は使えない。それぞれが荷台から木箱を運び、自分のイスとして使う。焚火を囲んで食事をとり、旅の予定などを話し合った。
 ヒカルはちらちらとハワードの様子を盗み見るが、まるでなんでもないような素ぶりだ。すっかり辺りが暗くなると、それぞれがテントに落ち着いた。一日中馬車に揺られているのも案外疲れるものだ。その日も4人はぐっすり眠っていた。
 しんと静まった真夜中に、コトリコトリと小さな足音が去っていくのを聞いて、リッキーが飛び起きた。テントを出ると、馬車が森の向こうに去っていくのがかすかに見えた。御者のテントも片付けられている。どうやら御者の持ち逃げらしい。

「ちくしょー、連絡がないのはおかしいと思っていたのに」

 すぐさまほかの3人を起こして事の次第を告げる。食料も水も着替えも、すべて馬車の中にある。手元にあるのは朝食用の食料と当面の路銀だけだ。旅の疲れが出ているヒカルもすぐには魔力を出せそうになかった。

「仕方がないですね。 こうなったら、朝までゆっくり休んでから行動しましょう」

 翌朝、朝食をとると、ヒカルはすぐさま王宮に連絡を取ろうと試みた。しかし、どういうわけか繋がらない。4人がじっと水晶玉を見つめていると、微かな反応があり、シルベスタらしき声で、今はこちらに来ない方がいいだろうとそれだけが聞き取れたきり、途絶えてしまった。


「そうね。だけど、これじゃあ私たちもすぐには帰れないわ。」

 ハワードは枕元に置いていた手帳を取り出して、何やら調べている。

「ありました! もう少し北に行けば民家があるようです。ただ、馬車がないので、たぶん2,3日歩くことになりそうです。」
「それじゃあ、目に留まった果物なんかは収穫しておいた方がよさそうだな」
「私も気を付けておくわ」

 ハワードの言葉に、リッキーとベスも腹をくくった。


 馬車で通った道を、テントを背負って歩く。木漏れ日が気持ちいいと思っていたが、合間に差し込む鋭い日差しがきつい。木々の間からは羽虫が飛び出し、足元にはぬかるみもあった。

「ヒカル、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。歩いた分だけ進んでるんだもん。頑張るしかないよね!」

 時々かかるハワードの声に、懸命に答えるヒカルだったが、夕方にはすっかりおとなしくなっていた。

「大丈夫、ですか?」


 テントを張って一日目をやり過ごしても、夕食は途中で見つけた果物ぐらいだ。そのまま倒れるように眠りに落ちて、翌朝もテントを背負って歩き出す。

「雨が降ってないだけマシ、獣が襲ってこないだけマシ、…」

 呪文のようにヒカルがつぶやく。今朝、近くにあった小川で水を汲んで以来、水分を補給できる場所が見当たらなかった。歩いた分だけ汗は吹き出し、先ほどから頭痛がしている。それでも、前に進むしかないのだ。

「ちょっとここで待ってて。水の音がするから、水筒に汲んでくるよ」

 リッキーがみんなの水筒を集めて、生い茂る熊笹の中に分け入った。残った3人が座り込む。みな同じく脱水症状で苦しそうだった。


 しばらくすると、リッキーが明らかに先ほどとは違う確かな足取りで戻ってきた。両手に4人分の水筒と、果物を抱えている。

「とりあえず、水分補給をしよう。落ち着いたら、一緒に来てくれ。うまくいけば魚が採れる。」

 4人は一斉に水を飲み干し、しおれた植物が持ち直すように、元気になった。

「では、私がお供しましょう。ヒカルとベスには、魚を焼く場所を作ってもらうのはどうでしょう」
「そうだな。あんまり離れ離れにならないようにして準備してくれ」

 二人が川に向かうと、ベスとヒカルはもくもくと大き目の石を並べて魚を突き刺せそうな枝を準備した。気が付くとリッキー達が袋に魚を詰め込んで戻っていた。枯葉を集めてなんとか火をつけると、枝で突き刺した魚をあぶる。

「リッキーってすごいね。やっぱり軍人なんだなぁって、思ったよ」
「なんだよ、ヒカル。今まで俺を何だと思ってたんだ。これでも王女様専属の騎士なんだぞ!旅に出る前には団長からいろいろ教わってるんだ」

 空腹が満たされると、みんな朗らかになる。お互いの笑い声で元気になって、再び歩き出した。

「もう少しだと思われます。ヒカル、頑張ってください」
「うん、頑張るよ。」

 再び山道をもくもくと歩く。リッキーが先頭を切って歩きながら、余計な草を薙ぎ払っているが、それでも笹の葉や古い枝に当たって小さな傷が絶えない。日が傾いて、そろそろテントを張る場所を探そうと言う頃、木々の間から明かりが見えた。

「小屋ですね。あそこまでがんばりましょう」

 ハワードに促されて、みんなは小屋を目指して歩き出した。先に小屋まで駆けて行ったハワードがドアをノックすると、窓の明かり揺れて、ゆっくりとドアが開けられた。出てきたのは足の悪い老人だった。夕暮れ時に突然やってきた4人組をいぶかし気に見つめている。

「私たちは旅の途中で、悪い御者に荷物を馬車ごと奪われて、ここまで丸2日歩き詰めなんです。急にやって来て申し訳ないのですが、どうか少しの水と食べ物を譲っていただけませんか?」

 老人はハワードの言葉を聞いても、じっと4人を睨みつけていたが、ふとヒカルがぐったりしているのに気が付いて、「入れ」と招き入れた。

「その娘は熱を出しているのではないか?」

 言われて初めて気が付いたのか、ベスがヒカルの額に手を当てて驚いている。

「奥の部屋で寝かせると良い。付き添いの娘も一緒に休めばいい。男たちはわしと一緒にこっちのかまどの前で。まあ、テントで寝泊まりしていたなら、似たようなもんだ」
「ありがとうございます。とても助かります。」

 老人に促されて小屋に入ると、疲れが一気に押し寄せた。

つづく





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最終更新日  May 4, 2022 07:48:53 AM
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