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May 19, 2022
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カテゴリ: REALIZE2
翌日、アイスフォレスト王国に帰るなり、厨房を借りて久しぶりにプリンづくりをしていたハワードは、ヒカルの習い事の隙間に、プリンを持ってやってきた。

「王女様、久しぶりにプリンを作りましたので、お持ちしました」
「プリン?まあ、久しぶりですね。 では、ハワードさんも一緒にいただきましょう」

 ヒカルは侍女に合図して、紅茶を持ってこさせると、席を外すように指示した。

 相変わらず、プリンを目の前にしたヒカルの瞳は輝いているが、あの屈託のない表情は見られない。

「ハワードさんのプリン、やっぱりおいしいです。だけど、どういう風の吹き回しですか?」

 いたずらっ子のような表情でハワードの瞳を覗き見るヒカルは魅惑的だ。ひとさじスプーンですくいながら、ハワードは観念したように語りだした。

「あの旅の途中で、私がふさぎ込んでいるとヒカルにはずいぶん心配をかけてしまいました。あの時は、ヒカルに人間のドロドロしたものを聞いてもらいたくないと言いましたが、本当は子供らしくプリンを見つめて笑っていたあの頃のヒカルを自分の中にとどめておきたかったのだと思います。あの時決心したのです。こちらに帰ったら真っ先にプリンを作ろうと、そして、ヒカルに食べてもらってあの子供らしい笑顔を堪能したいと。だけど…」

 少し寂しげにも見える水色の瞳が、じっとヒカルを見つめている。


「そうでしょうか? 今でもハワードさんのプリンは、私の最高の癒しですよ」

 ヒカルが眉を下げ、申し訳なさそうに見つめると、ハワードの瞳に日が差したように幸せがにじむ。

「以前言えなかった話を聞いてもらえますか? 私の異世界での家族の話です。」
「聞かせてください」

 水色の瞳が、まっすぐにヒカルを捉えていた。ヒカルは姿勢を正してその瞳に答えた。

「私はカリフォルニアのごく普通の家の子どもとして生まれました。前にも言いましたが、年の離れた弟がいます。父とも、母とも似ていないこの水色の瞳は、私と弟だけの色なんです。
街でスカウトされて、俳優になって、家族は反対するどころか、自慢の息子だと喜んでくれていました。ですが、映画に出るようになって、大金が家にはいるようになると、徐々に大人たちの生活は変わっていきました。
父はギャンブルに狂い、母は現金を持ち逃げして行方不明です。そのせいで弟も心がすさんでしまって…。心配しても、スケジュールは過密でなかなか家に帰れない日々がつづきました。
 やっと帰ってきたら、弟が金を要求してくるようになっていました。一番安心できるはずの家庭は無残にも崩壊いてしまったのです。あの時、ウェリントン公爵領でベランダにいたのは、懐かしい波の音がしていたからなんです。自宅でも不安なことがあるといつもベランダに出て、波の音を聞いたりしていたので…。そんな時、ヒカルがやってきたので、なんだかみっともない自分が見透かされそうな気がして、逃げ出したんです」

 ヒカルはそっと席を立ち、向い側に座るハワードの隣にやってきた。そして、その悲し気な顔を両手で包んで、自分の胸に抱き寄せた。

「不安だったでしょう。だけど、親のしたことで自分が恥じることはないと思います。親の身勝手を子供がどうこうできる物ではないですから。私の母も、物心つく前に男の人と出て行ったそうです。友達のお母さんたちが噂していたので知っていました。お父さんは隠しているつもりみたいだけど。だけど、ハワードさんも、私も、こうして真っ当に暮らしているじゃないですか」




 いよいよアランの結婚式当日となった。淡いピンクのジョーゼットを重ねたドレスはその花びらのようなスカート部分のふちに輝く小さなラインストーンの粒が連なり、結い上げられた髪にはハワードの瞳とそっくりのアクアマリンの髪飾りが輝いている。これはハワードからずいぶん前にプレゼントされたものだ。それに合わせてイヤリングもチョーカーもアクアマリンでそろえている。

 着付けを終えて、鏡の前で確かめていると、ドアがノックされてハワードがやってきた。今日のヒカルのエスコート役を、アランから指名されてきたのだ。その服装は、ところどころにシルバーが入ったシックな燕尾服で、胸にはピンクのジョーゼットのチーフが刺さっている。
 部屋に一歩入った途端、淡いピンクのドレスを着た愛らしい姫君に言葉を失う。

「王女様、お迎えに参上致しました。本日はアラン王太子殿下のご指名をいただき、王女様のエスコ―ト役をさせていただけることになりました。恐悦至極にございます」

 ベスは早々に支度を片付けて、他の侍女を下がらせた。


「ベス、ありがとう。あなたも急いで着替えてきてね。ぎりぎりまで手伝わせてごめんなさい。」

 ベスはふふふと笑って、「では、式場で」と言って下がった。

「ヒカル、今日もとっても素敵です。」
「ハワードさんもね」

 ではっと、ハワードが腕を出すと、ヒカルがそっと手を添えて式場へと歩み出した。


つづく





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最終更新日  May 19, 2022 09:15:41 AM
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